彼女の告白2
それからの爽子の話は、僕をさらに仰天させるものだった。
爽子は、僕の大学のバレーボールの試合を見に来たことがあるそうだ。
「豪くんの大学のバレー部のSNSの選手紹介ページで、豪くんの名前と写真も見つけたの」
試合日程も調べて、秋のリーグ戦を見つからないように観客席の一番隅っこで観戦したそうだ。
「その試合で、あなたは、二年生なのに、エースとして躍動していた。本当にすごいと思った」
その試合を見て、爽子は、自分も変ろうと思ったそうだ。猿じいたちのグループから距離を置き、遊びも止めた。内部進学を止めて受験もし、大学では教職を取って小学校の先生になった。
「もう一度豪くんみたいな人に出会うことができたら、今度はちゃんとそばにいられるような、そういう人になろうと思った。私が変れたのは豪くんのおかげ、今の私があるのも豪くんのおかげなの」
確かに外観は様変わりしているし、牛姫のことはあまり記憶に残っていないことも事実だ。
でも、雰囲気が変わったというレベルではない、僕がかろうじて覚えている「牛姫」を、爽子という女性からは全く感じられなかった。それくらい彼女は変わっていたのだ。
それが、僕のため、僕のおかげというのであれば、それはもう、男として本望じゃないか。
ん、体育館で? もしかして、体育館で会ったのも、偶然ではないのか。
「ううん、あれは本当に偶然、でも、私はひと目で豪くんだと分かったよ。ずっと思い続けてきた人だもの。もう会うことはないと思っていたのに、これは奇跡と思った。神様が会わせてくれたと思った。こんなことは一生に一度、だからこのチャンスを絶対に逃しちゃいけないと、勇気を振り絞ったの」
そんな偶然って、あるもんなんだな!
「それで、とんとん拍子で豪くんとお付き合いできるようになって、本当に夢みたいで、楽しかった。でも、絶対に私があの時の牛姫だってばれちゃいけない、ばれたら絶対にフラれると思っていたから、それはそれで苦しかった」
過去を隠している自分に自己嫌悪し、何度か正直に打ち明けようとした。でも、結局今の幸せを失うのが怖くて、先延ばしにしてしまったそうだ。
「でも、さすがに、抱かれたら気が付かれてしまうと思った」
確かに、左胸の星型のほくろを見つけたり、最中にボディシザーズをされたら、多分気が付いただろう。
「あの時は思いっきり絞めちゃってごめんなさい。私、あんなに気持ちよくなったこと初めてで、自分でもあんなことをしちゃうなんて、全然思ってもいなかった」
「胸のほくろとか、あの時の声とかは、部屋を真っ暗にして、声を出さないように我慢すれば大丈夫と思ったけど、いざ豪くんと肌を触れあわせたらすごく気持ちよくって、このまま最後までしちゃったらきっと自分を忘れてしまいそうで、急に怖くなって、つい突き飛ばしてしまったの」
あの後、高校時代の悪友と飲みに行くと知って、僕は気が付かなくとも、事情を聴いた御堂か小幡が先に気が付いてしまうかも、これはもう潮時だと思って覚悟を決めたそうだ。
「あんなひどいことをして、それを隠して付き合ってきた。許してもらえるとは思っていない。正直に打ち明けて、一度だけ抱いてもらって、それで終わりにしようと決めたの」
爽子は僕の肩に回した手に力を込めた。
「今夜だけでいいの。最後に、愛して」