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魔女と狐の墓参り  作者: 長尾いのり
水の都
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魔物退治へ

 道すがら、魔物の痕跡を辿りながら歩いていたが、特に何も見つからなかった。人もいないせいで、さした情報も手に入らない。


「……ねえ、天って地図読める?」


 不意にリアがガサガサと地図を広げ、天に見せた。どうやらこの辺りの地図らしい。


「もちろん読めますが……」


 良かった、とほっとしたように地図を天に渡すと、頬をかきながら「迷っちゃって」と笑った。

 ため息を吐いて、現在地を尋ねる。元気な声で「分からない!」と返されたため、それも無駄だったと分かったが。


「あっ、でもさ。これとか、良い目印じゃない?」


 彼女が指差したのは、遠くにそびえる山々。地図に目を落とすと、確かにそれらしい山脈があった。

 そこからなんとか現在地を割り出して、彼女に行き先を聞く。


 あの山のうちのひとつだよ、と指差したままの人差し指を軽く振ると一本の道が現れた。それが行く道を示しているのだとすぐに気付く。


「ねえ、天にはあの道は()()()()()?」


 不思議な質問をする。仮面を外し、探るような目で天を見つめるリアに、真っ直ぐ光が続いているように見えると答える。すると、どんな光なのかと尋ねられた。


「そんなことを聞いてどうするんですか?」


 困ったような顔をして、長く息を吐き出した後で「ただの好奇心」とのこと。

 どうやらリアにはあの道は光には見えていないらしく、人によって見え方が違うようだ。


 しばらくリアからの質問に答えていると、いつの間にか山が眼前に迫っていた。

 いつの間にこんなに進んだんだ、と思いながらもさらに近づくため足を進める。


「もしかして、特殊な魔法とか使ってます?」

「……まあ、ちょっとは。スピードアップと疲れにくくするやつ」


 まさかと思って聞いてみたが、本当に使っていたとは思わなかった。というか、天は全く気づいていなかった。

 人いないし良いかなって、と決まり悪そうなリアだったが、天も特に責める気などは無いのでそのまま光を辿る。

 その無言を不機嫌だと捉えたのか、はたまた疲れていると思ったのか。リアは少しだけ申し訳なさそうに休憩を申し出た。


「では、少し休みますか」

「うん。なんかごめん」


 光の消えた道はまばらに植物が生えている程度で、かなり感想している。その割に地面は固く、ずっと踏み固められてきたかのようだ。


 汚れるのも気にせず地面に座り込んだリアは、そのまま眠ってしまうのでは無いかと思うほど上体を傾けていた。


「眠いんですか」

「ちょっとだけ」


 天が声をかけると、体を起こしてパチパチと瞬きをした。左右で色の違う瞳が眠たげに細められていて、彼女の言葉が嘘でないことは明白だった。


「……ごめん、ちょっと寝てもいい?道は示しとくから、なんだったらひとりで行ってもいいよ」


 今度はがくんと首から落ち、地面に体を預けて寝入ってしまった。

 彼女の言った通り、ぼんやりと光が行く先を示している。その光とリアを交互に眺めて、天も地面に座った。


 少し休んでから、リアを起こさないようにそっと抱き上げる。思っていた重さが来なくて、意外とあっさり持ち上がってしまった。


(……軽)


 これだけ小さな少女とはいえ、天に人を持ち上げられる力なんてない。見る限りきちんと食事をとっているし、あれだけの戦闘がこなせるのにここまで軽いとは思ってもみなかった。

 すっかり力の抜けた体を背中に乗せて、腕を前に回す。落ちないようにしっかりと支えながら、歩き出した。


「……ん……」


 しばらく歩いたところで、目覚めたらしいリアが顔を覗かせた。


「……はこんで、くれたの」

「はい。置いていく訳にも行かないでしょう」

「そっかぁ」


 もう大丈夫だよ、自分で歩けるよという言葉を無視して、背負ったまま歩き続ける。きっと彼女も疲れているんだ。少しくらいは休んでいて欲しい。


「ね、本当に大丈夫だから。重いでしょ?」


 否定の意を込めて首を横に振る。背負っていると、明らかに人一人分の重量ではないことがありありと伝わってくる。どうしたらここまで軽くなれるのだろうか。そこまで痩せ細っているという訳でもないのに。


