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魔女と狐の墓参り  作者: 長尾いのり
花の街
15/43

出発前夜

さく、さくと草を踏みしめる音だけが響く。


「あの、リアさん。今どこへ向かっているんですか?」

「んー、ふふ」


先程から天が次の目的地を聞き出そうとしているが、リアはにこにことするばかりだ。しまいには天も諦めて、雑談を投げ掛けるようになった。


「どうしてわざわざ草むらを通るんですか」


ふたりはすぐ近くにある綺麗に舗装された道ではなく、何故か雑草の生い茂る草むらを歩いていた。ただ歩くだけではなく、リアは時々屈みこんで何かを探しているようだった。


「えー?知りたいー?どうしよっかなー」

「……やっぱりいいです」

「え、ちょっと。聞いてよ」


聞いて欲しいのか欲しくないのかどっちなんだ、と目を細める天が見えているのかいないのか、リアはただ一言 「仕事だよ」 と呟いた。


独り言のような体なのは、別に聞かなくても良いという天への配慮なのか。


「……そういえば、お祭り、楽しかったね」

「そうですね。ブランシュさんには、少し驚かされましたが」


祭りも終わり、ふたりが街を離れる前夜のこと。荷物の整理をしていたふたりへ、ブランシュは小さな包みを差し出した。


「あの、リアさん、天さん。今回はごめんなさい。いっぱい迷惑掛けたよね」

「んー、そんなでもないよ。楽しかったし。ね」

「えぇ、本当に。とても綺麗でしたよ、ブランシュさん」

「え、えへへ、そう?……じゃなくて!これ、ぼくからのお礼。受け取って!」


受け取ってと言いながらふたりに包みを押し付けて、ブランシュは去っていった。


そんな彼の様子にリアは首を傾げていたが、取り敢えずといった様子で包みを開いた。


中には、照明を反射してキラキラと輝く飾りがあった。花の街らしく、美しい花の形をしている。中心には小さな金色の石が嵌め込まれており、微かに魔力が感じられたことから、魔石であることが分かった。


リアの包みの中身を見て、天も包みを開くと、リアと同様のものが入っていた。

しかし、よくよく観察すると、少しだけ細工が違っている。何か不可思議な呪文のようなものが刻まれていたのだ。


天は少し考えてから立ち上がった。


「ん?天、どっか行くの?」

「はい、少し」

「そっか。行ってらっしゃい」


特に何ら追及することもなく、リアはヒラヒラと手を振った。

その事にどこか安堵しながら、天はブランシュを探しに駆け出す。

その後ろ姿に、あんまり遅くならないでねと投げ掛けられたリアの言葉は、果たして彼に届いたのだろうか。



「ブランシュさん」

「うわぁ!?あ、天さん!?ど、ど、どうしたんですか?」

しばらく探し回り、家の中にはいないことが分かると、天は外へ飛び出した。ブランシュがどこにいるのかは、この頃にはもう見当がついていた。


ようやく見つけたブランシュは集会所の裏でうずくまっていた。

天が声を掛けると、飛び上がりそうなほど驚くブランシュ。立ち上がろうとする彼を静止して、天は横に腰を下ろした。


「……よく分かりましたね。ぼくがここにいるって」

「何となくですよ。……それより、あの包みの中身ですが」


天が話をしようとすると、ブランシュはそれを遮って話し始めた。


「そ、そういえば!天さんも、リアさんも、明日にはこの街を出ていっちゃうってほんとですか?」

「……ええ、本当ですよ。私としてはもっとゆっくりしていっても良いんじゃないか、何て思いますけどね」

「ふふ、リアさんせっかちだから。また遊びに来て下さいね、待ってますから!……ぼくのこと、忘れないで下さいよ」


どこか寂しそうに呟くブランシュが、何故だかとても哀れだと感じた。どうしてかはわからない。ただ、この街に再びやってくる頃には、もうこの美しい少年が待っている自分では無いのだという確信めいた考えが頭をよぎっただけだった。


この奇妙な感覚に戸惑う天の隣で、ブランシュは大きく息を吐いた。そして、まるで何かを振り払うように頭を振ったあと、意を決したように天を見つめた。


「天さん。実はあれ、月詠樹蘭(つくよみじゅらん)っていう花なんです。金属製の飾りかと思ったでしょ?あの花は、枯れないんです。だから、旅をして歩くあなたたちにぴったりだと思って」

