95 将来安泰とは
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王宮教養の日は、いつもは家からランチボックスを持ってきて昼食を取ることが多い。
なんせ王宮教養が始まってすぐの頃、昼食はどうしたらいいか聞いたらルキアーナちゃんが公爵令嬢だからか、別室にフルコースが用意され恐縮したのと食べ切れないのとでパニックになった。
それからは持参している。
職場でもお弁当持って行ってたしね。
けど今日は賊に襲われた恐怖か、実際の負傷を見た衝撃かわからないが、1人で昼食を取る気にならなかった。
とても喉を通る気がしない。
もちろん側にはもっさり王子が、ネイク様として存在しているから確かに1人きりではない。
けど毎回の事だが、王子は持ってきたランチボックスに私の手作りがあるか必ず聞いて、無いとわかると隅で離れて1人モソモソ食べるか、突然消える。
王子のガッカリ感が半端ないのだ。
手作りを気に入ってくれたのは嬉しいのだが、一応ルキアーナちゃんはご令嬢だし、屋敷には立派な料理長がいるわけで、その仕事を奪う事はできないんだよね。
王子はあんな性格だから、一緒に食事をしても会話がない。
だから一緒に食事しても楽しくない。
これでは1人で食べているのと変わらない。
ここにモップ様が来てくれたら別だけど、そうそうモップ様も来てくれるわけがない。
というわけで、今日は治癒室にお邪魔する事にした。
失礼だが、美女なのにアフロなカリミナさんを見ると和むのだ。
ノックすると何故か出迎えてくれたルンバール医師。
なんでも今日はランチのついでに治癒魔法の討論会をするんだとか。
うっかりお二人がそんな仲なのかと邪推してしまったのは内緒だ。
私がランチにお邪魔したいと伝えると2人共快く迎えてくれた。
もちろんもっさり王子も一緒に。
ホッとした私の気も知らないで、王子はささっと入ると隅の椅子を陣取って座った。
丸テーブルから遠い……。
まあいい、好きにしたら。
私はありがたく2人が用意してくれた丸テーブルについた。
今日は恐怖実験はないので、カリミナさんの豹変もなしで安心。
穏やかな空気の中にハーブような香りが漂って肩の力が抜ける。
「それで治癒魔法のコントロールはいかがですか?」
薬草茶をルンバール医師が入れてくれながら聞いた。
「怪我にはバッチリ! 魔力消費無しに魔法がかけれてます。いかに魔法はイメージが大切か改めて感じている所です。」
揺れも崩れもしないアフロのカリミナさんが、感慨深そうに席についた。
「イメージですか?」
薬草茶をふうふうしながら聞いてみる。
「そうです。今までは健康になりますようにと漠然としていたのですが、今は骨折なら骨が元の位置で固まるように、切り傷なら細胞が再生するようなイメージをしながら治癒魔法を外傷部にかけます。こんなに魔力消費量が違うとは思いませんでした。」
なるほど。
ビームで治癒魔法放出して全身包めばいいみたいな感じだったもんね。
患者が金色に包まれて異質だった。
私みたいにみそっかすしか出せない魔力では到底無理な芸当だ。
どんなに頑張っても、元々そこにしか当てれない。
でもイメージか……もっと細胞が治るようにイメージして魔力出すべきか。
ビーム大量放出から繊細に必要箇所にしか魔力当てないのだから、そりゃ魔力消費に差が出てくるよね。
「すごいですね〜。この方法が浸透してくれば低位治癒師も随分活躍の場が出てきますよね。ここに置いておきますね。」
ルンバール医師も嬉しそうに言って、もっさり王子の近くのテーブルにお茶とサンドイッチを置く。
しかしカリミナさんの表情が陰る。
「でもやっぱり病態に対しては難しいです。治癒師は患者の病態の状況や原因がわからないので、治癒魔法を必要箇所にかけるには、病態の判別ができる医師との協力が不可欠です。でも今まで医師との協力は皆無でしたので、なかなか受け入れが……。」
それまで明るかったルンバール医師の表情も陰った。
「そうですよね。一般的に治癒師は最上で、医師はその他補助のような立場ですからね。今更医師の診断を聞いて、それから指示通り治癒魔法を施す、連携するなんて治癒師のプライドが許さないですよね。」
言い方が自虐的だった。
「でもやり方が違っても患者を治そうという意思は同じですよね。」
私がそう言うとルンバール医師が、
「まあ、そうですが。治癒師は莫大な治療費を取りますが、治癒魔法で時間もかからず万能に治すことができます。医師は価格は安いですが、治療に全力を出しても治せない場合もある。そこが大きな溝なのですよ。同じ医療人でも多くの治癒師は医師を同等の立場とは見てくれない。自分たちより劣った下の者だと思っています。しかしそれは医師にも言えて、医師は万能能力を持つ治癒師を羨ましく思いつつ、病態把握ができない上に、どう治したかも分かっていないような者が魔法が使えるというだけで多額な請求をすると揶揄する。お互いに馬鹿にし合って、情けない事です。」
両手に薬草茶を挟んだまま、ため息を付いた。
なるほどね。
互いにそういう言い分をしそうな人は何処の世でもいる。
自分らの優位性を訴える者は。
けどそんな張り合いは、患者に何の役にも立たない。
「患者の為に何が1番か考えれば、そんな意地の張り合いはちっぽけだと分かるはずですけどね。」
私がサンドウィッチを選びながら言うと、2人は顔を見合わせて笑った。
「そう思える人が少ないのですけどね。」
「ルキアーナ様みたいな人に言われると刺さりますね。」
え?
