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念願のお泊りデート

 桜の季節は新学期で彼女が何かと忙しく、ゴールデンウイークもうまくお泊りの予定が作れなかった。

 秩父で満開の芝桜を見た帰り道、僕は食事をしながら、夏休みの計画について彼女に提案をした。

 彼女と休みを合わせて、ハワイは無理でも、沖縄とか、十分に設備の整ったリゾートでリラックスした休日を過ごしたい。


「ごめんなさい。今年の夏休みは家族で旅行に行こうって、前から約束していたの」

 

 それでも、僕は、カレンダーとにらめっこをしながら、やっとのことで、夏休みのピークを少し後ろに外した時期に、一泊二日で温泉旅行に行くことを決めた。

 


 峠は越えたとはいえまだまだ残暑の厳しい八月の終わりの週末に、僕は父に借りたクルマに爽子を乗せ、伊豆に向かっていた。

 渋滞に巻き込まれることもなく沼津インターで高速を降りた。沼津といえばやはり駿河湾の海の幸、海鮮丼のおいしそうなお店を探して少し早めのランチを取った。駿河湾の美味しいものを全部乗せした丼を前に、二人ではしゃぎながら写真を撮った。


 昼食後は一路伊豆半島を南下、まだチェックインには多少早い時間だったので、少し足を延ばして演歌にも歌われた滝を見に行った。

 

 理科の先生の彼女曰く、プレートテクトニクスという理論があるそうだ。

東日本は北アメリカ・プレート、西日本はユーラシア・プレートという二つのプレートの上に乗っかっているのに、この伊豆半島だけがフィリピン海・プレートという別のプレート上にある。伊豆半島はプレートに乗って小笠原諸島の方から移動してきて、日本列島にめり込んでいるんだそうだ。

 この衝突が、東日本大震災や南海プレート地震の発生原因になっているのだが、一方で、この滝も、そんな悠久の地球の地殻活動がもたらした景観ということになる。

 

 それはそれとして、僕たちは地球規模の大地の移動から見れば、ほんのちっぽけな恋人同士、この刹那を十分に楽しむべく、豪快に水しぶきを上げて流れ落ちる滝に歓声を上げ、何枚も写真を撮った。


 食事と観光を満喫して、午後四時を少し回ったころに僕たちは伊豆・修善寺の旅館にチェックインした。

 僕がインターネットで調べまくって決めた宿だ。部屋は八畳の和室に、ふすまで隔てられた寝室にダブルサイズのベッドが置かれている。

 

 眼下を流れるせせらぎの瀬音が聞こえる窓際の板張りのスペースにはテーブルセットが置かれ、センス良く和テイストでまとめられた部屋は、僕たちの初夜にふさわしい。

 この旅行は、そしてこの一夜は、きっと僕たちの良い思い出になる、僕はそう確信していた。


 さっそく浴衣に着替えて温泉に入ることにした。

 宿の女将からは、「貸し切りにできる露天風呂があるのでお二人でいかがですか」と勧められた。僕はやぶさかではなかったが、爽子が「無理、無理」と顔を赤くして抵抗した。

 

 それぞれ温泉で疲れを癒した後は、宿のお食事処で、伊豆の海の幸や、旬味あふれる山菜など山の幸をふんだんに使用したこの宿お勧めの御膳を堪能した。

 

 ここまでの爽子は終始上機嫌で、心からこの二人の初めての旅行を楽しんでいるようだった。僕としても、多少無理して彼女を誘って旅行に来てよかったと思っていた。


 二人して部屋に戻ると、もう少し飲もうかという話になり、窓際のテーブルに落ち着き、缶ビールで乾杯した。窓の外からは、瀬音に交じって虫の音が聞こえる。


 雰囲気は申し分ない。ここまでは完ぺきだった。

 ここまでは…

 


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