 押し問答の末諦めたのか、リアは何も言わなくなった。その代わり、背中の重さが一気に軽くなる。

 負担をかけないようにという彼女なりの気遣いだろうか。


「ほら、見えてきた。あそこにいるんだよ」


 山に入る頃には日はすっかり高いところに登っていた。刺すような日差しに辟易としながらも、背中の冷たさを頼りにしていた天がその声に前をよく見ると、そこにあったのは大きな岩だった。


「岩、ですか?」

「そうだねー。でも、ただのでかい岩じゃ無いよ」


 ここからはちゃんと歩くね、と天の背から飛び降りて先行するように歩き出すリアの後ろを歩く。


「天、この辺って人いないよね?」


 キョロキョロと辺りを見回して、人を探しているらしいリアと一緒に天も確認したが、人どころか動物すら見つからなかった。


「よし、良いね。それじゃあ、今回は()()使いまーす」


 じゃーん、と口で効果音をいいながらリアが何も無い空間から取り出したのは、この間の愚者の冠だった。


「単体なんですね」

「本来こうだからね〜……ランプも出した方がいいかな」


 少し悩んでいたが、結局冠だけにするようだった。

 黒い光がリアの手から愚者の冠に吸い込まれていく。まるで昔見た本の挿絵のような光景に、天は無意識に腕をさすった。確か地獄の使者が魂を持っていく描写だったような。


 一気に空気が冷えて来た。愚者の冠を手にグッと握りこんだリアは、それを空に向かって放り投げた。

 高く飛んだそれは、あちこちから黒い光が伸びる。


 ピュイ、とリアが指笛を鳴らすと、浮かんでいた愚者の冠が落ちてきた。

  「キャッチして!」と言われた天が、地面に落ちる前に愚者の冠を受け止める。


 先程までの冷え込みが嘘のように周囲は暖かくなっていた。手の中の輪は静かに日の光を反射している。

 近付いてきたリアに愚者の冠を渡すと、彼女はもう一度それを宙に放った。


「何をしているんですか、さっきから」

「うーん、秘密。そのうち分かるよ、てか多分お前の本を見れば分かる」


 そのことを言われるまで存在を忘れていた。荷物の中から本を取り出して開けば、いつの間にか白紙だったはずのページに文字が浮かんでいる。


(……あれ)


 読める。この間まで何も分からなかったはずなのに、文字がスラスラと頭に入ってくる。目に映る文字は一体何を示しているのかは依然として分からないにも関わらず、だ。


「どしたー?固まってるけど」

「……いえ、何も」


 そう?と首を捻るリアを無視し、ほかのページも開く。これまでに文字が浮かんだところは白紙になっていたが、ここが見たいと思えばその通りに文字が出てくる。

 もう疑問を持つのにも疲れて、取り敢えずは愚者の冠の情報を得ようとページを見つめた。


「あ、ねえ、天。ちょっといい?」


 書かれている文字を読もうと思った矢先、肩を叩かれて振り向いた。

 渋い顔をしたリアが、なにか小さな金属製の機械のようなものを手に天を見ている。


「どうかしましたか?」

「いや、それ、見せて貰ってもいい?」

「はあ。どうぞ」


 本を彼女に渡すと、表紙に機械を押し付けた。それに吸い込まれるように、本は消えてしまった。


「え、ちょっと、リアさん!?」

「大丈夫大丈夫、ちょっと調査したいだけだから」


 曰く、古代遺物の変化という前例が愚者の冠で出来てしまった以上、この本もなにか変化していないという確証は無いから、それを調べたいとの事だった。

 さっき天の様子も変だったしね、と言われてしまえば返す言葉もない。


 調査が終わるまで、山の中を見て回ることになった。リアがあの大きな岩に意識を向けているのは分かったが、そちらに行こうとしないのでその理由は分からない。

 理由を尋ねても、首を振るばかりで答えは帰って来なかった。

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