「そうなんですか。……それにしては、奇妙な模様をしていましたけどね」


天が過去に見た月詠樹蘭は、ちょうどリアが受け取ったものと同じようなものだった。天が受け取ったもののように、呪文のような模様など刻まれて無かったはずだ。


天の返事にブランシュはぐっと言葉をつまらせ、何かを言おうとするように少し口を開けて、閉じてを繰り返した。


「そ、その。それは……実は、終わったあと、疲れて寝ちゃって。そのときに、花の女神さまが夢に出てきたんです」


なんとか、といった様子で言葉を紡ぎ出すブランシュ。天は下手に口を出そうとはせず、静かに話を聞いていた。


「花の女神さまが、月詠樹蘭をリアさんたちに渡すようにっておっしゃったんです。それで、天さんには()()をあげなさいと変わった花を渡されて。そこで目が覚めたんですけど、何でか、現実でも渡された花が手の中にあったんです。不思議ですよね。

それで、女神さまに言われた通りにしたんです」


ほとんど一息で語り終えたブランシュは、はあはあと肩で息をしつつもどこかスッキリとした顔をしていた。

天はなるほど、と頷いて手のひらに乗せた月詠樹蘭の呪文をなぞった。

(戻ったら、リアさんになんの呪文か聞いてみよう)


「それにしても、花の女神、ですか。目にする文献では、とても美しい容姿をしていると書かれていますが、どうでした?」

「あー、どうだったかな。あんまり覚えて無くて。でも、綺麗な金髪の桃色の瞳をした方だったような」


やっぱり。


天の予想した通りだった。花の女神(フローラ)が、今回は色々と手を回したらしい。

最初、リアがフローラのことを花神だと言った時、冗談だろうと思っていた。しかし、練習の時の発言やステージ上での様子から、だんだんリアの言ったことが本当だと感じるようになっていった。

そして、今の事で確定だ。


「さて、そろそろ帰りましょうか。この季節でも、夜は冷えますから」

「はいっ、そうですね……でも、ぼく、ひとりで帰りたい、な」

「そうですか。それなら、気をつけて下さい。暗いので」


こっくり頷き、立ち上がったブランシュが暗い花の街に混じって行くのを見届けて、天も歩き出した。


(どうして、彼女は私にだけ特別なものを用意したのでしょうか)


特に心当たりはない。別に彼女が特別気に入るような振る舞いもしたつもりは無いし、特に理由も見つからなかった。


(……あ)

考えながら歩く道中で、ふと思い当たる節があった。

あの、古代神聖語で書かれた不思議な本。一度思いついてしまったら、あれになにかヒントがあるようにしか考えられなかった。


早いところ書き写してリアに見てもらおう。


急ぎ足で帰路に着く天は、気が付かなかった。

手の中で、月詠樹蘭が微かに鈴のような音を鳴らした事を。



「あーーーー!成る程ねぇ!フローラってば、なかなか粋なことすんじゃん!あの時買ったのって、あれかぁ!」


大急ぎでブランシュの家へ戻り、これまた大急ぎでフローラに見せたページを書き写してリアに渡した天は、リアの反応にとても驚いた。


「何が書いてあるんですか?」

「いやぁ、うふふ。えっとねぇ、これ、花乙女の伝承。……というか、記録?かな。『花乙女は旅人の無事を願い、月の花に秘術をかけて渡しました。旅人はそれを栞にし、いつまでも身につけていました』だって。すてき〜」


頬に手を当ててうっとりと目を閉じるリアとは対照的に、天はぽかんとするばかりだった。


「うん、やっぱりね、これ、大事にしなよ。……これからも、こういうことあるだろうから」

「こういうこととは?」

「こうやって、大事なもの貰うこと。よし、早めに古代神聖語覚えてもらおう。単語が馬鹿みたいに多くて変なのもあるけど、大丈夫。天なら覚えられるよ」


グッと笑顔で親指を立てるリア。軽く笑顔を浮かべて、天はそれを受け流した。


どうしてリアが未来のことを確信したように話すのかはわからないが、彼女の言ったことは全て真実だろう。


ゆっくりと夜は更ける。どこかで美しい金の乙女が、花に囲まれて微笑んでいるような気がした。





『花乙女の元にに旅人が再びやってくることはありませんでした。しかし、彼女はそれで良いと言いました。あの花は、きっと旅人を守ってくれるはずだからと』

これにて花の街のお話は終了です。また、彼らは旅に出ます。

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