火の鳥
突然、鳥の巨体がビクビクと痙攣しだす。リアが慌てて薄く魔力を流し、原因を探ったが、気が動転していたせいか、うまく見つけることが出来なかった。
「ど、どうしよう……」
リアはゆっくりと鳥の背中を撫でた。特に根拠は無いが、こうすると落ち着くような気がした。
しかし、鳥はますます震えて、苦しそうに鳴き声をたてた。
ぶわりと羽を膨らませ、バサバサと翼を羽ばたかせて暴れる鳥の様子に、リアはどこか違和感を覚えた。
(おかしい。これ、酔ってる症状じゃない。まさか、あのクローバーがいけなかった?)
引き続き鳥の背をさすりながら、必死に脳内で植物図鑑のページを捲る。
しかし、クローバーに関する項目には、どこにも有害なんて表記は見つからない。
「っ、なら、何で……!」
取り敢えず、クローバーを吐かせよう。
そう思い至り、次は鳥の背をバンバン叩く。その度に赤い羽根が飛び散って痛々しかったが、しょうがない。
「お願いっ、吐いて!」
一際強く叩いた時、ゴボリと鳥が何かを吐き出した。
急いでそれを確認すると、鈍く輝く石のようなものが塊になっていた。
「なにこれ?……って、それより、この鳥無事?」
こんなゴツゴツとしたものを吐き出したのなら、無事では済むまい。改めて怪我をしていないか、今度は主に胃から喉にかけてを中心に見てみる。
調べている間に血を吐き出した。やはり喉がズタズタになっている。
薬もないし、と本意ではないながら治癒魔法を使って喉の傷を癒していく。
だんだん鳥の力が抜けていって、リラックスしていくのを見て、リアもほっと息を吐いた。
「良かった、無事だ。……出来れば、このままおとなしくしといて」
一応、声を掛けておく。伝わっている可能性はあまり無いが、何となく。
念のため、鳥が吐いたものは洗わずにハンカチに包んでおいた。調べたら鳥がこんな風になった原因が分かるかもしれないし、下手に
魔力を加えるのもどうかと思ったからだ。
「……それにしても。あんたの予言にこんなのあった?」
独り言が、不意に口をついて出る。一番大切な友人が残した予言。リアはその全てを信じている訳ではないが、占いの才能は誰よりも知っている。
届くわけもない言葉なのに、『あるわけ無いじゃん』なんて返事が聞こえた気がした。
「戻りました……って、何ですかこの火の鳥」
「火の鳥?天、こいつのこと知ってるの?」
「えぇ、まあ。それより、何があったのか説明していただいても?」
リアは天がこの場を離れてから起こった出来事をかいつまんで説明した。
急にこの鳥が落ちてきたこと。酔ってるみたいだったから応急処置でクローバーを食べさせたら苦しみ出したこと。石を吐き出して、今は治療も終えて落ち着いていること。
「その吐き出した石ってのがこれなんだけどね」
ハンカチを開いて中身を見せる。普通の石ではないことはすぐに分かるはずだ。なんとなくだが、この鳥のことを知っている天ならば、この石のことも知っているのではないかと思った。そして、こういう時の勘はだいたい当たっているものだ。
「鉄磁鉱ですね。火の鳥の好物です」
「え、こいつ石食べるの?」
「えぇ。名前の通り、火の魔法を操ることが出来るので、ドロドロに溶かして食べるそうですよ」
「へぇ〜……」
謎の石の正体はわかった。問題は、なぜ固体で出てきたのかというところと、なぜ酔っていたのかというところだ。
「すみません、そこまでは」
「だよね。どうしよっか」
天によると、この個体はまだ子供らしい。成体ならば、だいたい10m程の大きさなんだとか。
普段は体の周りを炎で覆っていて、こんなに植物の多いところには生息していない、とも聞いた。
なにか分からないかと、今度はふたりで火の鳥を観察する。
柔らかい羽毛をかき分けながら見ていくと、翼のほんの一部だけ、羽が切られていることに気が付いた。
まるで、遠くに飛ばさないようにつけられたような。
よく見てみると、首元にうっすらと何かで締められたような痕もあった。リアの見立てでは、バンドのようなもので強く圧迫されたことによってついた痕だろう。
「そういえば天。向こう、どうだった?なにかあった?」
「特に何もありませんでしたが……。あぁ、この原を抜けると、森がありましたよ。そこの近辺でなにか探し物をしている方を見かけました」
「うーん、そっかぁ」
その探し物をしている人物というのが少し引っかかったが、火の鳥を置いてそちらに行く訳にもいかない。
リアの頭には、ひとつの考えが浮かんでいた。もしや、密猟なんかで無理やり連れて来られたのでは?
獲物を酔わせて、捕まえて売り捌く。こんな手口が無いわけでは無かった。医療従事者でもなければ麻酔は手に入らないから、酒やなんやで酔わせて眠らせるのだ。それから、逃げないように羽を切って、縛る。
どうやってあの巨体を持ち運ぶのかはわからないが、物の大きさを変える魔法は存在している。魔法が少しでも使えるのなら簡単なものだし、きっとそれを使ったのだろう。
「うん、よし。天、ちょっと離れてて」
「……何をする気です?」
言いつつもおとなしく天が距離をとったのを確認して、リアは鞄から何かを取り出した。
天からはよく見えなかったが、見えたとしても何なのか分からなかっただろう。
冷たく光を反射した銀色の丸い物体。所々に液体の入った小さなボトルが装填されている。
リアはそのボトルを一つ取り出して蓋を緩め、火の鳥に向かって投げつけた。
ばしゃりと液体が火の鳥にかかる。火の鳥は少し嫌がる素振りをしたが、まだ体力が回復しきっていないらしく、暴れることはなかった。
かかった液体の色が、だんだん変わっていく。最初は緑色だったのが、だんだん色が別れていき、最終的には緑、紫、黄色に変わった。
そのうち緑色はリアへ、紫色は天へ、そして黄色は全く別の方向を指し示した。
「うーん、あっちか」
「何ですか、一体……」
リアはひとりで考え込んでいるが、天はまだ状況が飲み込めていなかった。あの銀色の物体も、リアが投げた液体の正体も、何一つ説明すらなかったからだ。何となく魔道具の類いだとは分かるが、それ以外はさっぱり分からない。
「よし、天!あっち行くよ!……ねぇ、どうしたの?早くしないと消えちゃうんだけど」
「あぁ、いえ、その……何でもないです、行きましょう」
変なの、と言わんばかりの顔をして、リアはひょいと火の鳥を担ぎ上げて走り出した。天は、それを慌てて追いかけた。よくもまあ自分の何倍もある巨大な鳥を軽々と持ち上げられるな、なんて思いながら。




