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魔女と狐の墓参り  作者: 揺満雪花
花の街
9/29

困ったお客

買い物の為に商店街に繰り出したリアと天。

「本当に、至る所に花がありますね」

「ね。花粉症のひとには辛いだろうな」

気にする事はそれなのか、と出かけたツッコミを飲み込んで、天はリアの頭を撫でた。

実際、花の街で咲いている花はそのほとんどが魔法植物なので、花粉は出ない。

それを知ってか知らずか、花粉症の心配をしたリアの事が愛おしく思った。


「さて、買い物の前に素材の換金をしたい所だけど。冒険者ギルドってどこにあったっけ?てか、天ってどっかのギルドに登録してる?」

「一応、商業ギルドに」

「なら良いや」


道行くひとに冒険者ギルドの場所を聞き、山の方にあったそこにふたりが辿り着くと、ギルドの扉の前に『現在臨時休業中』の看板が掛けてあった。

「臨時休業……?何があったんでしょうか」

「知らないけど、中に人はいるみたい。なんか変なもの持ってきた客が居るみたいだよ」

そう言ったリアがドアノブを捻ると、鍵はかかっていなかったようで、扉はあっさりと開いた。

「ちょっ、リアさん!」

「いーのいーの。困った客、私の知り合いだから。それに、私、今お金が欲しいの。早くしないとお店、閉まっちゃうしさ」

天の手を引っ張って、リアはギルドに入っていく。それを咎める者はおらず、今の冒険者ギルドの事情を知っている者は感謝を込めて、知らない者は呆れたように見送った。


ギルド内にいたのは、数名のギルド職員と、問題になっているであろうひとりの人物。

そのひとと話しているのが、恐らくギルド長だ。


リアの知り合いだという困った客は、どこかで見たような容姿をしていた。

緩くウェーブした金の長い髪、小さな花が入っているかのように輝く大きな桃色の瞳、真っ白な肌。

ピンクのドレスを身に纏い、すらりと背筋を伸ばした彼女は、目の色や髪の長さが違えど、顔の造形がブランシュによく似ていた。


「だから、こんなものはうちでは買い取れません!」

「ええ、どうして?きちんと魔物よぉ。わたしが倒したのよ?」

「いえ、誰が倒したかは問題では無く、倒した魔物が問題なんです!」

「フローラ、どうしたの?」

言い争っているふたりの間に、リアが入っていった。フローラというのは、困った客の名前だろう。


「あら、リア!聞いて頂戴よぉ。わたし、ここで魔物をお金に変えてくれるって聞いたから来たのに、無理だって言われたのよ!ひどい、ひどいわ!」

「あー、アレだ。取り敢えず、何持ってきたか見せてくれない?」

「えぇ、良いわよ。そちらの坊っちゃんも一緒にどうぞ」

彼女が身体をずらすと、例の魔物が見えた。

そこにあったのは、十メートルはあるであろうドラゴンだった。なぜ今まで見えなかったのだろうと思うほどの存在感。美しい桃色の鱗を煌めかせ、ギルドの床に静かに横たわっていた。


「あれ、この子って、フローラの眷属じゃなかったっけ?」

「えぇ、そうだけど。でも、この子はもう年だもの。花竜(フローラ·ドラゴン)なんて、わたしの名前を冠したドラゴンの『わたしの花で命を散らしたい』なんていうお願いを聞いてあげたくなったのよ。長く仕えてくれたしね」

「……そっか。そんじゃ、ギルドで無理なんだったら、私が買い取るよ。恐れ多くも神の眷属を買い取るなんて、金が足りるか分からないけど」

「……そうね。心配なら、買わない方が良いんじゃない?」

「ほんとは手放したく無いんでしょ、フローラ。お金なら、私がつけといてあげるから」

「それじゃだめ!自分のお金でなんとかするの!」


そう言って首を振るフローラは、なんだか子供のようだ。

落ち着かせようと頭を撫でるリアは、さながら母親のよう。


「……ところで。さっき、神とか何とか聞こえたような気がするのですが」

「あー、フローラ、花神だからね。ほら、花乙女の物語の元ネタって言うのはあれだけど」


当たり前のように言われたそれに、周りが唖然としたのは言うまでもない。


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