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96 兄弟の会合

閲覧ありがとうございます

「国民から徴収した財源の内訳はどうなってますか?」


深夜やってきた弟から聞いたことのない発言があり、時が止まった。


はっきりいって驚いた。


今まで政策に全く興味なく過ごしていた弟から発されるとは思ってなかった。


あくまで冷静に。

「どうした、急に。」

ソファの背に手を当てて振り返って見つめる。


隅の暗がりと同化して輪郭がはっきりしない。


「ルキアーナ嬢が医療改革で面白い事を言ってたから。まだ考えがまとまってないみたいだったけど。兄上に伝える前に財源の内訳を知って、考察した上で伝えた方が有益かと。」


声色が笑いを含んでいる。


「それと来年度の治癒属性者のカリキュラムに治癒魔法の新たな部分照射法を取り入れていただけないかと。王宮治癒師は外傷に対してですが、魔力を温存しながらの治癒ができているようです。まあそうすると、新たな火種になるかもしれないですけど、使える治癒師が増えるかと。」


ああ、今こいつはルキアーナ嬢の従者として城内をつき回っているんだったな。


「それもルキアーナ嬢が?」


「そうです。確かにいい手かなと、早いうちに取り掛かる方が利になりそうなので。講師指導はカリミナ氏がいいかと。本当面白い……。」


確かにルキアーナ嬢の考えはいつも面白い、突飛で合理的。


あの年齢で師から話を受けている気分になる。


興味を持のも無理はない。


何か面白くない感情が浮かんだが、すぐ消した。


弟が興味を持つ物の情報を渡せば、こっちが思いもしない有益な情報を返してくる事はわかっている。


「わかった、検討する。それから予算は議会で使ったものを渡す。それを見て意見をよこせ。」

素知らぬ顔をして言う。


「ありがとうございます。」


しばし静寂、闇の中で揺らめく一瞬しか弟は見えない。


話題を変えてみる。


「ダシンゴムがこの間光ったな。」


「そうですね。馬車に仕込むとは流石です。」

弟が称賛する。


ルキアーナ嬢にモフでの盗聴がバレて返されていたが、弟が従者として付くなら城内は安全となる為、手薄になる道中の馬車にモフを住まわせた。


それが功を奏して、ルキアーナ嬢が賊に襲われてもすぐザイナスが駆けつける事ができた。


相手もしつこいな。

本気で襲ってきている。

誘拐も城内で起こった。


まあ、弟が荷馬車に押し込められたルキアーナ嬢を見つけて事なきを得たが、城内に手引きした者がいる事は否めない。


やはりルキアーナ嬢の立場を狙う者…婚約者の座か?

宰相の足を引っ張る、もしくは王家と公爵家の繋がりを弱める為か?


忌々しい、めんどくさい事だ。

全く尻尾が掴めていない。

単体なのか複数なのか。


焦っても仕方ない。


この度のモフは僥倖だった。

この調子で危機を回避していけばよい。


あとは俺の母もか……。


お茶会の時に弟が母に燃やされそうになっていると聞いた時は耳を疑った。


あの人はそんな愚かな事もしていたのかと。


異母兄弟とはいえ、第二王子だ。

不敬に当たる事、傷害罪もしくは殺人未遂に当たるというのに頭の痛い事だ。


ルキアーナ嬢にもどのように接しているか分かったものじゃない。


あっちにもこっちにも目を光らせないといけないとは。


頭痛がするようでこめかみを押さえる。


陛下も自分の妻なのだから、目を光らせてくれたら良いものを。


興味がないのだろう。

放置しすぎで、増長していっているというのに。


陛下は本気で王には強き者がなると信じている。

自分はどうなのだと言いたいが、残忍さは俺たちの上だな。


だからと言って俺が弟を手助けする義理はない。

それで王位の足元を見る羽目になるのはごめんだ。


「それで王宮を歩くのは慣れたのか?」


「精神干渉が効いているので、誰も僕を見ません。快適に歩けてます。」


全く闇の能力は怖いものだ。


魔法はからっきしなのに、平気で精神干渉したり、空間を支配したりしてくる。


こいつがその気になったらいくらでも何処でも支配できてしまうな。

そういう意思がないから助かるが。


じっと弟を見つめると、暗がりの中でヒョコヒョコ上下に動いてるのが見える。


嬉しそうな行動にクッと笑いが浮かんで、誤魔化すように下を向いた。


「人に慣れてきたら、そろそろ素顔を見せたらどうだ?」

少し意地の悪い意見を言う。


途端に動きが止まった。


「そ……それは、…まだ……無理。」

吃り始めた。


あの髪は最後の砦か。


弟に手をかざし、

「ああ、いい、自分が大丈夫と思う時に顔を見せろ。もう何年も見ていない。」


「……はい。」

静かに返事が返ってきた。


「じゃあ、また資料を寄せておく。下がれ。」


手で払うと、

「あ、兄上」

弟が一歩前に出て全身が見えた。


「なんだ、まだ何かあるのか?」


訝しげに見ると、弟は手をモジモジ動かした。


「ルキアーナ嬢が言っていた離れていても会話のできる物がもう少しで試作品が出来そうです。あの、完成したら、兄上と………兄上と一緒に使ってみてもよろしいでしょうか?」


ああ、離れた場所で会話できると言っていた物か。

それは便利だな。


それが出来上がるのか?


