93 私を隠してくれるオペ手袋
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忙しくしていたのか、お茶会以降毒クラゲに会ってなかった。
なのに久々に会ったら、なんでこんな般若みたいな顔で睨まれているのか。
魔法学を受講しようと部屋に入ったら、めっちゃネクス殿下が腕組みをし、仁王立ちで待っていた。
どういう事でしょう。
明らかに鋭い視線は私にきてる。
目を逸らしているが、視線が刺さる。
「おい、何か言う事があるだろう?」
うーん?
「ルキアーナ・ノア・ウィンテリアが…」
「挨拶じゃない。」
一喝されて口を閉ざす。
じゃあ、なんなのだ。
困惑して見つめると、痺れを切らした殿下が、
「お前は日頃の感謝を込めてお菓子を渡しているのだろう? 何故1番に来ない。」
右手を前に出してきた。
はーん、チョコの事を聞いたのね。
「そう言われても、家族が1番近くにおりますし。」
「普通は婚約者に渡す物だろう。」
婚約者ではなく婚約者候補だろう。
元々渡す気がなかった。
なんとなく殿下に渡すのは、バレンタインを模してるから謀れた。
もっさり王子は、まあ気にしてなさそうだし、渡してもただ単にチョコかくらいにしか思わなさそうだけど、うっかり毒クラゲに渡そうものなら、何に利用されるかわからない。
やっぱりバレンタインのチョコはルキアーナちゃんの好きな男の子にあげたいじゃん。
うっかりあげて勘違いされても良くないし。
だからルキアーナちゃんが好きじゃないだろう殿下にはちょっとね、という気になっていた。
まあ、他の人には日頃の感謝を込めてと言って、たくさんの人に渡したしね。
そう深読みせず殿下にも渡しても良かったのかもな、大人気なかったね。
………欲しかったのね。
可愛らしい部分に笑いそうになるが、ここは我慢。
でも殿下に渡す分がない。
「すみません。第二王子殿下とチョコを作っていたのですが、全てモップ様に食べられてしまって残らなかったのです。」
ネクス殿下は目を大きく開けた。
「ラトと作ったのか?」
「はあ、まあ、殿下は作ったというか、邪魔をしていたというか。作っている所を見たいと言われるので。」
歯切れ悪く言うと。
「見ていて………しかし、神獣が現世の物を食べたという話は初めて聞いたぞ!」
そういえば我が家にモップ様を連れてきた時、何にも口にしなかったな。
ちょっと前の事を思い出す。
水もミルクも肉もにんじんも何も食べなかった。
「あれは契約した守護者の魔力しか食べないのだぞ? 魔力を混ぜたのか?」
片眉をあげてネクス殿下が言う。
そう言われても魔力をチョコに加えた覚えがない。
首を傾げる。
「わざわざチョコ作る為に、あんな重労働の魔力放出しませんよ。」
口を尖らせて反論すると、殿下は目を座らせた。
「普通はそんなに力が要るものではないがな。」
今度はこっちの目が座る。
「魔力放出が不慣れですみませんね。だからわざわざ魔力なんて入れません。」
「でもラトの神獣が食べたのだろう?」
「食べたというか、頭から、いや体から? 出た黒い手みたいなのが包んで吸収したというか………。」
思い出すだけでも不気味に怖い。
ブルっと震える。
あんな可愛い容姿をしているのに、食べ方が悪魔。
すっと目線を下に落とす。
殿下は顎に手を当てて考え込んでいる。
そしてしばらくすると殿下は顔を起こして、
「手を見せてみろ。」
と言って左手を差し出してきた。
え……なんか素手で触るの嫌なんだけど。
「おい、顔に出てるぞ! いやでも手を出せ。」
おっと、顔に出てた。
「分かりました。」
頬を膨らませて手を差し出そうとすると、またオペ手袋がはまった。
もう何度目かで慣れてきた。
そのまま素知らぬ顔で殿下の手のひらに、私の右手を乗せる。
これってやっぱり、ルキアーナちゃんが何かを防御してるよね。
私がバレないようにって事よね?
殿下は私の手を見たりひっくり返したり凝視している。
けどルキアーナちゃんのオペ手袋には気づいてない様子。
どういう事だろうか………。
どこか他人行儀に感じていると、部屋の後ろの空気が揺らいだ。
もっさり王子だ。
そう思ってそっちを向くと、空間から出てきた頭の動きが止まり………3秒後。
猛スピードでこっちにやってきて、2人の手を叩いた。
「だめ、だめ、兄上は僕の! まだ君、観察中!」
私の前に立ちはだかり、私をドンと押した。
「うわッ。」
体制を崩しかけたが、倒れるほどではなく後ろに数歩下がった。
「少しルキアーナ嬢の手を確認していただけだぞ。」
呆れたネクス殿下がもっさり王子に声をかける。
「ダメ、ダメです。ルキアーナ嬢は変なんです。兄上に触れてはダメ。ドン・バーンってなる!兄上も触らせないでください。」
もっさり王子がネクス殿下に向き直って縋り付いて必死だ。
「お前は何を言っているのだ。」
弟を離そうと腕で押している。
おい、変とはなんだ!
全然変じゃないし、ルキアーナちゃん可愛いし!
ドン、バーンって誰よ!
なんなんだ、急に現れてその言いようは!
ぷうっと頬を膨らませる。
「兄上はなにより大切な方なんですよ!」
そうもっさり王子が叫んだ。
「久々に賑やかですね。盛大な告白まで起こって、殿下モテモテですね。ふふふ。」
さもおかしいという風にエーデル侯爵が入ってこられ、不服そうな顔をするネクス殿下なのだった。
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毒クラゲ王子、チョコが欲しかったんだね
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