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魔女と狐の墓参り  作者: 長尾いのり
大樹と三つ葉のクローバー
18/43

平和的解決

まっすぐ伸びた黄色の線を辿って、ひたすら走る。その内に、天はこの線が先程見たあの『探し物をしている人』に続いていると気づいた。森との境界線で、下ではなく上を向いて何かを探していたあの男。まさか、男は火の鳥を探していた?


(……あり得ますね)


リアには話さなかったが、火の鳥は見ただけで幸運が振りかかると言われるほど珍しい鳥だ。

美しい姿の、稀少な鳥。いくらサイズが桁違いに大きかったとしても、人々が見つけることはただの偶然以外叶わない幻の鳥。それを見つけてしまったのが、悪い考えを持った人だったら。捕まえて、持ち運ぶことのできるような人物だったら。

リアが何をするつもりなのかは知らないが、危険なのではないか。


「リアさん」

「待って、もう少し」


ここまで来るのにかなり走った。汗で視界がにじむ。ぼやけているのは、眼鏡がずれているからだろう。

もうそろそろ辿り着く筈だ。その事はリアも分かっているのか、少しだけスピードが緩む。

少しずつ黄色の線は薄れていって、所々途切れている。それを見て、リアはハッとしたようにまた走るスピードを上げた。


「天、ごめん、置いてっちゃうかも」

「……っ、もう、先に行って下さい!」

「ごめんね」


さらに速く、風のように走り去るリアを呆然と見送り、天は少しずつスピードを落としていき、やがて立ち止まった。

汗を拭い、ずれた眼鏡を直す。流石にこれだけ走ったのは久し振りで、疲れてしまった。


(……洋服を着てきて良かった)


まさか、ふと見つけて立ち寄った場所で、こんなに走ることになるなんて想像もしていなかった。


(リアさんが先に行っていますし、私は少し休みながら行きましょうか)


ふう、とひとつ息を吐いて歩き出す。足元のクローバーが音を吸収しているのか、足音ひとつ聞こえない。恐ろしいくらいに静かな緑と青の空間に、消えかかった黄色の線が異質に写った。不安になって、手をぎゅっと握りしめる。完全に落ち着く前に、もう一度走り出した。




「見つけたっ」


随分天の前を行っていたリアは、もう黄色の線が示すものを見つけていた。森と草原の境界で、上を向いてキョロキョロとしている男だ。

そのままの勢いで突っ込んでいきそうだったが、グッと堪えて静かに歩み寄った。火の鳥は途中で隠蔽魔法をかけて隠してある。

声を掛ける直前に、フードを深く被り直す。顔を見られてはまずいと思ったからだ。


「こんにちは。なにかお探し?」


男の肩をとんとんと叩いて、声を掛けるリア。空を見上げるのに夢中になっていた男は、飛び上がらんばかりに驚いて、視線を下にやった。

そうしたところに、真っ黒の子供がいたもんだからさらに驚いたことだろう。


「ねぇ、聞いてるの。な、にか探してる?」

「……おっ、お前には関係の無い事だ!!」

「ふーん」


話しながらリアは男の様子を監察する。なにか怪しいものでも身につけていてくれたらいいなぁ、なんて思いながら、バレない程度にジロジロと見る。


(なんかパッと見で分かるくらい怪しいものつけといてくれないかなぁ)


特別怪しいものは見つからない。しかし、あの銀色の物体が示した線も、リアの直感も、この男が火の鳥に何かしたのだと訴えている。


(……黄色だしね)


あの銀色の物体の正体は、魔力判別装置。液体は、装置の動作を手助けするためのものだ。

魔力の性質によって、指し示される色が異なる。黄色は、物質の変化を主に扱う土魔法の魔力を指す。

となれば、この男が何も怪しいものを持っていなくても納得がいく。その場で必要なものを作り出せばいいのだから。


「そこの小僧、これ以上用がないならとっとと何処かに行け!」

「……」


注意深く男を観察し続けるリアは、ふとあることに気が付いた。

殆ど見えなくなった黄色の線が、男が腰に下げた革の鞄に伸びている。


「おい、聞いてんのか!?」

「ちっ、騒がしい。少しくらい黙れない、のっ」


声を荒げる男に軽く舌打ちをして、リアは鞄を奪い取った。

そのままの流れで男を拘束し、中身を確認する。

ぎゃあぎゃあと騒ぐ男の口に、()()()()()()()が伸びて、覆う。


「おっ、あたり」


中にはラベルの貼られた空き瓶とカッター、それに鉄の太い紐が数本入っていた。

なるべく素手で触れないようにしながらひとつひとつ見ていく。


瓶は貼られたラベルから、中毒を起こす薬だということがわかった。カッターには、見間違えようもない真っ赤な羽が付着していた。鉄紐には、黄色い魔力がまとわりついている。


「よぉしお兄さん、ちょぉっと証拠隠滅が甘かったね」


リアは奪い取った鞄を体の後ろに持っていき、隠しておいた火の鳥に見せた。

まだぼんやりとしていた火の鳥だったが、鞄を見たとたん、バサバサと翼を振って飛び立とうとした。それを助けるように、リアは風を起こして男の方へ吹かせた。それと同時に拘束も解除。風の流れに乗って火の鳥は赤い羽を撒き散らしながら男へ向かって飛んでいく。鋭い嘴で何度も何度も男の頭を突いた。


何も見えていない男からすれば、怪奇現象以外の何物でもないだろう。

実際、少し前からその場にいた天も、何が起きているのかが分からなくて恐怖を感じていた。


目を凝らして見ていると、ほんのりと赤い羽が見えた。そこでやっと、天は火の鳥が男に激しく攻撃をしているのだと理解したのだ。


悲鳴をあげながら逃げ惑う男。しかし、何か見えない壁に遮られたようにある一定の場所から動けないようだった。


天がその様子を見ていることにリアが気づいて、何かを降ろす動作をした後に駆けよってきた。


「壁作ったの、私じゃないよ」


ここに来て言うことがそれか。あまりに落ち着いた態度のリアに愕然としているうちに、男がどんどん見えないなにかによってボロボロにされていく。


「あれ、大丈夫なんですか」

「うーん、多分。殺しはしないよ。あ、警邏隊に連絡入れといて〜」


ポイと渡された端末を使って、一応火の鳥のことは伏せて通報した。バレたら大変なことになりそうだ。一番近い者が三十分後に来ると聞いて、それをリアに伝える。

通話を切る頃には、男は再びクローバーの縄によって拘束され、地面に転がっていた。


「ふぃー、終わった終わった。あとは人来るの待つだけか」

「火の鳥はどうなりましたか?」

「多分疲れて寝てる。天は大丈夫?疲れてない?あーあ、髪の毛ボサボサ」


ちょっと屈んで、と言われて素直に天が屈むと、リアは手ぐしで天の髪を整え始めた。ついでと言わんばかりに耳をそっと触っていく。


「……くすぐったいんですが」

「ごめん。ふわふわだね」


そんなことをしているリアの髪だって、きっとボサボサになっているだろう。ただ、本人はそれを気にして居なさそうだし、なんなら少しも絡まっていない可能性すらある。


髪を整える代わりに、天はフード越しにリアの頭を撫でた。少し驚いたようにピクリと身を震わせたが、すぐにもっととばかりに天の手に頭を押し付けた。

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