全く魔道具師でもないだろうに、どんな頭をしているんだ。


グネグネ動き続ける弟にため息をつく。


「わかった。出来たら使おう。」


大きく頷くと、弟はぴょんと跳ねた。


「はい!……はい、ありがとうございます。では、おやすみなさいませ、兄上。」

声と共に暗がりに溶けて気配が消えた。


全く動きと脳みそが合ってないな。


どうしたものか……。


まあ、でも、あいつが少しずつ陽の当たる場所を歩き始めた。

ルキアーナ嬢のおかげというのが気に食わないが。


この分岐点を喜ぶべきか、悲しむべきか、はたまた忌むべきか、わからんな。


けど俺の進む道の邪魔だけはしてくれるなよ。


弟が消えた場所を睨み、排除させるなよと自嘲気味に笑ったのだった。


 ♢♢


ルキアーナ嬢の作ったハンバーグを食べた時はすごかったの一言だった。


そんな奇想天外なルキアーナ嬢が城にいる間ずっと観察したかったけど、どうしても人の目が、自分が怖かった。


人から隠すように霞目になる呪いをかけ作ったマントを着用しても、他人の側を通るのは条件反射で硬直し恐怖で逃げたくなった。


その度にルキアーナ嬢は呆れた顔をしながらも腕を引いてくれた。


ルキアーナ嬢について歩くだけなら、自分が他人を害する事は無いのだとわかり安心した。


けどこっちを見る目がどうしても気になった。

相手から向けられるのはいつも憎悪や恐怖。

霞目で目を閉じていても、こちらに顔が向くとそう見られてると思ってしまう。


どうすればこちらを見ないのかとずっと考えていた。

出歩くうちに、他の貴族の様子をよく目にするようになった。

そして貴族の側にいる従者や使用人には誰も注視していない事に気付いた。


主人同士の会話はあれど、従者は傍に控えているだけ。

これが利用できないかと考えた。


自分の能力は闇、確か精神干渉も出来たはず。

離宮の本を読み漁った。


呪いも暗示も同じような要領と気付いた。

対象に結界を張りそれに暗示という呪いを施す。


人に試したかったが近付くのが嫌だったので、城全体を結界で包み『城の中では自分はルキアーナ嬢の従者のネイク』という呪いをかけた。


存外に上手くいって、自分を誰も干渉しなくなった。

空気を吸って歩ける気がした。

ただ暗示をかけた事はすぐにルキアーナ嬢にバレて、何故か悲しそうに怒られた。


意味がわからない、こんなに快適なのに。

そしてあまりにルキアーナ嬢が暗示にかからないから、無性に干渉したく後ろからたくさん呪いを放ったが全て弾かれる。


不思議すぎる。

難解な問題が目の前を歩いているようで楽しい。


ルキアーナ嬢は時間があると他人に会いに行く。

それも意味がわからない、何故かいつも楽しそう。


説教大好きでうざい、病人には飛びつく、勝手に誘拐される、厄介ごとに首突っ込む、勝手に国の政策に切り込んで面白い医療改革を展開する。

ルキアーナ嬢といるといつも何か起こり忙しい。


けどその度に自分にこんなにたくさんの感情があったのかと驚いた。

驚いたり、戸惑ったり、怒ったり、笑ったり……。

いつも無感情で離宮で過ごしていたのに、びっくりだ。

おかげで夜が眠い。


今日は兄上と会う日だから寝てはいられない。

兄上に最近の面白いルキアーナ嬢の事を伝える。


何故か驚いた顔をされた。

けど期待されている表情にも思えて嬉しかった。


兄上に顔を見せろと言われたけど、いくら兄上の願いでもそれはまだ無理だった。

申し訳なかったけど、兄上は優しいからいいと言ってくれた。


いつか見せて目を見て話がしたいと思う。

もう少し待っていてください、必ず希望に沿うよう頑張りますから。


そして今日は自分の希望も勇気を出して言った。

試作品が出来たら一緒に試してくださる。


ここ1番嬉しい言葉を頂いた。

まずは試作品を完成させようと思った。


ルキアーナ嬢のせいで眠いが、もう一踏ん張り手を加えてから眠るとしよう。


兄上に挨拶をして離宮に戻ったのだった。










読んでもらえて嬉しいです


兄弟それぞれ思うところは色々、ルキアーナちゃんの影響も大だね


よければ評価やブックマークをよろしくお願いします

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