神様に会いに
「……何をしているんですか?」
「あら、おはよう。もう少し寝ててもいいんだよ、昨日は疲れたでしょ?」
「おはようございます、もう元気なので大丈夫です」
若いっていいねぇ、と呟いたリアは、全く天の方に視線を向けずに作業を続けていた。
ガチャガチャと金属がぶつかる音が頻繁に聞こえてくる。
天が気になってリアの手元を覗き込むと、彼女はレンチのようなものをものを使って作業をしていた。
リアの手元から、腕輪ほどの大きさの円が伸びていた。真剣な顔でそれをいじり続けるリア。周りには、パーツごとに分けられたスクラップが散らばっている。
天が何を話しかけても生返事しか返ってこず、しまいに天は諦めて部屋の外に出ていった。「終わったら教えてください」と言い残して。
リアはそれに気づかずに夢中でスクラップを組み立て続けている。
歯車を組み込んだり、バネを取り付けて、その上からナットを被せたり(すぐに外していた)。何か意味のあるものを作ろうとしているようには見えず、ただ遊んでいるようだった。
それでも、その不思議なリアの作品は完成に近づいていっている。錆びついたパーツもあれば、傷だらけのパーツもある。鋭い光を放つパーツもあり、鈍く輝くパーツもある。
それらがねじ曲げられたり、形を変えられたりしながら円環を形成していた。
「……出来た」
ふう、と額の汗を拭う動作をしたリアは、ふと辺りを見回した。
あれ、天が来てたと思うんだけど。とっくに出ていったことを知らず、キョロキョロと部屋の中を探した。
天がいないと分かると、リアは緑色の蝶を産み出して飛ばした。しばらくすれば、天はここに来てくれるだろう。
「ちょっと寝ようかな」
彼女がベッドに飛び込むと、長い銀髪が広がって、一部はベッドから垂れ下がって床についた。
目を閉じると、すぐに意識が遠のいていく。
(寝れるときに寝るのが大事だから……)
「……寝てる」
蝶の伝言を受け取ってリアの部屋にやってきた天だったが、当の本人が眠っているのを見つけてため息を吐いた。
「起きますかね」
軽く肩を揺すってみたり、声を掛けたりしてみたが、起きる気配はなさそうだった。
さっきからこの人に振り回されっぱなしだ。
まあいいか、と天はベッドに腰掛けた。すぅすぅと寝息をたてるリアの頭をそっと撫でる。どうせ今日は何の予定も入れていなかったし、今日一日は昨日の疲れを取る日にしても大丈夫だろう。
なんとなく、眠っているリアの顔をじっと見る。
(本当に綺麗な顔立ちをしているひとだ)
整った目鼻立ちの、どこか中性的な美しさを持つ少女。あまり表情が変わらないらしく、昨日もほとんど真顔だった。冷たい印象を与えてしまうのかもしれない。
どうしてこんなに綺麗な顔をしているのに隠してしまうのか。少しだけ勿体無いと思った。
「……ん……」
しばらくして、リアがぱちりと目を開けた。眠そうにパチパチと瞬きをして、目元をぐしぐしと擦っている。
「あんまり擦ってはいけませんよ」
「……ん、あぁ、うん……」
寝起きでぼんやりとしているらしく、返事も曖昧で聞いているのかいないのか分からなかった。
ベッドから降りようとして、自分の髪の毛で滑ってバランスを崩している。それを慌てて支えた。
やはり、小さい。小さくて、細い。そして、おおよそ人とは思えないほど冷たい。すっぽりと天の腕に収まったリアは、またうとうととしている。
こんなに小さな体で、こんなに細い腕と脚で自分を救って、守ってくれたのか。
急に愛おしくなって、ぎゅうと抱き締めた。息苦しくなったのか、モゾモゾとリアが動いて、するりと腕の中から出ていってしまった。
「……おはよ」
「おはようございます、リアさん」
「今、何時?」
「そこに時計がありますよ」
「見えない」
全く、とため息を吐いて今の時間を教えると、リアはひとつ頷いて立ち上がった。
「よし、これなら行けるね」
外に出る準備しておいて、と天に言って、リアはさっさと部屋の外に出ていってしまった。
(本当に、何を考えているのか分からない)
とりあえず言われた通りにしようと思って、天も一旦部屋に戻った。
一通り準備が終わって部屋の外に出ると、そこにはリアが待っていた。
きちんと寝癖も直されていて、顔は仮面で隠されていたけど、いつもの大きな黒い上着は来ていなかった。
「今からちょっと歩くよ。街の外れにあるとこだから」
そう言ったリアに連れられて、ただひたすら街を歩いた。途中で天の興味を引くものがいくつかあったが、無心で歩いているらしいリアを呼び止めるのも気が引けた。
結局、また帰りに通ったらその時見ればいいとその場は納得させて、天はリアのあとを追って歩いた。
職人街を抜けて、市街地に出る。ここも人の往来が多くて、色んな露店が並ぶ活発な場所だったが、天は小さな体躯で人の隙間を縫って進んでいくリアを見失わないようにするのに精一杯だった。
そこも抜けると、今度は廃墟郡に出た。何らかの理由で人の大移動があったのだろう。全く人の気配が感じられない。あるのはぼうぼうと生えた雑草と、損傷の激しい家屋のみだった。
「まだ着きませんか?」
もうかなり歩いたところで、天の口からそんな言葉が出た。二時間以上歩いている。ここまで一回も休憩などはなかった。正直なところ、天はかなり疲れていた。
「ごめん、一回休む?後ちょっとで着くよ」
この少女が指す「ちょっと」がどれくらいなのか分からないから、とりあえず首を縦に振った。
するとリアはどこから取り出したのか、赤色の布を取り出して地面に広げた。
そして自分がその上に座ったあと、その隣を手のひらで叩いて、天にここに座るよう促した。
リアの隣に腰を下ろして、大きく伸びをする。申し訳なさそうに、リアは水を差し出した。
「ごめんね、天のことあんまり考えれてなかった」
水を受け取って、一気に飲み干す。軽く口元を手で拭って、空になった容器をそばに置いた。
「ありがとうございます。……ところで、これはどこに向かっているんですか?」
「えーっとね、ヘルメのとこ」
ヘルメ。街の名前にもなっている、鍛治の神のことだろう。天の記憶では、既にその神は亡くなっている筈だが、どうやって行くのだろうか。
「天、もう見えない?そこにあるの」
「何がですか」
「頑張って見てみて」
リアが指さした方を見ても、特別何か見えるわけでもなかった。
おかしいな、と首を傾げたリアがそっと天の額に触れると、すぐにパッと手を離して言った。
「天、お前なんかあったでしょ」




