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魔女と狐の墓参り  作者: 長尾いのり
大樹と三つ葉のクローバー
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女神の語る運命

「ほんとうに、なんでこんなところでまようの」

「知らなーい。ヴィーが迎えに来てくれて良かった」


 小道を抜け、神殿の中を歩くふたり。リアは「ここの構造どうなってるの」なんて零していたが、ヴィーはしらない、と首を振っていた。


 二人分の足音が、石の床に響く。ひとつは柔らかく、もうひとつは硬い足音。


「相変わらず不思議な空間だよね。この神殿とかさ、岩くり抜いて作ったみたい」


 キョロキョロと周りを見回していたリアは、隣を歩くヴィーに話しかけたが、ヴィーはそれに反応することはなかった。一瞬つまらなそうな顔をしたリアだったが、すぐにヴィーのそばを離れてあちこち観察し始めた。


「リア、はぐれるよ」

「うん」

「……あとでいくらでもみせてあげるから、まずはこっちきて」

「うん」

「まったく。きつねのおにいさん、待ってるよ」

「え、天が?」

「やっとへんじした」


 ヴィーはため息をついて、リアの腕を引っ張った。夢中になっていたリアは生返事を繰り返していたが、天のことを出されてようやくまともな返事を返した。


「リア、いくよ」

「うん。……あ、これ気になる」

「あとでみせるから!」


 ―――――――――――――――――――――――――――――


「あ、あの樹。ここにはあるんだね」

「あたしたちのよりどころだから。はやくいくよ、ユダたちがなにしてるかわかんないし」

「……あー、そうだね。てか、今回は()()()?ユダ?ウェレ?それともヴィー?」


 リアがヴィーの顔を覗き込みながら尋ねた。ヴィーは表情を変えず、小さく肩をすくめる。どこか呆れたような素振りからは、知っているのか知らないのか、読み取ることは出来なかった。


「あたしたちがはこぶうんめいを、きちとするかきょうとするかはあなたたちしだい。でも、わたされたうんめいは、あくまでいまだけのものだから、いくらでもかえられるよ。……きく?」


 少しためらったように、ヴィーが言葉を付け足した。ヴィーの持つ運命を、彼女は話してもいいと言っている。しかし、リアは首を振ってそれを拒否した。


「別に良いや。不確定要素を知ったって、でしょ?あぁでも、あの子が聞きたがったら話してあげて」

「わかった」


 それきり会話はなく、ふたりは揃って進んでいった。

 リアが草原に足を踏み入れたとき、何処からか鳥の声が聞こえてきた。聞き馴染みの無い、しかし必ず聞いたことのある鳴き声。空を見上げると、赤い、大きな鳥が青の中を飛んでいた。羽ばたく度に炎が空に舞った。その鳥はくるりと旋回して高度を下げ、地面に降り立とうとする。


 リアは反射的に走り出し、鳥の着地地点に行こうとした。しかし、そう進む間もなく鳥はリアの目の前に舞い降りる。依然として鳥の体には炎がまとわりついていたから、リアは少しヒヤッとした。

 ところが、その炎が草原のクローバーを燃やすことは無かった。なんなら、炎が鳥に伸ばしたリアの手に触れてもほんのり温かい程度だった。


「え、なんでここにいるの?こいつ、もしかして精霊?」

「ちがうよ。せいれいっていうよりもむしろ、このこはかみのよりしろになってる」

「依り代?あー、同一神とかじゃなく?」

「ちがう。このこをつかってるのはせかいじゅ」


 いくよ、とリアの手を引っ張りながら、ヴィーは喋った。特になんの抵抗もせずに引っ張られるまま歩いていくリアの後ろに、火の鳥が着いてきていた。


「へえ、世界樹(ユグドラシル)?そういやここの樹って分木だったね」


 ヴィーは頷いて、そっとリアの背中を押した。


 バランスを崩しかけて一歩踏み出したリアが驚いて後ろを振り向くと、ヴィーが相変わらず真顔で手を振っていた。

 そして火の鳥によじのぼり始める。火の鳥の背中に落ち着いたヴィーは、さっさと行け、と言わんばかりに顎で大樹を指した。


 何なの、とリアが前を向くと、リアに気付いた天が駆け寄ってくるのが見えた。


(なんだ、教えてくれたのか)


 やり方は少し乱暴だけど、なんだかんだ言って優しいんだから。

 リアも歩いて天に近付く。離れてからそこまで時間は経っていない筈なのに、随分長い間見ていなかったような気がする。


「リアさん、大丈夫でしたか?」


 開口一番に心配の言葉を口にする天に、リアは少し笑ってしまった。


「まずは自分の心配しなよ。こんなとこに招かれて、なんで平気なのか分からないけど」

「何か害があるような場所なんですか?」

「そういう訳じゃ無いけど……」


 とにかく無事で良かったよ、と天の手をとって微笑むリア。


「取り敢えず、」

「そこまで」


 帰ろう、とリアが言い終わる前に、何処からか聞こえてきた声がそれを遮った。

 ふたりが揃って声の方向を見ると、ほど近いところに火の鳥に跨がったヴィーがいた。その両隣には、ユダとウェレの姿もある。


 しかし、聞こえた声はその三人のうちのどれのものでも無かった。

 なら誰が、と辺りを見回してみるも誰もいない。と、その時、ふわりと火の鳥が飛び立った。


 ふたりの方に近付いてきた勢いのまま、ぶつかってくる。


「わっ、あぶなっ!」


 天の手を引いて避けようとしたリアだったが、動くより先に火の鳥とぶつかる。


(……すり抜けた?)


 リアが羽毛のもふっとした感触を感じたのはほんの一瞬で、直ぐに消え去った。


 思わず瞑っていた目を開くと、手を握っていたはずの天の姿が無い。飛ばされたのかと思って辺りを探したが、どこにもいなかった。

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