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魔女と狐の墓参り  作者: 長尾いのり
大樹と三つ葉のクローバー
23/43

大樹の精霊

 ふんふん、と楽しそうに鼻唄を歌いながらぴょんぴょん跳ね回るノルン。


「狐のお兄さん、はやく!」

「こっち、こっちー」

「ころばないようにね」


 相変わらず、三人分の声が聞こえてくる。彼女を追いかけながら、天は先程の出来事を反芻していた。


 相手が名乗った以上、こちらもと口を開きかけた天だったが、それは叶わなかった。見えない何かに塞がれているように、口を開くことができない。


「だめだよ」

「うんうん、だめー」

「のるん、あなたのなまえはしっちゃだめ。かみさまだから」


 聞いたことがある。神や上位精霊に名前を知られてはいけないと。もし知られてしまえば、彼らに全てを握られたということになってしまう。


(フローラさんは……まあ、リアさんの友人のようですし)


 それにしても、この少女は神だと言ったか。リアの話では、ここにいるのは『悪戯好きの精霊』である筈だ。


「貴方たちは、精霊では無いのですか?」


 天が問いかけると、ノルンは首を横に振って、


「ちがうよ」

「ちがーう」

「もともとはせいれいだったけど、いまはちがう」


 と口々に言った。それを聞いて、天は少し考え込む。精霊が神に昇格することなんてあるのか?神は神として生まれるものだと思っていた天にとって、ノルンの言ったことは到底信じられるものではなかった。


「あっ、そうだ!」

「そういえば、あれー」

「ついてきて」


 ノルンが急に走り出した。少し走って振り返り、天を急かす。天が動くまで待つつもりのようだ。風が吹いて、ノルンの若葉色の髪が揺れる。

 天がノルンのあとを追って歩き出すと、彼女はパッと笑って走る。上機嫌に、何か鼻歌を歌い出した。


 歩いて行くうちに、だんだん大樹が見えてきた。どうしてこんなに大きな物が今まで見えていなかったのか不思議だが、ともかくノルンはそこに向かっているのだろうと想像できる。


 だいぶ距離を歩いた筈なのに疲れがない。それは、天がいるこの空間の影響なのか。それをノルンに尋ねようとしても、彼女はもう遠くにいる。時々立ち止まって天が追いつくのを待ってはいるが、ノルンの足が早いのでなかなか追いつけなかった。


「もうちょっと!」

「あと少しだよー」

「がんばって」


 いつの間にか、すぐ近くに大樹がある。いつこんなに歩いたのだろうか。そこまでぼんやりしていた気は無いのだが。


「ついたよ!」

「ついたー」

「おつかれさま。ちょっとやすんで」


 ノルンが軽く手を振ると、何もなかったクローバーの地面に椅子が現れた。

 そこへ座れとノルンが指すので、天はそれに従った。


「ここは、一体何処なんですか?」


 少し落ち着いて、天はノルンに尋ねた。神殿のような建物、森林、クローバーの草原、そして大樹。何かの神話に出てきそうな空間だ。


「ここはね、運命の地だよ!」

わたし達(ノニエル)の土地なのー」

「のにえるのなかでも、あたしとユダとウェレのくうかんなの」

「ノニエル……?」


 ニコニコと笑うノルン……ノニエル?は楽しそうに跳ね回りながら歌を歌う。初めはひとつ、だんだんふたつ、みっつと声が分かれた。みっつに分かれた時、彼女の周りに光の文字が浮かんだ。ノルンはそれを気にすることなく歌い、跳ねる。


 少しずつ、ノルンの輪郭がぶれてきた。天は思わず目を擦ったが、どうやらこれは視力の問題ではないらしい。

 気付いた頃には、天の目の前では三人の少女が歌っていた。ひとりは跳ね回りながら、ひとりは大樹に手を置きながら、ひとりは大樹の根元から水を汲みながら。

 三人の少女の見た目は、最初に見た少女とはそれぞれ少し違っていた。


 跳ね回る少女は、長い髪をふたつに分けて結んでおり、背中に蝶のような羽が付いている。

 大樹に手を置く少女は、髪は緩くウェーブしたサイドテールで、白いワンピースを着ている。

 水を汲む少女は、ショートヘアで、スカート丈がふくらはぎを覆うくらいの長さだった。

 それぞれ三人の首には、金色の鍵が光っている。


「私はユダフルフィノ!ユダで良いよ!」

「わたしはエレーフウェレンだよー。ウェレって呼んでねー」

「あたしはヴァルキュレ。ヴィーってよんでくれたらうれしい」


 三人が天に駆け寄って、口々に挨拶を交わす。そこで聞いた話だと、ノルンは三人で集まっている時の名前で、こうやって分かれている時はノニエルとなるそうだ。


「つまり、ノルンの複数形がノニエルということですか?」

「そう!」

「あたりー」

「きつねのおにいさん、かしこい」


 ユダは楽しそうに笑っている。ウェレは笑顔だが、何処か心ここに在らずな表情。ヴィーは無表情で、何を考えているのか分からなかった。


「あのね、狐のお兄さん!」

「わたし達、言いたいことがあるのー」

「このかぎ、かえしてくれてありがとう」


 どうやら、ノルン達(ノニエル)がここへ天を連れて来たのは、鍵のお礼をするためだったようだ。


いつの間にか、彼女たちは椅子を出して、ついでにテーブルも出して座っている。


「よーし、じゃあ今から……きゃっ!」

「今からー……きゃあ!」

「おれいを……わっ」


ノニエルが何かを言おうとした時、急に地面が揺れた。


(いや、天井……?)


上からガラスのような物が割れる音が聞こえた気がして天が上を見ると、空の一部に亀裂が走っていた。


「あっ、上!」

「割れてるー」

「とりあえず、ほしゅうしなきゃ」


ノニエルが空へ飛んで行って、亀裂の走った部分に手をかざす。すると亀裂は塞がり、元通りの綺麗な空になった。


「もしかして……」

「あの子かなー?」

「あのこならいいけど、いちおう、べつのばしょにてんいするようにしておこう」


ノニエルは(てん)に向かって手を伸ばし、掌から虹色の光を放った後に、降りてきた。


「これでよし!」

「もう大丈夫ー」

「さあ、つづきをはじめましょ」

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