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魔女と狐の墓参り  作者: 長尾いのり
大樹と三つ葉のクローバー
30/43

瘴気騒動のその後

 一際強い光が辺りを包んだ。前が見えない。繋がれた探求者の手の感覚だけで、繋ぎ止められているような気がした。


「もう離していいよ、一旦出て!」


 リアの合図で籠の外に出ようとしたふたりだが、いかんせん視界が機能していないが為になかなか出ることが出来なかった。

 リアがぐいっとふたりを引っ張って連れ出す。だんだん光が収まってくると、籠の中の状況が見えるようになってきた。


 籠の中には、ひとりの老人が転がっていた。身に纏う装束はボロボロだったが、かなりいい作りをしていることが分かる。

 リアはその傍にしゃがみ込んで、蓋を開けた瓶の中身を振りかけていた。


『ねー、それ何?』

「さあ、なんだろうね」


 中身の無くなった瓶をポケットにしまって、立ち上がる。

 近くに行って見てみると、老人は眠っているようだった。


『だいぶ老けてるね。頑張ったんだなぁ』

「こいつ、力使いすぎるとこうなるの?」

『そうそう。……にしても、なんでこんなに瘴気に飲まれてたんだろ』

「鍵が無くなったからじゃない?良かったね、これ以上手遅れになる前に戻せて」


 親指をグッと立てて天に向けるリア。無表情気味だが、褒めているのは伝わった。


 そうしているうちに、老人が微かに身じろぎする。

 気付いたリアが老人を抱き起こして、何かを渡していた。老人の手元を見て、それが乳白色の液体だと言うことが分かった。


 老人がガラス瓶の蓋を開けようとしていたが、力が入らないようで開けられていなかった。

 それを見た探求者が寄っていって、代わりに蓋を開ける。そのまま老人の口元に持っていって、軽く傾けた。


 液体が順調に減っているのを確認したリアは、ある程度老人が飲んだところで「ストップ」と声を掛けた。


「よし、これでいいはず。ねえ、お前が分木?」

「……そうだ。貴様は……」

「私はリア。……あぁ、無理はしないで。さっきまで瘴気に飲まれてたんだから」

『そうだよ。無理はしたら駄目、メリクスーラ』


 何か言おうとして咳き込んだ分木(メリクスーラ)の背中を、リアと探求者で撫でる。天は分木に羽織っていた外套を掛けた。


「……はやく、早く行かないと」

『どうしたの、そんなに焦らなくても大丈夫だよ』

「駄目なの。……まだ、向こうに瘴気が……」

「え、まじ。どこら辺か分かる?」


 確かに、だんだん明るくなり始めている空間にポツポツと黒い靄が点在している。それのことを指しているのだろう。


「えーっと、天。私、瘴気払い行ってくるから、その、分木のこと任せていいかな?」


 どこか気まずそうに天に言うリア。少し不安はあるが、思ったより分木は元気そうだ。大丈夫ですよ、と頷くと、リアはパッと表情を明るくした。あまり表情筋は動いてないが、見て分かる。そういうタイプなのだろう。


「じゃあ、任せたよ!」


 その声が聞こえた時には、もうリアはいなかった。

 天の隣で、探求者が呆れたような声を上げた。


『あの子、随分足が速いんだね』

「そうですね……」


 とにかく、任された以上分木の方に集中しなくては。そう思って分木に近付く。

 少し若くなったような気がする。先程、力を使いすぎると老けると聞いたので、回復してきているのだろう。


 木の葉のような髪に、水の色を映したような瞳。首から金の鍵を下げて、足を斜めにして座っていた。

 ぼんやりとふたりの方を向いて、話しかけられるのを待っているようだった。


「……あー、メリクスーラ、さん?」

「貴様は、()()を届けてくれた者だな?助かった、礼を言う」


 鍵をつまんで揺らしながら、分木は頭を下げた。

 天は慌てて手を振り、「そんな大したことはしていない」だとか「お礼を言われる事じゃない」だとかモゴモゴと口走った。

 それを探求者はニコニコと笑いながら眺めている。

 顔を上げたメリクスーラも、探求者と同じように笑っていた。


 そんな視線に耐えかねたのか、天はふい、と顔を背けて言った。


「そ、そういえば。この鍵は、バリエステロの方にあったんです。それで、そこにいた方がこれの持ち主を知っているようでした。なぜ届けなかったのでしょうか」

「ほう?……そいつの名は分かるか?」

「えっと……」


 思い出そうとするが、なぜか霧が掛かったように思い出せない。

 確かにあそこまで天を案内して、説明をして、手助けをしてくれた人物は存在する筈だ。

 必死に記憶を探って見ても、何も分からない。微かに降った雨の中、夢を見るように静かに舞っていた……。


(……あれ?)


 そもそも、そんな人物は本当にいただろうか。これだけ記憶が曖昧ならば、いつの間にか自身が作り上げてしまった妄想かもしれない。


「気のせい……かもしれません」

「そうか。それなら良い」


 ふいにメリクスーラが立ち上がり、上に行こうかと言い出した。


『え、駄目だよメリクスーラ。あの子がまだ戻って来てない』

「あの子、とは?」

『あの子だよ!君を助けて、残りの瘴気を払いに行った!』

「ふむ、彼女か。あれだけ気配が分かるのであれば、先に行っても大丈夫なのでは無いか?」

『駄目ー!』


 まるで親と子のような会話が続く。さっきまでとは立場が逆転した。今度は、天が微笑ましく彼女達を見守る番だ。


(探求者さん、以外と子供っぽいんですね)


 その視線に気付いて、少し頬を赤くした探求者がじとりと天を睨む。

 片手を上げて謝る動作をして、視線を外に向ける。

 もう殆ど上と同じような明るさになっている。息をする度、小さな空気の玉が浮かんでいく。あまり意識できていなかったが、ここは水中だった。


 クリアになったお陰で、遠くにリアがいるのが小さく見えた。

 あまり急いではいないみたいで、ゆっくり近付いてくる。どうやらもう瘴気を全て払い終わったようだ。


 天が見ている事に気付いたのか、リアは大きく手を振った。その手とは反対の手に、大きな棒のような物が握られている。あれがリアの武器なのだろう。


「ただいま」


 かなりの距離を行き来したはずなのに、リアは息ひとつ乱れていない。しかし、その長い髪はところどころ絡まっていた。


「お帰りなさい。お疲れ様です」


 リアの髪を手櫛で整えながら、労いの言葉を掛ける。少女は少し目を細めながら、嬉しそうに笑っていた。


「戻ったか。瘴気は」

「大丈夫。見える範囲のは、だいたい払ったから。それで?上に行く?」

『君が大丈夫そうなら、今すぐ行きたい所だけど。少し休む?』

「ううん、大丈夫」


 リアが平気と言うので、すぐに地上へ出ることになった。

 キョロキョロとあちこちへ行きそうになるリアを探求者と天で抑えながら、メリクスーラにあわせて進んでいく。


(……結局、あの貝殻はどこから来たんだろう)


 そんなリアの疑問が口に出される前に、一同は泉の水面近くまで辿り着いた。

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