進まぬ仲
爽子からのアプローチで始まった交際だけど、あの公園の一件以降、僕はすっかり爽子に夢中になった。
バレーのコーチの約束などどこへやら、僕たちはデートを繰り返した。
そして、僕は、爽子とより深い仲になりたいと強く思うようになっていった。率直に言ってしまえば、彼女と身体の関係を持ちたいということだ。
僕はこの九月で二十九歳になった。爽子は二歳年下の二十七歳。僕たちは、一般的に結婚適齢期と言われる年齢に差し掛かっていた。
将来のことを考える上で、二人の相性を見極めるためにも、僕はなるべく早くステップを進めたいと思っていた。
ところが、僕の思いとは裏腹に、二人の仲はなかなか前には進まなかった。
まず、互いの住まいと職場が遠いという制約がある。電車に乗ってしまえば一時間足らずではあるが、会いたくなったら「じゃあ会おうか」というわけにもいかない微妙な距離だ。
平日の夜にディナーを一緒したり、映画に行ったりという普通の恋人同士の楽しみは、互いの仕事が多忙なこともあり、前もってスケジュールを調整しなければならない。僕たちは遠距離恋愛もどきの恋愛をしていた。
彼女も僕も自宅住まいのため、どちらかの家にお泊りデートというわけにもいかない。
土、日のどちらかに、日帰りで僕が彼女のところに出向くことが多かったが、適度に田舎な彼女の地元では、小学校の先生である彼女はそれなりに知名度がある。どこにPTAの眼があるかもしれず、彼女はいつも周囲を気にしていた。
でも、二人の仲が進展しない一番大きな理由は、僕の心理的なものだった。
身体目当ての男、がつがつした奴と思われたくない。
今迄の女性とは違う、心から大切に思っている爽子とのことだ。ラブホテルでなんて論外だ。事前合意の上で、ちゃんとしたホテルを予約しなければならない。
幸いなことに、日本にはクリスマス、バレンタインデーという、恋人たちにとって実に都合の良いイベントがある。
クリスマスディナーを都心のホテルで、と彼女を誘ってみたが、この時期、小学校の先生は終業式に向けて何かと忙しいらしい。イブ直前の週末が三連休だったのだが、山上家は、クリスマスは家族でパーティをするのが恒例になっているという。
バレンタインデーは、年度末に向けて僕の仕事が多忙になり、折悪しく海外出張も入って、お泊りどころか会うことすらできなかった。
二月十四日には、爽子から一目で手間がかかっていると分かる手作りのチョコレートが届いた。妹は、いよいよ兄貴もかと大騒ぎしながら、結局僕の大事なチョコレートを半分くらい食べてしまった。
夜祭りだの、初詣だの、渓谷の氷柱だのと、冬の間も何度かデートはした。でも、当たり前だけど冬は寒い。さらに彼女の地元は都心よりも体感温度がかなり寒い。完全アウェイのアウトドアでは、あの公園以来、睦みあうような機会も十分作れずに、時が過ぎていった。
一方の彼女はというと、最初の頃のあの積極性が嘘のように、キスを交わすだけのデートに大いに満足しているようで、二人の時はいつも本当に楽しそうだった。
そんな彼女を見ていると、僕まで楽しくなってくる。彼女のその笑顔を壊してしまうことが怖くて、僕はますます慎重になった。
そして、彼女と会うたびに、僕の心に鬱屈した不満が澱のように蓄積していった。




