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家庭訪問

「お嬢さんと結婚を前提にお付き合いをさせてください」

 豚まんさんを撃退し、返す刀で私の家を訪れた豪くんは、惚れ惚れするくらいに型通りの所作でという昭和なプロトコルをやってのけた。

  

 それでも愛娘を奪われる心境の父は、容易には「はい」と言いたくなかったのだろう。突っかかるような言い方で豪くんに迫った。

「うちの娘は小学校の教師で、PTAの眼もあって、結婚するといったって、順序というものがある。もし、その、もしできてたら、君はどうするんだ。君の親御さんは、どういっているんだ?」

「早く孫の顔を見たいがうちの両親の口癖で、喜んでくれています」と豪くん。

 わ、産んでいいんだ。私の胸を熱いものが濡らした。


「それにしたって、嫁入り前の娘だ。妊娠とか、そういうことに気を遣うのは、当然の男のたしなみだろう」

「そのことについては誠に申し訳ありません。ホテルに備え付けの避妊具が二個しかなくて、三回目をつい…」


「まあ、三回も!」と言いかかった母が、あわてて右手を口に当てた。

 本当は私が胴締めしたせいなのに、そのことは伏せてくれた。重ね重ねありがとう、豪くん。


 豪くんは商社の営業だから、我が家の父のような中小企業の社長さんの接待はお手の物なのだろう。夕食を終える頃には、父と豪くんはすっかり意気投合し、父は秘蔵のブランデーを豪くんのグラスに注ぎながら、「娘をよろしく頼む」と繰り返した。

 

 珍しくお酒が進んだ母は、私にだけに聞こえる小さな声で言った。

「あんたも良くやるわね。作戦通りなんでしょ」

 

 さらに豪くんに向かってとんでもないことを言い出した。

「豪さん、あなたはね、うちの娘にひっかけられたのよ。分かってる?」

 お母さん、どっちの味方なのよ、勘弁してよと心の中で悲鳴を上げたが、ここは沈黙は金、あえて言い訳はしないでおいた。


 ちょっと頭の軽い大学生の弟とは、彼にとんでもない質問をし始めた。

「うちの姉ちゃんとのエッチって、そんなにいいのか」

「そりゃもう、あの時の声がたまらなくて」と豪くん。

 私とのことの下ネタで盛り上がる始末で、思わず私は本気で二人の頭をはたいてしまった。

 

 我が家が笑い声で満たされた。私が生きる死ぬレベルの悩んでいたことを一日で一気に解決してくれたばかりか、我が家にこんな家族団らんまで運んできてくれた豪くんに、私は心の底から感謝し、この人と絶対一生一緒にいようと固く決心をした。


「今日はもう遅いから泊まっていきなさい」

 父が豪くんに泊まっていくように勧め、彼が「はい」と頷いた。


 え、ということは、今夜は、もしかして…

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