ここから出たいんだけど……扉の開け方が分かんない!!
――ついにこの日がやってきた。
やっと。やっと。
やっっと外に出られる。
今までずっと、暗い金属の部屋で過ごしてきた。
でも、友達が、外の世界のことを教えてくれた。
外の世界には、空っていう青い天井があるんだって。
ここよりもずっと空気が綺麗なんだって。
他の人間もいるんだって。
海っていう、塩水が大量にある空間も存在するんだって。
空から水が降ってくることもあるんだって。
そんな、外の世界のことを聞くうちに、私は外の世界に興味を持った。
友達も、外の世界に行きたかったみたいだけど、あの子はお母さん達に殺処分されちゃったから。
だから、代わりに私が行こう。
「外の世界はどうなっているの――」
「外は危険だからダメ」
「良い子はお外になんか行かないよ」
「あなたは、ずーーっとここにいるのが幸せなんだよ」
私が外の世界について聞くと、お母さん達はみんな行っちゃダメだって言う。
でも、それでも、友達と約束しちゃったから。
あの子は、私の初めての友達だから。
友達は大切にしなさいって、お婆ちゃんも言ってたから。
……友達のお願いを聞いてあげることは、友達を大切にしているよね?
でも、友達を大切にするために、お母さん達の言いつけを破ったから、私は悪い子だね。
ごめんなさい。
でも、言いつけを守ることは大切なことだって言ってなかったから、大丈夫だと思う。
それに、心の中で謝った。
謝ったら許してもらえるのだから、大丈夫。
色々な思いがあるけれど、とにかく、私は今、外へと通ずる扉の目の前にいる。
開くためにはどうやらカードキーが必要みたい。
さっきお母さん達から奪っておいて良かった。
お母さん達は殺しちゃったけど、でも、ごめんなさいっていえたから、きっと褒めてくれるよね。
そう思いながら、私は血が着いたカードキーをスキャンにかざした。
『カードキーを認証。パスワードを入力してください』
パスワード……?
何それ知らねえよ。
そんなんあるんだったら最初から教えろカス
……とにかく、パスワードを見つけない以上はここから出られそうにない。
流石の私でも、この扉を突破する方法は正攻法以外にないと思う。
生き残っているお母さんがいないか探すか。
――――――――――
見つけた。
二つ部屋の奥のロッカーの中に隠れている。
どうやら酷く怯えているようだ。
感情がダダ漏れだから分かりやすい。
隠れる時は、もっと感情を抑えて隠れないと、すぐバレると思うんだけどなあ。
そう思うよね、お か あ さ ん ?
「いや……いや!!」
「縺ュ縺医?縺医?√♀豈阪&繧薙?ょ悶↓蜃コ縺溘>繧薙□縺代←窶ヲ窶ヲ」
「い゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛!゛!゛!゛!゛」
……おっとしまった。
これは友達と話す時に使う言葉だ。
お母さん達には理解できないよね。
えっと……お母さん達が話す言葉の発音ってどうやるんだっけ……?
「ねえねえ、お母さん」
「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛!゛!゛!゛」
「外に出たいんだけど」
「い゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!゛!゛!゛!゛」
「黙れよカス‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
「ヒィ……………………」
……ふう、うるさかった。
お母さんがこんなに叫んだのって初めて聞いた!
私が言わなかったら、このままだったのかな。
でも、私が静かにさせたから、お母さんは今、すっごい震えているよ。
目と鼻から水がたくさん出てる。
すごい、今まではお母さん達をすぐに殺してたから、こんなの初めて見た!
お母さん、なんでこう言うこと教えてくれなかったんだろう。
今、私、生まれてから一番楽しいかも!
……あ、そうだ。私はパスワードを聞きにきたんだ。
「ねえねえ、お母さん。私、外に出たいんだけど、パスワードが分からないんだ。教えてくれない?」
「ウゥ…………」
「教えてくれない?」
「ハァ…………ハァ…………!」
「教えろっつってんだろカス‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
「……………………ハ、8ィ…………ッ……K…ェ………B…C……0…………ロッ……6……ヴ、V……Nッ…………でス」
「……なんて?」
「だァァァか…………ら……ハッ……」
「お前の言っていることが聞き取れんわ。萎えたわ」
私はこのお母さんの首を刎ねた。
赤いものが色々と吹き出した。
なんだか美味しそうに見えるが、今はお腹が減ってないからいらない。
……さて、どうしようかな。
このお母さんからは結局パスワード聞けなかったなあ。
他のお母さんを探す?
でも、さっきのお母さんはまあまあな時間探してやっと見つけたから、また時間がかかる。
どうしよっかなーー?
そうだ!!
なんか、私が収容されていた場所のもっと奥に、部屋が一つあった気がする。
その部屋は調べてないから、そこにお母さんがいるかもしれない!
もうここのお母さん達は大体殺しちゃったからなんの気兼ねもなく戻れるし。
――――――――――
さて、着いた。
この部屋を開けるのにもカードキーが必要だったから、わざわざ取りに戻って無駄足を踏んだ。
これで何もなかったら死ね
じゃあ、開けてみようか。
私はスキャナーにカードキーを差し込む。
『カードキーを認証しました。扉が開きます』
あ、この扉はパスワードないんだ。
良かった!!
