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魔女と狐の墓参り  作者: 長尾いのり
大樹と三つ葉のクローバー
33/43

ゆっくり休んで

 宿屋のベッドに四肢を投げ出して、ぼうっと天井を眺める天。何とかあの場所から戻ってきて、リアがとっていた宿にやってきて、そこからはリアと別行動だ。もう既に天の体力は底を尽きかけており、まだまだ元気そうなリアはどこかに行ってしまった。


 リアは別の部屋をとっているらしく、この部屋を使うのはは天ひとりだけ。それもあって、すっかり気が抜けてしまった。そのせいもあってか、妙に体が重く感じる。

 いっそのこと、このまま眠ってしまおうか。そんな考えが脳裏をよぎる。


(……それも、良いかもしれませんね)


 どうせ、今日の予定はもうないのだ。というより、今日が濃密過ぎた。まだこの街に来て一日経っていないなんて信じられない。自分がこれだけ疲れているのも、それが理由だ。それ以外あり得ない。


 こんな言い訳を延々と重ねているのも、きっと疲れているからだ。


(……寝よう)


 目を閉じると、一気に睡魔が襲ってくる。それに抗わず、天は眠りに落ちていった。


 ―――――――――――――――――――――――――


 気がつけば、天は真っ白な空間に立っていた。周りを見ても何もない、ただただ四角に区切られた空間だった。


「……夢、ですか」


 一度そう思ってしまえば、夢としか思えなかった。それに、こんなことを考えるまでもなく、こんな場所は現実にはなかなか存在し得ないだろう。


 目の前には透明な壁があって、向こう側にいるのは一人の女性だった。


 緑色の髪を結ばずにそのまま流していて、長い前髪の隙間からアイスブルーの瞳が見え隠れしていた。その瞳は、知的な光を湛えている。着ている服は、随分昔に流行ったものだ。


「賢者か何かですか」


 思わず呟いていた。そう言いたくなるくらい、女性は賢人の雰囲気を漂わせていた。


 目の前の女性は、なにも言わずただ微笑んでいるだけだった。彼女は瞬きひとつしない。天を見つめ、静かに笑みを浮かべる。

 その顔に、なぜかリアが重なった。全く違うはずなのに、ほんの微かに雰囲気が似ている。もしかして、彼女の縁者か何かだろうか。


 どれくらいそうしていたのだろうか。いつの間にか女性は消え、天一人だけが真っ白の空間に取り残されていた。だが、まもなくこの空間には誰もいなくなるだろう。そんな予感があった。


 一度目を閉じて、もう一度開ける。その時には、宿屋の天井が写った。

 あの夢はなんだったのだろうか。不思議な夢だった。

 どのくらい眠っていたのかは分からないが、疲れは大分癒えている。外を見ると、当たり前のように真っ暗だった。慌てて明かりをつけて時計を見ると、針が指すのは夜の九時。宿屋に来たのは、確か四時ごろだった筈だから、五時間は眠っていたことになる。


「おはよう」


 急に声が聞こえてきて驚いた。よく見れば、床にちょこんとリアが座っている。


「……おはようございます」

「寝てたね。もうちょい寝とく?」

「いえ、もう大丈夫です」


 ほんと?と言いながら、リアは立ち上がって手にしていた紙袋を天に差し出した。

 目の前に突き出されたそれを受け取ると、ほんのりと温かい。いい匂いが鼻腔をくすぐった。


「何ですか、これ」

「夜ご飯買ってきてあげたよ。いらないならいいけど」


 袋がガサガサと音を立てる。少しだけ中を覗いてみると、ビスケットとさらに袋に包まれた何かが入っていた。


「売ってたから買ってきた。食べたけど、美味しかったよ。飲み物も置いとくから。じゃ、お休み」


 また明日ね、とヒラヒラ手を振って天の部屋を後にするリア。その後ろ姿を見送って、天は袋の中身を取り出した。小さな箱に入っているビスケットがひとつと、謎の袋。うっすら透けて見える色は、茶色と緑と赤。匂いを嗅ぐと、小麦と野菜の匂いがする。


 開けると、中にはしっかり焼かれたパンにレタスとトマトが挟まっていた。よく見れば、肉のようなものもある。昔来たときも、今日の昼間もこれの屋台を見たことがあった。おそらく、この街の名物なのだろう。


 リアが去った後を見ると、床に何かが置いてあるのがわかった。ガラスの瓶に入った、乳白色の液体。ほんの少しだけ舐めてみると、甘かった。砂糖とかの甘さではなくて、自然な、果物のような甘さ。


(明日、これの正体を聞きましょう)


 お腹も空いている。彼女が置いていったということは、結局は安全なのだ。かなり困った人ではあるが、害はなさない。取り敢えず、まずはビスケットを齧った。




「おはよー、寝れた?」


 朝の七時頃、リアが天の部屋を訪れた。当の天はといえば、まだ眠っている。やば、とリアが口を手で覆う。昨日は頑張ってくれたし、起こすのもかわいそうだ。そう考えて、リアは部屋に戻った。


 そう広くもない彼女の取った部屋は、いろんな物で溢れかえっていた。昨日のうちに買ってきたであろう食料や水、そして何に使うかもわからないがらくた達。


「流石、職人の街だね。いっぱい良いのがある」


 そのうちのひとつをつまみ上げて、リアは笑った。妖精達にはあげられないけど、ヘルメの追悼には良いかな。


 天が起きてくるまで、とリアはがらくたをあれこれ分解して組み立て直し始めた。

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