森の目的
「まあ、こんなものですか」
ふう、と息を吐いた天の足元には、身体が穴だらけになったロックスパイダーが転がっていた。
「案外いけるものですね。……そういえば、リアさんは?」
先程、森の奥の方へ消えていったきり戻ってこない小さな魔法使いだが、自分の戦闘も終わって落ち着いてみると、だんだん心配になってくる。
「探しに行ったほうが良さそうですかね」
幸いなことに、まだ体力は残っている。
リアを探しに行くことに決めて、森の奥へ足を向けた。
「おかしいな」
奥の方へ足を踏み入れて歩いていくうちに、違和感を感じ始めた。
明らかに音がない。
風で木々が揺れる音なんかはするけれど、鳥や小動物なんかが立てる音が何も無い。
恐らく、この近くでロックスパイダーとの戦闘があったのだろう。それで、動物たちはこの場を逃げ出してきたのだろう。
しかし、どれだけ進んでもリアが見つかる気がしない。
獣人であるがゆえに気配に聡く、耳も良い天だが、微塵も気配を感じない者相手では、どうすれば良いのか分からない。
「一度戻ってみましょうか」
「そうそう、それが良いよ」
不意に聞こえてきた声に、ぱっと横を見ると、そこには今の今まで探していたその人がいた。
「よくここまでこれたねぇ。強いやつとか、いたんじゃない?」
「全くもって見かけませんでしたよ、獣も鳥もいませんでした。絶対に原因は貴方でしょう?」
「うぅん、そうかも。ちょっとやり過ぎちゃったみたい。でも、大方隠れてるだけだと思うから大丈夫だよ。それよりさ、休憩しない?私、疲れたー」
そう言ってその場にぱっと座り込んだリア。その後、鞄から布を取り出して地面に広げた。
「ここ座りなよ、天。汚れるの嫌でしょ」
「ありがとうございます。……どうして貴方が座る前に引かなかったんですか、これ」
呆れたようなため息混じりの天の言葉に、リアはニコニコ笑うだけだ。
その表情も、長い前髪と付けられた仮面のお陰でほとんど見えないのだが。
彼女から差し出された水を受け取って、リアがこの森に来た理由を考える。
まず第一に考えられる理由は、仕事のため。しかし、仕事を受ける前にここにいたから、これは違うだろう。この森を突っ切ってショートカットをしようとしたのかもしれない。
この森を突っ切ったところで、どこに出るのかはわからないのだが。
考えてもわからないので、潔く本人に尋ねてみることにした。
「え、この森に来た理由?人少ないし、私の欲しい素材があるんだよね。あとは、君の戦闘訓練のため、とか!ついでに、反対側に抜けると、近くに花の街があるから、そこいこうと思ってね。あ、でも、抜けるには一週間くらいかかりそうだから、そこだけよろしく」
だそうだ。
「花の街、ですか。この森、あんなところに繋がっているんですね」
「うん。結構前にね、花の街にいる知り合いに教えてもらったの」
曰く、街道を通るよりも早いらしいが、森を突っ切って抜けるには並大抵の冒険者では実力が足りない、らしい。
「魔物も多いし、頑張ろうね」
「……大丈夫か、これ」