古代遺物
世界の遺物。まさか、あの雑貨屋に紛れ込んでいた本がそんな大層な物だったとは。リアも想像していなかった。もちろん天も想像していなかったので、あまりの衝撃で固まってしまった。
「えー、ちょっと待って。それほんと?」
「さっきメリューさまが言ってたもん!」
「だからって……。おーい、大丈夫ー?」
まだ固まっている天を軽く指でつつくリア。まああんなこと聞いちゃあな、と少し諦めている。
『あー、それ、世界樹には関わり無いよね?』
「わかんない。あたしたち、なにもみえなかったから。でも、メリューさまはみえてるみたい」
メリクスーラはどうやらあの本が読めるらしい。ほかの人は読めなかったのに。読める人物の法則が分からない。
(あ、もしかして)
リアは、神やそれに準ずる存在のものが読めるのでは、と考えた。つまり、人よりも上位の存在が本の内容を知る権利があると思ったのだ。古代神聖語で書かれているし、なんだかそれっぽい。天が読めるのは例外というか、持ち主認定されているからだろう。探求者が読めないのは……ただの化身に過ぎないから。
その仮説はまだ発表するには拙すぎる、と思ってリアは言わなかった。どうせ、いずれ分かることだろうし。分からなかったらべつにそれでいい。読めるようになる訳でもあるまいし。
「少し、いいか?」
リアの思考に割って入るように、声が響いた。声の主はメリクスーラで、ノニエルや探求者の視線を見るに天とリアに掛けられたらしい。何やらほかの面々には聞かせたくない話らしく、少し離れたところに誘導された。辺りに木々が茂り、少々暗くなっている。おかげで、この周囲には声も通りにくい。
「すまないな、こんなところまで連れてきて」
「それは構いませんが……。何かありましたか?」
にこりと笑顔で問いを返す天。リアは凄いなー、なんて思いながら眺めていた。
対するメリクスーラは渋い顔。何か言いにくい事実でも見つかったのか。ありそうなのが怖い。
「ねぇ、早く言っちゃった方が楽になれるよ?」
「……それもそうだな。では、端的に言おう」
天はどうも緊張していらしく、一つ一つの音がいやにはっきり聞こえる。自分を含めたひとの呼吸音も、風の音も。そして、天自身の心臓の音も。
ふいに手が冷たくなった。見てみると、天の手に小さな真っ白な手が重ねられている。ふっと緊張が解れる。
「この本は、古代遺物と呼ばれるものだ。神々の時代に起きた全てのことが記されている。選ばれたもの、そして記された神だけが中身を知ることが出来る」
「あー、それがあったか!だから神様のもの、ねぇ」
ふんふんと納得した様子のリアだったが、天はあまりよくわかっていなかった。古代遺物、それがどんなものかは知っている。しかし、それとこの本がどうも上手く結びつかなかった。
「……あー、少年。これは、扱いさえ間違えなければ特になんの害ももたらさないものだ。内容が知りたければ、我が教えよう」
「それは……」
「駄目!」
メリクスーラの言葉に頷こうとした天を、リアの言葉が遮る。
一体どうしたのか。ふたりの視線がリアに刺さる。それに怯むこともなく、宙を睨むようにして言った。
「これは、人間には危ないものだよ。……それに」
そこで一度言葉を切って、ふぅ、と息を吐いた。深呼吸をして落ち着いたリアは、再び口を開く。
「それに、私が言葉を教えるって先に言ったの」
ポツリと、小さく呟いたリアの言葉が聞こえた途端、天はなんだかこの小さな少女が愛おしくなってしまった。
つまり、リアは自分の仕事を奪われた子供のように拗ねているのだ。
「そうか。それならやめよう。そんなに危険でも無いと思うがな」
「古代遺物が人に与える影響なんて未知数でしょ。みんなが私達みたいに平気な訳でもないんだから」
ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向くリアだったが、背けられた顔は満足そうに緩んでいた。思わず頭に手が伸びる。そっと撫でると、目を細めて嬉しそうに笑った。
「さて、そろそろ戻ろうか。先程から、そこで我らを覗いているのもいるしな」
草むらがガサリと揺れた。草と同化していたが、よく見てみると小さな頭が三つ見えた。三妖精が覗いていた。
「おーい、出ておいでー」
リアが声を掛けると、そっとそれぞれが顔を覗かせた。少し申し訳なさそうな顔のヴィー、悪戯っぽく目を輝かせているユダ、ぼんやりした表情のウェレ。一番最初にユダが走ってきて、メリクスーラの腰にしがみつく。
「メリューさま、なんのお話してたの?」
「少し、あの本の話をな」
続いてウェレ、ヴィーも出てきてユダと同じようにしがみついた。
「そういえば、探求者は来てないの?」
「あの子ー?」
「あのこは、いずみにもどった」
探求者は、もう泉に戻って後処理をしているらしい。リアは手伝いに行こうとしていたが、ヴィーに止められて渋々やめた。
元の場所に戻ると、心なしか葉が元気なような気がする。天がそう呟くと、ユダが自慢げに「瘴気が無くなったからね!」と言った。
どうやら、この騒動はここで一段落したようだ。
〖創世神話〗著者不明。創世から今日に至るまでの神々の情報が全て記されている。刻一刻と文章やページが増えていくが、特に見た目に影響しない。
本来神々のみが読むことができるが、時々神々に選ばれた者が現れ、その人も読むことができる。文字を書き移せばどんな人でも見ることが可能。
耐性のない者が長く中を見れば、神々との知恵差に正気を失う。