サンドウィッチを持って顔を上げると、
「どうぞお食べください。」
ルンバール医師に勧められた。
いただきます、パク。
良かった、ちゃんと美味しい。
食欲が出てきてホッとする。
安心感から私は更に語る。
「患者全てが高額な治療費を払えるわけではないのだから、診断やどんな治療法があるのかを説明するのは医師がすべきです。治療の選択肢を患者に与えて選んでもらう。選べない場合もあるでしょうが、それでも選択するのは患者です。そして治癒魔法にも部分魔法から全身魔法まで幅が出来てくるので、低額から高額までもっと幅を持たせます。患者と医師がしっかり病状と治療法について話し合い納得した上で治療を受けるのです。」
「今まで高額な治療費をもらっていたのです。収入が減るかもしれない治癒師達が納得しないでしょう。」
ルンバール医師が腕を組んで唸る。
「そうね、私は王宮治癒師として働いているから定額給与ですけど、神殿で働く治癒師は歩合制ですから高額給与の者もいるでしょう。急に治療のやり方を変え、習得までに手間がかかる上にそれによって給与が下がるなら、尚のこと納得できないですよね。」
カリミナさんも頬に手を当てて眉を下げている。
確かにな〜。
納得は難しいか。
治癒魔法は『全身治して高額』が浸透しすぎてる。
うーん。
腕を組んで目を瞑って唸る。
「それに中央王都神殿の神官長が絶対納得しないですね。力があり、治癒師の治癒方針も打ち出して誇りとしている。価格設定をしたのもあの方だ。他の神殿は彼の方針に右ならえだ。」
更に嫌な情報をルンバール医師が提示してくる。
あのでっぷり……リプッデ?なんて名前だっけ?
あのメタボリックな神官長よね。
端々に金の亡者っぽかった。
治癒魔法をちょっとずつかけてあげるから、何回か来てねって。
来た回数かけることの100万円っていう支払いね。
高いよね。
あれは合理的に見えて、金儲けがメインで考えられている。
サンドウィッチを持って目を瞑って考えながら指を振る。
「まず今の治癒師を動かすのが難しいなら、これから治癒師として羽ばたく人をターゲットに魔力消費を抑えた治癒魔法を教えて、治癒師の母数を増やせばいいのよ。それこそこれから医療改革があるとか医療改正があるとか言って進めたらいい。若者が習得できている治癒魔法を見たら現行の治癒師も絶対習得してくる。それはなんとかなるとして、あーどうだっけ、医療は国が保障してたよね。保障の為には先に税金徴収して、……してるか……してるよね。…なら税金の〜集めた財源の内訳はどうなってるんだ? そこに医療費がどのくらい割り当てられてるか知る所からか? 割り当てられてなくても広大な国だし、潤沢に回る財源があるなら、医療費を何割か国が負担して神殿や診療所、薬屋に助成してあげれば儲けも多少出るでしょう。国民には全額負担から国負担分を差し引いた金額の支払いにすれば、医療費負担を軽減させれるから楽になると思うのよ。医療費負担が軽減できて、いい医療が受けれるとなれば国民は喜んで受け入れてくれるはず……そうなると国の政策支持者が増えてくるから、神殿はやり方を変えざるを得なくなってくるんじゃないかしら? 更に国から医師、薬師、治癒師を連携した医療制度導入した地区には補助金を出すとかでも普及の後押しになるかな?」
前の世界を参考にそこまで考えて、目を開けると、ポカンと口を開けたルンバール医師とカリミナさんがいた。
「へ?」
意味がわからず目を瞬くと。
「ふは……はは……。」
遠くからもっさり王子の笑い声がした。
振り向くともっさり王子が前屈みで肩を震わせていた。
何なのよ?
眉間に皺を寄せていると。
「これだからルキアーナ様は子供に思えないのですよ。」
ルンバール医師がソファに背を沈めた。
カリミナさんもコクコク頷く。
え? え?
2人を交互に見ると、2人は顔を見合わせて笑った。
「いやー、カリミナさん。将来が楽しみですね〜。どんな世になるのか。」
「そうですね。いい世の中になりそうで楽しみですね。」
「「将来安泰だ!」」
そう言うと大袈裟に薬草茶を酌み交わした。
え………それはどういう……。
そして、
「食べましょう! 食べましょう! さあ、どんどん食べて大きくなりましょう。早く大きくなって下さい。」
ルンバール医師は手をパンと叩くと、嬉しそうにどんどん私にサンドウィッチを勧めたのだった。
いやいや、全部食べれませんって!
食欲無くてここに来たのだけど、普段よりたくさん食べさせられたのだった。
今回は少し長くなりまして、すみません
読んでくれて、ありがとうございました
千笑、ちゃんと食事が喉を通って良かったね
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