表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女と狐の墓参り  作者: 長尾いのり
水の都
41/43

水の都

「おーい、起きて下さい~、起きて下さいってば」


 エメラルドのような色の石造りの建物の中で、ラスパーは途方に暮れていた。

 彼女の暮らす水の都は、昔はその名の通り綺麗な、魔力が大量に含まれた水が溢れる豊かな地底都市だった。

 しかしいつからか水が渇れはじめ、かつての栄えた都は見る影もなくなってしまった。美しい湖だった場所は乾いた大穴に、川だった場所は深い窪みに。

 ここで暮らしていた者たちは別の所へ行ってしまうか、水と共に消えてしまった。ラスパーは、この地に留まることを選んだ住民の一人だ。


 そんな彼女の目の前には、二人の旅人が転がっている。美しい銀の髪の子供と、狐の獣人の少年だ。

 先程から、何度起こそうとしても全く起きないのだ。肩を掴んで揺り動かしても、頬をペチペチと叩いてみても、瞼を持ち上げる気配すらない。

 いや、わたしが悪い訳じゃないですよね?と誰にとも言わず言い訳をしていると、少年がゆっくりと体を起こすのが見えた。

 少年の濃い青の瞳を覗き込んで、ラスパーは薄っぺらい笑みを顔に張り付ける。

 まだ状況を飲み込めずに困惑する少年のために、水の精霊(ウンディーネ)の少女は口を開いた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ああ良かった、目を覚ましたんですね。おはようございます」


 ニコニコと笑う目の前の少女が、まるで用意された台詞を読むようにこちらへ声を掛ける。

 がんがん痛む頭を押さえながら、天は辺りを見回した。またもや全く見覚えの無い場所にいる。

 すわ天国かと思ったが、それを否定するように身体中が痛む。それに何より、置いてきてしまった筈のリアが同じ場所にいる。


「あの、魔物は……」

「あらら、まだ思考がはっきりしていない感じですか?それとも、結末を見届ける前に気絶してしまわれたのでしょうか」


 はて、と首を傾げる少女。急に納得したように手を打って、天を助け起こした。


「自己紹介がまだでしたね。わたしはラスパー、旅人達の案内人です」


 よろしくお願いしますね、と天の手を握ったまま微笑むラスパー。

 青い髪に色の濃い肌、銀色の瞳。それに加えて大きく肌の空いた、なかなか見ない格好だったのでついじっと見てしまう。

 彼女が言うには、この水の都ではこれが普通の格好らしい。


「ここは、いくら水で満ちていると言っても地底ですから。暑いのです」

「そうなんですね。……にしては、そこまで暑く無いですが」

「こちらの方で旅人達の快適な温度に調節していますので。……ところで、あちらのお嬢様が全く起きないのですが」


 ラスパーが指す方向には、まだまだ眠っているリアがいた。

 一体どれくらいすれば起きるのかは天にも分からない。それを説明すれば、変な顔をするラスパー。どうしたのか尋ねてみても、「何でもないです」と首を振るだけだった。


「さて、旅人。少しこの辺りを案内するので、着いてきていただけますか?」


 言葉は一応疑問系ではあるが、断ることなどさせないとばかりにじっと見つめられる。リアをまた一人にさせるのは気が引けたが、もうラスパーに着いていくしか選択肢はなさそうだ。

 心の中で謝罪をしつつ、彼女のあとを着いていった。


 建物を出ると、そこには一面白と緑で構成された街並みが広がっていた。

 地面は白く、滑らかな石で作られている。道の両脇にある建物は全てエメラルドグリーンの石材で建てられていた。

 見る限り植物などは生えていない。地下世界だから仕方の無いことだが、なぜだか無性に寂しい景色に見えた。


 ある程度人の往来があったが、それらは普通の人と少しずつ違っていた。

 影が無かったり、一部分が溶けていたり。そこを見なければ普通の人間だと思っただろう。


「ラスパーさん。彼らは人間では無いのですね」


 道行く人々を掌で指しながら、天はラスパーに話し掛けた。彼女はチラリとその指先を一瞥して、ひとつ頷いた。


「あまり地上では見かけないのでしょうか。あの者達は皆、水の民です」


 影が無いのも、体が溶けているのも、本来は魔力の豊富な水中で暮らす種族だからなのだと言う。地上の、しかも魔力の濃度が低い土地にはあまり適応できず、あのようになってしまうらしい。


「水の中では、普通の人と変わらない姿なのでしょうか」


 沸き上がってきた疑問をそのまま口に出すと、ラスパーは少し難しい顔をして顎に手を当てた。少し間が空いた後、ゆっくりと頷いた。


「ええ、まぁ、そうですね。そういうことになります」


 変な間が気になったが、ここで聞いても何も求める答えは返って来ないだろうと「そうなんですね」とだけ返した。


「さて、そろそろお嬢様も目を覚ました頃でしょうか」

「分かるんですか?」

「ええ、それはもう」


 どこか自慢げな彼女に戻りましょうと言われ、半信半疑ながらも元来た道を戻っていく。

 どうして分かったのか聞いても、にっこり笑って誤魔化されるだけ。何も言う気は無いらしかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