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魔女と狐の墓参り  作者: 長尾いのり
大樹と三つ葉のクローバー
28/43

瘴気病

 天が泉に引き込まれた後、そんなことを知りもしないリアは必死で天を探していた。


「え、マジでどこいったの?」


 一緒に探していたノニエルを振り向いて尋ねたが、彼女達は困ったように顔を見合せるだけ。


 集まってこそこそと話始めたノニエル。リアは少し近付いて、耳を澄ませた。


「言うべきかな?」

「言った方がいいかもー?」

「たぶん、いったほうがいい」

「へえ、何を?」


 リアが声を掛けると、驚いたように一斉にノニエルが振り向いた。ヴィーがこめかみに手を当てて、「そうだった」と呟く。


「リアのじごくみみ」

「はいはい。で、何を私に言った方が良いって?」


 一番ものを知ってそうなユダに問い掛ける。なんてったって彼女がこの空間を操っているようなので。

 リアにじっと見つめられて、ユダは少し怯んだように一、ニ歩後退りした。

 その距離を詰めるように、リアも足を踏み出す。


「ねえ、本当に。教えてよ、私、あいつのことが心配なだけなの」


 どこか必死さを滲ませた催促に、ユダは漸く口を開いた。


「あのね、今、この分木は病気なの。瘴気に侵されてる。あの狐のお兄さんを呼んだのも、病気の分木。鍵を返してくれたでしょう?だから、気に入られちゃってるの。瘴気に触れて、平気そうにしてるから!」

「え、あの鍵って瘴気ついてるの?」


 私平気だったけど、と嘯くリアに、「それはリアの体質がおかしいだけ」と返される。


「きっと、泉に引き込まれた。根元と繋がってる場所だから」

「……泉?あそこって、管理者(お前ら)じゃないと触れなかったっけ?」

「他にも触れるひといるよ。分木の化身とか」


 ここまで来ると、天を連れていった物が『化身』と呼ばれる存在であることが分かってきた。

 その化身の詳細を聞くと、ユダもあまり詳しくは知らないようで、首をか傾げていた。


「病気の分木と化身は別物なの?」

「そうだよ。化身は分木が産み出したもので、それ自身じゃないの」


 リアのなかでは、ひとつの計画が定まり掛けていた。その化身とやらを叩いて、天の消息を聞き出そう。知ってるかどうかは分からないけど。少しでも分木に近付けたらそれでいい。


