真夏のから騒ぎ
大学二年の夏、僕は高校時代のクラスメートの御堂と小幡の三人で海水浴に行った。
御堂はとにかく面倒見が無駄に良い奴で、大学に入ってもバレーばかりやっている僕を心配してくれていて、「豪を童貞から卒業させる」が当時の彼の口癖だった。
高校の頃からめっぽう女性に強かった御堂はもちろん、小幡も大学生になってすぐに筆おろしを済ませていた。僕だって、別に守っているわけではない、もちろんチャンスさえあれば経験したいとは思っていた。
一学期が終わり夏の練習が始まるまでのつかの間のオフに、僕は、御堂に誘われるままに、三人で一泊二日の伊豆旅行に出かけた。
伊豆までは、早々に運転免許を取得した御堂が家のクルマを出してくれた。宿は伊豆今井浜の海水浴場から車なら三分、歩いて坂を上ると十五分ほどの、林に囲まれた丘の上のペンションだった。まだ建てられてそれほど経ってはいないのだろう、白を基調とした外観も、内装も清潔できれいだ。
夕食は食堂で夜七時からと決められていた。
七つあった部屋は満室で、うち五室の宿泊客は、今日初めて二人で一夜を過ごします的な大学生から三十代半ばくらいまでのカップルだった。
ダイニングにはカップルたちが醸し出すなんとも言えない緊張感が漂っていた。そんな雰囲気を、空気を読まない一人の女性の声がぶち破った。
「ねえ、あのテーブルの人たち、もう一回すませてきましたって感じじゃない?」
どうやら彼女の見立ては正解だったようで、僕らの隣の席の男性が眉を顰め、女性は顔を赤く染めてうつむいていた。
声の出どころは僕らと同い年くらいの女性三人組だった。一人はかなり美人、あとの二人もまずまず、こういう時はやたらとフットワークの軽い御堂が早速駆け寄って話しかけている。
昼間ビーチで散々ナンパし、何組かの連絡先も確保していたが、どうやらこっちに乗り換えるつもりらしい。
交渉が成立し、一時間ほど後に、女性三人が僕たちの部屋に訪ねてきた。僕らはクーラーボックスから、今しがた買い出ししてきたビールやサワーを取り出し、乾杯をした。
乾杯の後の自己紹介で、まず一番美人の彼女が「猿じいです」と名のった。続いて、小柄な子が「猫娘」、ややぽっちゃり目の子が「牛姫」と自己紹介をした。どうやら旅先でたまたま出会った僕たちごときに、個人情報を公開する気はさらさらないようだ。
「普段から、その名で呼び合っているの」と小幡が尋ねると、猿じいと名のった美人が、ルックスに似合わぬ大胆発言で、我々の度肝を抜いた。
「この子はね、イクときに『もおー』っていうの。だから牛姫。猫娘は、エッチの時に背中に爪を立てるから気を付けてね。あ、でも、自分のお股をなめられるくらい身体が柔らかいから、どんな体位もOKよ」
それを受けてすかさず猫姫がやり返す。
「猿じいはね、オナニーしはじめると猿みたいに止まらなくなるんだよ」
キャハハと笑い合う女性陣に、我々は唖然として顔を見合わせた。
宴の主導権は、完全に女性陣に握られた。御堂、小幡と立て続けに自己紹介を滑った後で、僕の番になった。
どうかっこつけても無駄と思った僕は、素直に「廣丸豪です。女性を知らないまま、先週二十歳になりました。よろしくお願いします」とあいさつした。
「うけるー」と猿じいが手をたたいた。
「よし、誕生日のお祝いに、今夜はお姉さんが筆おろしをしてあげよう」
あっさりと僕の卒業に当確ランプがつき、御堂が親指を立てて僕に微笑んだ。