三精霊達との再会
「あっ、帰ってきた!」
「帰ってきたー!」
「おかえり、みんな!」
水面に上がってすぐ、ノニエルが飛んできた。口々に戻ってきたことの喜びを叫びながら、くるくると四人の周りを飛び回る。
呆れたような顔のリアと、ほっとしたような表情の天。探求者とメリクスーラは嬉しそうにノニエルを眺めていた。
暫くすると、ノニエルがメリクスーラの周りに集まってくる。それぞれ目配せしながら、ユダが口を開いた。
「あのね、メリューさま」
「何だ?」
「私たち、メリューさまの病気、治せなかった」
大きな瞳いっぱいに涙をためて、ユダは俯いた。その声には深い悲しみと悔しさが滲んでいて、聞いている方も辛くなってくる。
メリクスーラは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに優しく微笑んだ。
「我の病気は、そう簡単に治る物でもない。お前たちは、何も悪くないぞ」
「っ、でも!リアたちはすぐに治しちゃったじゃない!私たちがいくら頑張っても無理だったのに!」
顔を上げて泣き出すユダをあやすように撫でるメリクスーラ。ユダの言葉を聞いて、リアは呆れた表情のまま呟いた。
「私が一体どのくらいこの世にいると思ってるの。何度か見たことあるし、治療法も知ってる。知識の差だよ」
ぽんと空中に本を浮かべて、それをウェレに渡した。そのままユダに渡さなかったのは、彼女なりの気遣いだろう。
「はい、瘴気病の資料。次はコレ見て何とかして」
ついでと言わんばかりに鳥籠も渡して、使い方を説明した。
その途中で、ユダ以外のふたりの顔も、みるみる泣き出しそうに歪んでいく。それを見てギョッとしたリアは、慌ててふたりの頭を撫でた。
「え、ちょっと、どうしたの?」
「り、りあ、ごめ、ごめんなさいぃ……!」
「なぁに、どうしたの。別に悪いことしてないでしょ?」
「あたしたち、その……。むりやり、あのこ、つれてっちゃった」
ヴィーが指差したのは、事の推移を見守っていた天。指先を追って見ていたリアは、はぁ、とため息を吐いた。
「そういうの、私じゃなくてあいつに直接言いなよ」
「……あと、わたし達ね、リアに謝らなきゃいけない事があるのー」
俯いて、小さく震えながらウェレが言う。三妖精は特に何をやらかした訳でも無さそうだし、やらかしてたとしても、リアは人命や何やらに関係がない限りは気にしない方針だった。ただ、別に良いよなんて口にはしながら、何を謝りたいのかは気になっていた。
「……あたしたち、うんめいをかきかえたの」
「え''っ」
流石に予想していなかった告白に、リアは思わず悲鳴に近い声を上げた。
「なんで!?それ、だいぶアウトなんだけど!」
「「ごめんなさい!」」
『なになに、どうしたの?』
声を聞きつけた探求者もやって来て、ウェレとヴィーの話をよく聞いてみる。曰く、本来天とリアは大樹までは辿り着かない運命だったらしい。しかし、このまま放って置けばこの地の世界樹の分木は病に負けて生命を維持出来なくなってしまう。そんな時に、ふたりを見付けたのだと言った。
「リアを見付けたときね、びびっときたのー。だって、昔来てくれた時は、とってもすごい魔法を見せてくれたでしょー?」
「……そんなの見せたっけ」
「あたしもみた。それに、いっぱいほんよんでたでしょ」
「そうだっけ」
『ちょっと君、記憶が曖昧すぎるよ』
あまりにぼんやりとした返事に、探求者はとうとう突っ込みを入れた。ビシッと言われても、リアはしょうがないと首を振るばかりだった。そんなふたりをよそに、ウェレは話を続ける。
「あの子が持ってた本、すごい物なの。世界の遺物かもー」
あの子、と言うのは天の事だろう。あの本はそんなに凄いものなのか、とリアは軽く衝撃を受けたようだった。
「あの中に、きっと何か書いてある。そう思ったらね、わたし達、ここに呼び寄せずにはいられなかったのー」
「リアは、あのほんのなかみしってる?」
「え、知らないけど。読めないもん」
えー、とがっかりした様子のウェレとヴィーを宥めつつ、そんなことを言われるとなんだか気になってきた。探求者も同様に、少しそわそわしている。
リアは天を呼んで、あの本を見せて貰う事にした。ワクワク顔の三人を置いて、天のもとへ近付く。
「ねー、天ー。本出して?」
「あれですか?少し待っていて下さい」
鞄の中を手で探って、わりとすぐにお目当ての本は出てきた。
どうぞ、と渡された本をその場で開いても、やっぱり何も書かれていない。リアには白紙のページが延々と続いているように見えた。
(……あれ?)
ふと、白紙の中に黒が見えたような気がして、ページを捲る手を止める。そのページまで戻ると、やはり文字が書いてあった。
同じページをじっと見つめるリアを不思議に思ったのか、天もページを覗き込む。
「何が書いてあるんですか?」
「……ちょっと待って」
なんだなんだと待っていた三人も寄ってくる。累計五人である一ページを覗き込む光景、はっきり言ってかなりおかしな事になっているだろう。
『あれー、これってなんかの予言?』
「違う筈だけど……。こんなの見たこと無いし」
「じゃあ何ー?」
「ふしぎなことば。ほかのぺーじもみせて」
「良いけど、あるかなぁ」
ヴィーに急かされるままページを捲る。やはり彼女の目にも何も写らないようで、白紙が続くのを不思議そうに眺めていた。
「なにもかいてない。あそこだけなの?」
「私の目には、びっしりと文章が書かれているのが見えますがね。どうやら他人には見えないようで」
「狐のお兄さん、内容分かるのー?」
「残念ながら、殆ど分かりません」
「なんだー」
ちぇ、と言い出しそうなウェレを横目でチラリと見て、ヴィーは「すこしかりていい?」と許可を取ってから本を受け取って駆け出した。
彼女が向かった先にいたのは、メリクスーラ。おそらく、世界樹の分木なら読めるかもと思ったのだろう。
一言二言声を掛けて本をメリクスーラに差し出す。横からユダも覗き込んできた。
ペラペラとページを捲っていたメリクスーラは、ふとあるページで手を止めた。
それを指で指し示したあと、ユダとヴィーに何か耳打ちをして、またページを捲り始める。
すぐに駆け寄ってきたふたりは、口々に言った。
「「あれ、神様のものだって!」」
ちなみに、メリクスーラさんの性別は特に決めておりません。むしろ性別なんて無いんじゃないかな。




