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魔女と狐の墓参り  作者: 長尾いのり
水の都
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雨と霧

 雨が窓を叩く音だけが広がる部屋で、天はぼんやりと外を見ていた。ヘルメを離れ、新しくやってきた街はどうやら天気が良い日の方が少ないらしく、ここに来てから三日ほど宿屋で過ごしている。


 普通の雨ならいざ知らず、ここに降っているのはどこかの魔物が降らした雨。人間には有害な物質が含まれているのが確認されているため、迂闊に出歩くことも出来ないのだ。

 そもそも、出掛けたところで店やら何やらは軒並み閉まっている。唯一開いているところといったら、ギルドくらいだ。


「やあやあ少年、随分暇そうにしているねぇ」

「……何ですか、その喋り方」


 いつの間にかやって来たリアが、天の肩に手をおいてふざけた口調で話しかける。なんだか嫌な予感がした。

 その予感通りのことをリアが言い出す前に離れようとしたが、彼女が離してくれるわけもなく。


「そろそろここ出るよ。行きたいところがあるんだ」


 やっぱり、と思ったがおとなしく従っておくことにした。これまでの経験から、このひとは天の命に関わるようなことはしないと分かっていたから。


 さっさと荷物を纏めて宿を出る。雨は、リアがドーム状の結界で防いだ。結界にこんな使い方があるのか、と感心していれば、それを見透かしたようにリアが解説をいれる。


「結界って、結局は害なすものから守るためのものだからね。意外となんにでも使えるよ」


 とはいえ、防いでくれるのは雨だけだ。肌寒さも、湿気も、防いではくれない。なんとなく物寂しい雰囲気のなか、二人は黙々と進んで行った。


 ―――――――――――――――――――――――


 しばらくして、雨が止む。その代わりに、霧が出てきた。進むほどに霧が濃くなっていって、もう前も見えないほどになった。


「リアさん、これ、進む方向合ってますか?」


 少し前を歩いているはずのリアさえ目を凝らさなければ見ることは出来ない。


「大丈夫、合ってるよ」


 右手がひんやりと冷たいものに触れられる。思わず手を引っ込めようとすると、その前にぎゅっと掴まれた。小さな手。それがリアの手だと理解した途端、纏わりついていた寂しさが消えたような気がした。


(そうだ、確かにリアさんの手はこんなに冷たかった)


 天の不安を察したのか、リアはポツポツと喋りながら歩いていった。お陰で、天もその後はさした問題もなく足を進めることが出来た。


「……そろそろこの霧うざいね。晴らそっか」


 いつもの調子でそう言ってのけて、リアはあっという間に視界を開いた。

 天候を変える魔法なんて、そう易々と使えるものではないことは流石の天でも知っていた。王宮の魔導師が数人がかりでやらないといけないほど魔力を必要とする大魔法。しかも、そんな魔法のエキスパートが使おうとしても発動できるかは五分五分といったところ。

 そんなものをいとも簡単に成功させるなんて、本当に何者なんだ。天がそんなことを考えて少し畏れを感じているころに、本人はしれっと「じゃあ、霧も晴れたし先進もっか」なんて言って歩き出した。置いていかれないように、天もそれを追いかける。


 少しして、そろそろ休もうかというリアの提案に乗っかって、大きな木の影に座った。

 天が水を飲んで一息ついている間、リアはパラパラと紙の束を捲っている。


「見て、これ。この辺りだよ」


 目の前に紙を差し出され、それを受け取って読んでみると、確かに書かれた住所は先程の街の近くだった。

 その紙は何かの依頼書のようだったが、内容は分からなかった。住所以外のところには認識阻害がされているらしい。


「なんかね、この辺で雨を降らせている魔物がいるから退治しろ、だってさ。ダルくね?」


 文句を言いながらも、リアはその依頼をこなすつもりのようだ。そんなに面倒ならば受けなければ良いのに、と思わないでも無かったが、性根が優しいリアは放って置けないんだろうなぁと納得した。


「それにしたって、もう少し休んでからにしよっか。ここまで放置されてるんだったら、半端な実力じゃ手のつけられない奴って事だよね」


 少しして、リアの寝息が聞こえ始める。どうやら体力回復のために寝てしまったらしい。羽織っていた上着をリアに掛けて、天もその横で目を閉じた。

 聞いた話しによると、ここには魔物は出現しないらしい。隣国との国境が近いため、色々と強化されているそうだ。


(隣国との国境付近と言う割に、あまりに人がいないのは不思議ですが)


 ここまで来て、一度も人とすれ違わなかった。見えなかっただけではない、と思う。あの空間だけ隔絶されていたような、妙な空気だった。


 いつの間にか天も眠っていたらしい。目を開くと、隣のリアはまだ眠そうに目を擦っている。ダメですよとそれを止め、体を起こしてぐっと伸びをすれば、あまり良くない音がする。


「天、後でマッサージしたげるね」


 気遣いのつもりか、リアがそんなことを言ってきた。大丈夫ですとやんわり断って、水を一口飲む。


 そのまま少しぼんやりと空を眺め、天が立ち上がったのを見てからリアもノロノロと立ち上がる。


「さぁーて、行きますか」


 さっきまであんなに眠そうにしていたのに、歩き出してしまえばすぐにいつものリアだ。歩きながら、天がさっきの霧の中での感覚を話すと、リアは少し考え込むような仕草のあとに悩みながらこう言った。


「……この辺りの霧は少し特殊なんだね。私はあんまり感じなかったや。またなんか感じたら教えて」


 流れでこれからの予定を聞くと、まずは魔物を殺して、それから国境を超えて隣国へ入るらしい。それ以上のことは決めていないようだ。


「というか、もう国外に出るんですね」

「そうだね、今回わりと最短ルートだから。天はトランスの外に出るのは初めて?」


 リアの問いかけにいえ、と首を横に振る。幼い頃は父に連れられて国を離れることもしばしばあった。その事を思い出しながら、天は「昔に、何度か」と付け足した。そっか、と返された言葉は思ったよりも優しく聞こえて、なんとなく嬉しくなった。


「なら良いけど。ま、今はそれよりも魔物討伐だよね」


 人にとって有害な雨を降らせる魔物。一体どんなものなのか、天には検討もつかなかった。それはリアも同様のようで、首を傾げながら「そんなのいたっけ?」と呟いている。


「リアさんも知らないんですね」

「意外とね」


 何でも知っているような彼女が困っているのを見ると、なんとなく心がざわつく。

 そんな天の気持ちを取り払うように、リアが笑った。まあなんとかなるでしょう、と言われてしまえばしょうがない。戦闘能力が高い訳ではない天は、結局彼女に頼るしか無いのだから。

この話から新章です!

面白いなーと思って頂けたら幸いです

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