森の夜
しばらく休憩したのち、また奥へ向かって歩きだしたふたり。時々魔物が飛び出して来るが、リアは無視して進んでいく。
到底無視できるようなものではないことは置いといて、魔物の方もこちらには気づいていないようだった。
曰く、「あいつらは図体ばっかしでかいだけのやつだからね。気配を読むのが下手くそなの」
らしい。
「素材が高いんですよね、あの魔物。そんなに見るわけでも無いし」
「素材、欲しいの?」
「いえ、別に」
「そう」
途中で薬草を摘んだり、休憩したりしながら歩いていると、いつの間にか辺りが暗くなりかけていた。
「あー、どうする?今日のところはこれでおしまいにしとく?」
「そうですね、それで良いと思います。夜間は魔物の活動が活発になりますし」
「うん、わかった。それじゃ、今日はこれでおしまーい。とはいえ、ちょっと開けた場所探そっか」
日が落ちてからもしばらく歩きまわり、ようやく開けた場所を見付けたふたりだった。
さっと魔法で灯をともしたリア。
見間違いでなければ、指から炎を出したように見えたのだが……。
「はい、灯り。こうゆうときに魔法って便利だよねぇ」
確かに、灯りの確保には、普段は木の枝でも拾って火をつけて。火をつけるにも道具がいる。
そして、本来なら魔法を使うには杖がなければいけないはずだ。そうでなくては魔法は使えない、それがトランスでの常識。
しかし、世の中には杖を使わない国もあるそうだ。天はそうらしいと聞いた事がある程度だが、リアはその国で魔法を学んだのかもしれない。
「天、疲れたでしょ。天幕は私が張るから、そこの明かりのところで休んでて良いよ」
「いえ、自分で、やります」
「うーん、大丈夫そうならやってもいいけど。休んだほうが良いと思うなぁ」
確かに、ここに来るまで大分歩き、ロックスパイダーとの戦闘もこなしたが、途中で休憩も挟んだし天に不思議と疲れている感覚はない。
天幕を張る位のことは出来る。
ふたりで黙々と作業をしているうちに、先に出来上がったのはリアの方だった。
「よし、できた!そっちどう……って、ありゃ。まだか。よし、手伝うよ。天のほうが終わらないと、ご飯も食べれないからね」
「……ありがとう、ございます」
「んーん、全然」
さっさと天幕を組み立てて、リアはその近くに火を出した。
「お腹空いた〜。お昼、普通に食べそこねたし。天のご飯も一緒に作ってあげる」
「はあ……」
まさか、その場で食事を作るとは。旅の食事といえば、携帯食が基本だろう。
携帯食は、手早く食べられる上に、栄養もきちんとある。味は置いといて、優秀な食料なのだ。
「あ、やっぱりすっごいお疲れだね。ご飯食べれそう?」
「ええ、まあ」
「良かった」
リアは、何かを焼いているようだった。魚のような、肉のような。いつ取ってきたのだろうか。
普通にフライパンを出して調理しているし、いつの間にかふたつのコップに水が注がれいてるし、皿も用意してあるし、その皿にはパンが置かれているし、およそ森の中とは思えない。
何かが焼かれているフライパンの中に卵をふたつ割って、少ししてから火からおろした。
中身を二等分して皿に移すと、コップとともに天に手渡した。