そうして、扉が開いた先には、とある培養カプセルがあった。
その中には、足が6本、手が6本、顔が頭に3つあってそれぞれの手に一つずつ、合計9個ある黒い生命体がいた。
私はその生命体から無限のエネルギーを感じた。
元々、生命というものが何を原動力にして生きているのか――それは生きるという衝動だ。
これ以上の何者でもない。
だが、お母さん達はその衝動が少し弱いように感じた。
お母さん達と関わった時間が長いから、私も生きる衝動が弱まっていたのかもしれない。
でもこいつは違う。
不気味な無数黒い触手から、顔、足、どこをとっても生きるという願望に溢れている。
私は今、感動して感動して仕方がない。
この思いや、この生命体を適切に表現する語彙は人間界にはないだろう。
いや強いて言えば―― 逾樒ァ倡噪
私は、この培養カプセルを破壊しなければならないという使命感に駆られた。
こいつを、解放しなければならない。
それができるのは後にも先にも私だけだ。
私は思いっきりカプセルをぶん殴った。
カプセルに穴が空き、中から紫色のネバネバした培養液が溢れ出してくる。
それと同時に中にいた黒い生命体が蠢き出した。
「蜉ゥ縺代※縺上l縺ヲ縺ゅj縺後→縺」
……ふむ、分からん。
こいつと言語器官の発する特波動を合わせてみようか。
どれどれ……
「助けてくれてありがとう」
「そりゃあどういたしまして。ただ、ここから完全に外に出るにはパスワードが必要らしいんだ」
「大丈夫だ、俺なら分かる」
「お、マジで? 助かるよ」
ということで、私はこの生命体と一緒に扉の前に戻った。
「パスワードは8KBC06VNだ」
生命体が器用にパスワードを打ち込んでいる。
その形でよくやるよと思う。
「ところで、そなたに質問したいことがあるのだが」
「ん? 何? つまんなかったら殺すよ?」
「そなたは……何故人間達と酷似した外見なのだ?」
「………………ここが戦争兵器の開発場所だってことは知ってるよね?」
「もちろんだ」
「そう……兵器を開発するために、色々な人間が集められて、ここで、色々な実験が行われた。人間が他の人間を実験道具にすることもあったみたい。そういう同族殺しって、いくら目的のためといえど違うと思うけどね。ああそれで、ここの人間達はいくつも失敗作を作った。あんたも、その口だろ?」
「ああ……俺はいくつもの死体を寄せ集めて、そして様々な化学物質を融合させ、反応させて誕生したらしい。おかげで見た目がグロテスクだよ」
「でも私の場合は……少し特殊。私は、人間達の気まぐれで生み出された存在」
「どういうことだ?」
「私は……元々は一人の人間だった。でも、色々な薬物を注入されて、強靭な肉体と身体能力が与えられた――そんなもの、私は求めた覚えがないのに。しかも、その代償は精神の汚染だった。いつしか私は私のことを忘れて、ただの化け物になっちゃった――ついさっきまで。なんかさ、あんたと話していたら何故か思い出したよ。ありがとう」
「俺は自分の気になることを聞いただけだ、気にするな」
……なんだか恥ずかしい。
「……さあ、外に出ようか」
「そうだな」
黒い生命体がスイッチを押す。
『パスワードを確認しました。扉が開きます』
流れてくるのはセキュリティメッセージ。
ついに、外に出ることが出来るんだ。
私は……外の記憶はもうない。
外に出たいって言っていた友達の記憶もほとんどない。
でも、なんとなく、私が正気を完全に失わずに、微かに私が残っていたから、友達を作ることができて、こんな状況になれたんだとも思う。
何にも覚えてないけど、ありがとう、私の友達。
扉が徐々に開いていく。
そこからちらりと見えるのは、薄暗い階段だ。
「……こんな日がくるとはな」
黒い生命体は目を輝かせている――多分。
こいつ、見た目が人外なだけで中身はすごく人間っぽいと私は思う。
「ねえ、そういえば、あなたの名前ってなんなの?」
「俺は……複数の人間から生まれているしなあ。あいつらがつけた名前は気に食わないし……そうだな。俺のことはダークと呼ぶと良い」
「へぇ、安直だね」
「それで、お前の名前は?」
…………名前。
というか、外にいた頃の、人間だった頃の記憶なんてほとんどないしなあ。
あでも。
なんか、思い出せたかも。
パッと、一つの名前が閃いた。
私の名前だったっていう確信はないけど……でも、今は、この名前を名乗りたいかも。
「……クレア! 私の名前はクレア!」
「ほう、良い名前じゃないか」
扉が完全に開かれた。
私とダークは階段を登り始める。
少し長かったが、先の方から少しだけ感じる光が太陽のものかもしれないと思うと、自然と足が進んだ。
そして、ついに私たちは外に出た。
そこには、私達が今まで見たことがないような景色が広がっていた。
いや……一部は友達から聞いてはいたが、それでもやはり、聞くのと見るのとでは全く違うのだ。
ここが、私とダークにとっての、新世界だった。
最後まで拙い文章を読んでくれてありがとうございます。
感想を書いてくれると僕が喜びます。