綿菓子雲
陸上競技場の片隅
階段から吹き上がる風
夕刻三時
太陽に灼かれた山肌の香りが運ばれてくる
スタートを切る火花 バトンが手渡され
走る時のその無心に追風0、4メートルが背中を押す
風、風、吹いて吹いて 渦を巻く
トラックいっぱいの風、渦を巻く
空には綿菓子雲が大きく大きくなっている
ただ差し出され、ただ握り締められた割り箸に
ただ風が吹いて、ただ夏の熱に溶かされて
浮遊するザラメの万物が流れ、流れて、渦を巻く
引力にのまれてしまった闇の向こうにまた光の渦
手放そうとしたバトン、まだ握り締めて
車輪のように廻る脚、駆ける足
空には綿菓子雲が大きく大きくなっている
母雲船が近づいて
蝉時雨が夕立が駆け抜けてゆく
何かが動くから わたしもうごいているみたいに
心の臓器から、心の器へと、さらさら、ザワワと
波紋が生まれる、波紋が繋がる、波紋が広がる
空には綿菓子雲が大きく大きくなっている