 そう話すと、ウェレが


「どうして直接分木に行かないのー?」


 と尋ねてきた。その疑問ももっとも。わざわざ化身を経由するより、本体を叩いた方が早いのはリアも分かっている。


「危ないからだよ。瘴気病の罹患者の症状は多岐に渡る。下手に刺激しない方がいい」


 それに、と一度言葉を切って、泉を真っ直ぐ見据える。


「その化身がわざわざ出向いてくれるんだったら、無下にはしない方が良いでしょ?」


 リアがそう言い終わった時、泉から灰色の影が姿を現した。

 きゃあ、と悲鳴を上げるノニエルには目もくれず、その影はリアに近付いて来る。


 灰色のローブの人物は、リアのすぐそばまで来たと思ったらバサリとリアのフードを取り払った。


「え、何!?」

『うん、君があの子の言ってた友人みたいだね』


 うんうんと頷く化身?をリア達が呆然と見つめていると、その人物はそれを意に介せず話し出した。


『初めまして、私は探求者。分木の化身だよ。どうせ聞いてるんでしょ?……さて、友人さん。君の友人が今大変なことになってる』

「瘴気病の本体に絡まれてるって?」

『まあ、ざっくり言えばね。まだ見つかってなかったけど、時間の問題。だから、君になんとかしてもらいたいなって。あの子が、君ならって言ってたの』


 真っ直ぐ金色の瞳で見つめられたリアは、ひとつため息を吐いてポケットを漁り出した。

 そこから幾つかのガラス瓶を取り出し、二つほど探求者と名乗った化身に放り投げる。

 探求者がキャッチしたのを見届けて、リアは仮面を外した。


『あれ、それ取っちゃって良いの?』

「別に。人に顔見られたくないだけだしね」


 仮面着けてると視野が狭くなるし、とは口には出さなかった。

 ふうん、と興味無さそうに相槌を打った探求者。特に気にした様子もなく、リアは探求者に向かってもうひとつ瓶を放った。


「さっきの瓶が瘴気をひっぺがす薬で、今の瓶が……まあ、使わないだろうけど念のためね」

『え、何なのこの瓶』

「開けなければ知ることも無いよ、大丈夫大丈夫」

『怖いな~』


 そんな会話をしながら、探求者の先導で二人は泉に飛び込んだ。

 上から見ていた時に、おおよそまともな水の色をしていなかった事を含めてリアは少し嫌がっていたが、天の為だと薬をあおって覚悟を決めた。


『ねー、なに飲んでたの?』

「何だと思う?」


 真っ暗な中、緊張感の無い会話が続く。探求者はここの地形を把握していると言うし、まだまだ本体までは遠いから。リアの方も暗闇で物を見る術を持っているし、感覚で本体の場所もなんとなく分かる。

 それ故の安心した会話だった。


 あちこちに凹凸があって、それを避けるように進んでいくと、巨大な窪地に出る。そこには大量の貝殻が転がっていた。


「なんで貝殻?」


 足元に落ちていた物をひとつ拾い上げ、しげしげと眺める。真珠の表層のような感触。光に照らすと、きっと七色に美しく輝くことだろう。


「貰ってこっと」

『え、持ち帰り?』


 しれっと貝殻をポケットに仕舞ったリアに、探求者は驚きの声を上げる。リアは不思議そうに首を傾げた。


「だめ?」

『いや、うーん……』

「あ、そっか。これ本体のだよね。いや、それにしたってなんでこんなところに貝殻があるのさ」


 中身入ってないし、と拾い上げた貝殻を指先で弄ぶリア。

 その様子を見て、探求者は苦笑いを浮かべた。


『いつの間にかこうなってたよ。数百年前に、どこからかこれが持ち帰られて以来ね』

「ふーん……」


 つまんだ貝殻をじっと見つめて、その後もう一度ポケットに仕舞い込んだ。今度は、薄い布に包んで。


「よし、じゃあ行こうか。天を待たせちゃってる。あんまり怖い思いさせるのは本意じゃ無いしね」

『うん、そうだね。そっか、あの子は天って言うんだ』

「そうだよ。……うーん、瘴気が濃くなった気がする。急ごう、ほんとに危なくなってきた」


 二人は揃って走り出した。探求者を前に出しながら、リアはその後を追う形になっている。

 ところどころに穴が開いていたり、道が途切れていたり、迷路のようになっていたりもしたが、そこは探求者が避けて行ったので引っ掛かることはなかった。


 どんどん下へと降りて行く。その間に、少しずつ瘴気が濃くなっているのが分かった。そして、リア達の耳にも奇妙な反響を持つ笑い声が届いた。

 まるで、壊れたスピーカーに通したかのような、そしてそれを何度も壁にぶつけたかのような声。


 その声に、二人は顔を見合せた。


「これ」

『うん、本体だね。どうする?』

「どうするって言われても。取り敢えず、正確な位置を把握しないことにはどうにもならない。近付くよ」

『うん、それがいいと思う。……こいつ、たぶん天君にしか目がいってないから、近付いてもばれない』

「気をつけるに越したことは無いから」


 そうっと、なるべく足音を立てないように、それでいて出来る限り早く走った。


 床に白い粘液が付着し、先程までよりも各所がボロボロになっている。糸が辺りを覆うように張り巡らされている。近くを通りすぎる時に、その糸に繋がれた生き物の死骸らしき物を見た。真っ黒に染まっていて、体も崩れ掛けている。


「あれが瘴気に侵されたものの末路だよ」

『……君、治せる?』

「あそこまでいっちゃあね。でも、本体の方は大丈夫だと思うよ。……ただ鍵を届けたやつに対して、なんであんな執着してんのかは気になるところだけど。そこは本人に聞けば分かるかな」

『多分ね』


 こそこそと会話を交わしながら走っていると、ぼんやりとした光が見えた。僅かに、異形の化け物の姿も見える。


「あいつだ。拘束出来るかな?」

『難しいかもね。気付かれるから』


 もうここまで来たし、とリアはわざと足音を立てて走り出した。

 本体が二人の方を向く気配は無い。

 直接何かしない限り、本体がこちらに気付くことはないだろうと探求者は言う。


「……なら」


 リアがそう呟いた途端、本体がリアの方を向いた。

 探求者はぎょっとして彼女に問い掛ける。


『ち、ちょっと、なにしたの!?』

「え、ちょっとした爆撃」

『何やってんの……』

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