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淑女豹変

 翌日の土曜日、僕は、西新宿の高層ビルの上層階にあるレストランで爽子と会った。


 以前親族の集まりで利用し、顔見知りになったマネージャーが気を利かせて窓際のテーブルに案内してくれた。

 このレストラン自慢の美しい夜景が一望できるが、もちろんそれを楽しむ余裕などない。食事が目的でもないので、コースではなく、アラカルトでサラダと軽食メニューの中から腹持ちがしそうなものをグラスビールと一緒にオーダーした。


「久しぶり、元気だった?」

「うん、そちらも変わりない?」

 

 定番のあいさつから始まり、グラスビールで乾杯した後、彼女の話は、とりとめのないここ一か月分の近況報告に終始した。

 「話がある」と呼び出しておきながら、爽子はなかなか核心に触れてこない。じれったい、じれったいけど、彼女の口から決定的な言葉が出るのが怖くて、僕はあえて彼女に口を挟まなかった。

 

 そして、時間だけが無為に過ぎていった。

 やがて、いつも彼女が帰宅に使用する特急電車の発車時刻が近づいてきた。どうやら二人のこれからのことについては、結論が先延ばしになりそうだ。

 その事実に、少しほっとしている自分がいた。


「そろそろ電車の時間だろ。駅まで送るよ」と彼女を促し、会計を済ませた。

 

 二人の乗ったエレベーターが一階に着いた時だった。


「今夜は帰らない!」


 爽子はそう言うなり、通りに走り出てタクシーを止めた。僕はあわてて彼女の後を追った。

 彼女は運転手さんに行先を告げた。

「ラブホテルまで行ってください!」

 

 唖然とする運転手さんに、とりあえず僕は新宿駅東口のラブホ街からほど近い病院を行き先に指定した。

 

 十分後、僕たちはラブホが立ち並ぶ新宿の歓楽街にいた。

 一体彼女が何をしようとしているのか、僕は訳が分からなかったが、とにかくここは彼女の言うとおりにしようと決めた。

 きらめくネオンサインを見比べながら、どこへ入ればよいのか戸惑う彼女を、僕はその辺りで一番よさげなホテルにエスコートした。


 土曜日の夜だけあって、空き部屋を示すパネルの灯りはほとんど消えていたが、少し料金が高めでそれなりに良さそうな部屋が一つだけ空いていた。

 案内に従って部屋に入りった。いかにもラブホテル然としたマリンブルーを基調とした室内に、これまたラブホテルっぽいキングサイズのベッドがどんと置かれていて、その側にソファとTVセットが備え付けてあった。


 未だに狐につままれたような気分の僕は、彼女に勧められるまま、部屋とは不釣り合いに大きいバスルームで簡単にシャワーを済ませると、備え付けてあったガウンを羽織って部屋に戻った。

 入れ替わりで爽子がバスルームに消える。僕はソファに座り、緊張を紛らわすべく見るとはなしにTVを見ながら、彼女の戻りを待った。


 十五分ほどで、爽子が僕と同じガウンを羽織ってバスルームから姿を現した。

 彼女は黙ってリモコンを取り、TVを消すと、僕の前で膝立ちになった。

 驚いたことに、爽子はガウンの下には何も身に着けていなかった。前かがみの姿勢になった彼女の胸元からは、ピンク色の乳首と、その下方には淡い茂みも見えた。

 

 彼女は茫然とソファに座ったままの僕のガウンの下に手を滑り込ませ、下着を一気に引き下ろし、僕の足から抜き取った。

 そして彼女は、ゆっくりと、僕の上に跨がった。僕のガウンの前がはだけ、太腿に彼女の風呂上がりの素肌が密着した。その生々しい感触に、僕の身体が思わず固く反応した。

 

 爽子は僕の両肩に腕を回し、唇を僕の耳元に寄せると、こうささやいた。

「私たちが初めて会った日のことを覚えている?」


「え、去年の体育館のこと?」

「違うの。私たちは、もっと前に会っているの」


「ええっ、全然気づかなかった。仕事の関係、ってことはないよね?」

「ううん、もっとずっと前」


「幼稚園とか、小学校とか、実は幼馴染だったとか?」

「ううん、そんな前じゃない。会ったのは、九年前の夏」


「…」


 僕の脳裏に、飲むたびに御堂と小幡が話題にする、人生最大の屈辱の一夜がフラッシュバックした。


「もしかして、爽子は、あの時の、『牛姫』なの!?」


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