ブランシュと天
ブランシュの回想です。
ぼくの家は花の街でも一番大きな服屋で、花の街随一のお金持ち。
そこに四人きょうだいの末っ子として生まれたぼくは、上三人が姉なのもあって、姉のお下がりばかり着ていた。
フリルのついたブラウス、ピンクのリボン、ひらひらのスカートやワンピース。ブラウスはともかく、ほかはあまり男の子がいないような服ばかり。
それでもぼくは可愛い服やぬいぐるみ、可愛い小物も大好きだった。
今なら、皆がぼくを避けた理由がわかる。『男の子がスカートを履くのは変』だなんて、当時のぼくは知らなかった。家族には似合うと褒められていたし、もともとぼくの顔は女の子みたいだって、女の子に間違われてばっかりだったし。それが男の子だって分かった途端、皆気持ち悪いってぼくのことを避けだしたんだ。
ショックだった。ぼくはただ好きな格好をしていただけなのに。
でも、避けられようが、気持ち悪いって言われようが、可愛い格好はしていたかった。
でも、あんまり見られたくは無くなって、男の子として着るのは家の中だけにした。
外ではかつらをかぶって、女の子のふりをした。
そうすれば、可愛いって褒めてくれるから。誰もぼくが男の子だって気づかない。皆、可愛い顔をして、スカートを履いた男の子なんていないと信じてるから。
でも、天さんは違った。
ぼくの家の服屋にやって来た天さんは、たまたまそこにいたぼくに気づいて、母さんに言ったんだ。
「素敵な格好の息子さんですね」
って!
その後、ぼくのところに来て沢山服を、ぼくを褒めてくれた。
その日、ぼくは母さんに作ってもらったレースとフリル、リボンが沢山ついたワンピースを着ていた。かつらはかぶっていなかったけど、男の子が到底するはずの無い格好のぼくを、躊躇無く褒めてくれて、嬉しかった。
どうしてこんなに褒めてくれるんだろう。
顔が見たいと言われて、恥ずかしくてあげられなかった顔を頑張ってあげると、綺麗な青と目が合った。
慌てて目線を下げると、次に見えたのは赤。
どうやら、口紅を塗っている見たいだった。
「口紅……」
「あぁ、これですか?素敵でしょう。父様には男が化粧をするものではないと言われましたが、似合えば何でも良いでしょう?」
ああ、強い。仲間はずれや陰口に怯えて、ありのままで外に出られないぼくとは大違いだ。
「変ですか?」
「い、いえ!とっても素敵、だと思います!」
「ふふ、ありがとうございます。……そろそろ行かなきゃ。また会えると良いですね、素敵な花の妖精さん」
そう言い残して、狐の耳と尻尾を揺らしながら去っていった。
さ、最後まで格好いいひと……!
ぼくも、ああなりたいな。あんな風に強くて、綺麗で、素敵なひとに。
「ぼくも、お化粧してみようかな……」