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情欲の一夜

 爽子の告白が終わると、僕たちはベッドに移動するのももどかしく、そのままソファの上でそのまま身体を繋げた。

 僕が彼女の中に入ったとき、彼女はびっくりしたような、大きな声を上げた。


「ごめんなさい、すごく久しぶりなの」

 

 僕は彼女を愛おしいと思う気持ちでいっぱいになった。


「だから、気持ちよくなるまでに少し時間がかかっちゃうと思うの」と、恥ずかしそうに言う彼女の、その身体をしっかりと抱いきしめて、座ったままの姿勢で腰を弾ませた。

 九年前と同様、最初は全くかみ合わなかった二人が共振し始めると、彼女は自らの予想に反して早々に嬌声を上げ始めた。

 

 彼女を愛しながら、僕は酸素が欠乏してよく回らない頭で情況を整理した。

 九年前のことが判明した今でも、僕はそれを理由に彼女と別れるつもりにはならなかった。

 あの伊豆の一件に関しては、当初こそ「舌を噛んで死んでしまいたい」くらいに思ったが、時間が「野良犬に噛まれたと思って諦められる」程度の思い出にしてくれた。

 むしろ、女性に幻想を抱かなくなったおかげで、初対面の女性とも自然体で話せるようになったし、一夜にして二人の女性を経験をしたことは、男性として確かな自信にもなった。

 そうして千丈の谷底から這い上がった僕にちょっとしたモテ期も到来した。

 

 でも「もう怒ってないよ」「あのことは言いっこなしにしよう」などと今の僕の気持ちを伝えたところで、「最後に、今夜だけ」などと口にするくらいだから、彼女の罪悪感は容易に消えないのだろう。

 

 それならば、九年前のあの一夜のメモリーを全部上書きして消し去ってしまうような、今夜をそんな激しい一夜にしてしまえばよい。


 僕は爽子がまだ申し訳程度に身に纏っていたガウンを剥ぎとると、彼女をベッドに誘った。

 

「爽子、好きだよ。大好きだ」

 僕は、ベッドの上で無防備に裸身をさらす爽子を、さらにみだらな角度に開いた。


「言っておくけど、エッチの時のリップサービスじゃないよ。本当に、何でこんなに好きなのか、自分でもわからないほど君のことが好きなんだ」

 

 僕は爽子の奥の奥まで侵入した。すっかり熟した彼女は僕をするりと飲み込むと、大きな声を上げて身体を痙攣させた。

 僕たちは、ようやく、身も、心も、一番深いところで繋がることができた。


 それからは、たがが吹き飛んでしまったとしか言いようのない。ヒトがヒトになる前の、脳の奥の方から湧きあがる動物としての本能、その情動のなすが儘に僕か彼女の身体に挑んだ。

 彼女がいただきに至る、その大きな波のすぐそのあとに、また大きな波がやってくる。

 それがもう何度目かわからない絶頂に駆け上がろうとする彼女に、僕は残された体力のすべてを絞りだした。

 強く抱きしめ合って押し寄せる快感に身を震わせた僕らは、河原に打ち上げられた丸太のような深い眠りに落ちた。


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