解決策
「いけると思うってったって、フローラ、衣装だよ?あんの?」
「あるわよ、今すぐ持って来させるわ。『本物の』花乙女の衣装、用意しようじゃないの」
ブランシュをあやしていた天は、本物のという部分に引っかかったが、今はそこじゃないとスルーした。嗚咽混じりにブランシュの声に集中して、彼に泣き止んでもらえるようにしなくては。
「ぼくっ、いままで、ひっく、がんばってぇ、きた、のにぃ……!」
「はい、きっとそうなのでしょうね」
「なのにっ、衣装っ……!みんなも、こないしぃ!うぅ……」
「大丈夫ですよ、きっと。リアさん達が代わりの何かを考えてくれています」
そう言って天が視線を向けた先には、言い争う女子達がいた。
「だーかーらー!わたしたちで劇を完成させるのよ!」
「んなこと言ったって!私、台詞とか知らないもん!」
「そんなもん適当で良いわよ、姉さんもアンナも台詞知らないもの。フローラさんだってそうでしょ?」
「そうよ、なんなら踊ってるだけでいいの。実際、あのこ達はあんまり喋らないのよ。それに、わたしハリアラーミスならできるわ。おかあさまだもの!」
「ならあんた達だけでやればいいでしょ!私まで巻き込まないで」
「じゃあリアは小さな妖精役ね!」
「ちょっと!」
「あれ、ほんとにだいじょうぶかなぁ……」
「ま、まあ、何とかなるでしょう」
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「うーん、私にこれ似合わないでしょ……だいたい、小さな妖精にこの髪色ってどうなの?」
「大丈夫よぉ。よく似合ってるわ」
床に付きそうなほど長い銀髪を高いところでひとつにまとめ、ベールを着けたリアは、ならべてある衣装を前に立ち尽くしていた。
ミッシェルが勧めているのは、薔薇のように真っ赤な花のドレス。スカートの部分が花びらの形で作られているそれは、どうやらお気に召さなかったらしい。
もともとあまり派手な格好を好まない性質のリアだが、舞台衣装が派手になることには承知している。にしても派手すぎだ。ミッシェルの言う通り、彼女の長く伸びた銀髪に、深紅のドレスはよく似合っていた。あれこれ代替案を差し出すミッシェルを無視してリアが選んだのは、青いワンピースだった。
膝丈程のそれは、形はシンプルなものだったが、所々に金糸で入れられた花びらの刺繍や裾にあしらわれた青いフリルなんかのお陰で立派な衣装へと相成っていた。
「はい、私選んだから次は……って、もう決めてんのね」
フローラは草木のような緑色の、1枚の布でできているようなドレス。
ミッシェルは、薄紅色の花のようなワンピース。それとは別に持っているのは、姉妹達の分だろう。
「ねえ、ブランシュ。人は何とかした。けど、人だけ。時間無いから、練習するよ」
「……っ、う、うん……!」
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またグスグスと泣き出したブランシュをなだめ、劇の練習がスタートした。
「まず、台本とかある?全体の流れも把握したい」
「あぁ、そんなものあるかしら?」
「あるよ!主役はきちんと台詞があるし……とにかく、どこかにあるはず!」
ブランシュが部屋の隅に無造作に積み上げられていた箱の中をしばらくかき回し、ようやく見つけたと言わんばかりに、くしゃくしゃになった台本を掴んで掲げた。
「あった、これ!」
「……管理どうなってんの」
とはいえ、紙がよれていようと文字は読むことができる。破れていなかったことが救いだ。
フローラとリアが揃って台本を覗き込む。
その内容は何てことない、花の街に伝わる花乙女の伝承を舞台風にアレンジしたものだった。
「うん、よし。わかった、一回やってみようか」
「えっ、いきなり?どうしよう、できるかしら」
「さっきまであんなに自信満々だったじゃん。できるよ。フローラならできる。てか、フローラにしかできない」
「……っ、ええ、とにかく、やってみなければ」
「その意気よ!さあ、始めましょう!」
少女たち(と少年)がわちゃわちゃと盛り上がっている間、得にやることもなくなってしまった狐の少年がひとり。
「皆さん、楽しそうですねぇ……」
流石にあの中へ入っていく勇気はない。しかし、このままここでぼうっと練習を眺めているのもなんだか違う気がしてならない。
結局、彼は破れた衣装を手に取り、部屋を出ていった。




