92 感謝の気持ちを込めて
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もっさり王子と離宮で全然チョコレートを作れなかったから、超特急で作る羽目になった。
まあいい、上手く作れず材料が足りなくなったと言えば、余裕で材料を手配してくれる。
公爵家素晴らしい。
ピカピカの生チョコを大量に作りラッピングしていく。
どうにか2/14に間に合った。
別に2/14でなくてもいいのだが、そこは懐かしさもありその日に渡したかった。
材料をたんまり用意してくれた父と母に1番にあげる。
日頃の感謝の気持ちですと言って父とオリビアさんにあげたら、父は号泣して食べれないと宝物庫にしまい、オリビアさんはお茶会で見せびらかすと息巻いていた。
「食べてくれないと腐ります。」
と父に言うと、
「保存魔法かけたから大丈夫!」
とガッツポーズされた。
いや、食べてくれたらいいと思う。
まあ、気が済んだら食べてくれるでしょう。
騎士団に出かける前の兄も捕まえてチョコを渡した。
「おお、ありがとう。」
受け取るとすぐにバリバリ包みを開け始めた。
ああ〜せっかく苦労して包装したのに〜。
ビリビリに散った包装紙に切なくなりながら兄を見上げると、もうチョコを口に入れていた。
「これは…なかなかなめらかで、美味いじゃないか!」
ワシワシ撫でられた。
お兄さんなんでも豪快すぎです………。
箱を高く掲げて騎士団に持っていく兄の姿に手を振りながら見送った。
ま、喜んで食べてくれてよかった。
次にルーラとサンタール医師に持っていく。
ルーラも号泣して、食べれないと首を振り、でも誰にもあげないと何処かに隠しに行ってしまった。
気質が父に似ている……。
サンタール医師は甘いものが大好きだから、今日のお茶の時間にいただくと言って喜んでくれた。
こうよ、みんなサンタール医師みたいにお茶の時間に食べてよ!
サンタール医師の対応に満足して屋敷の使用人や調理人にも渡していく。
2個ずつしか入ってない義理チョコのような物だけど、みんな恐縮しながらも笑顔で受け取ってくれた。
みんなルキアーナちゃんに優しく、きっちり公爵家に奉仕してくれている。
当たり前ではない。
この人達がいるから不自由なく暮らせる。
ありがたい事だ。
自己満足かもしれないが、みんなの喜ぶ顔に大満足。
思った以上に時間がかかり、急ぎ気味に王宮に向かう。
バスケットに必要なチョコを入れて。
教養授業の合間に治癒師のカリミナさんを訪れチョコを差し出した。
友達感覚で、好きな人に渡していると言ったら、激しく動揺され青い顔をして受け取りを拒否された。
「殿下方の不興を買いたくありません。まだ命が惜しいです。」
チョコを渡したくらいで命取るやついないだろうと思ったけど、説明不足と認識した。
日頃の感謝の気持ちを伝えたく、友人に送る友チョコと言ったら恐る恐る受け取ってくれた。
よく考えたら、私の感覚では年が近いから友達だけど、ルキアーナちゃんとカリミナさんでは一回り以上年が離れている上に、ルキアーナちゃんは超が付くぐらい身分高な女の子という事を思い出し、友チョコって言ったけど、どうなんだと首を捻った。
傍目はアフロ美女と子供だけど身分差すごいのは間違いない。
ついつい身分の感覚が薄いし、実年齢の感覚で動いてしまう。
友達と思っているのは私だけかも……と反対に私の方が青くなった。
ふらふらした足取りで、医務室へ。
出迎えたルンバール医師に顔色が悪いと言われ、ベッドに寝かされた。
「いや、違うんです。何でもないんです。」
起きようとしても、
「人はそういう顔色の時は何でもないと言うんです。」
と言ってベッドから出してくれなかった。
医局長が帰ってきて私を見て、やっとベッドから出してくれた。
「やれやれ過保護はいかんぞ。ルキアーナ様も休息は必要じゃが、休養が必要かどうかはしっかり見極めるんじゃな。」
「しかし、本当に顔色が悪く。」
ルンバール医師の分が悪くなりそうだったので、正直に話す。
カリミナさんに馴れ馴れしく年上なのに友チョコと言って渡してしまった事を。
「大丈夫ですよ。ルキアーナ様が気さくに接してくださいますから、こちらも対応としてありがたく接させていただいてます。どうかそのままで。それに皆、会話の端端でルキアーナ様が本当は12歳という事を忘れそうになりますから。」
……それは地の私が出てるって事じゃ……。
危ないじゃない、気をつけなくっちゃ。
気を取り直して、
「これ日頃の感謝を込めて、チョコレートです。」
医局長に差し出すと、目を和ませた。
「これはこれは、チョコレートですか、ありがとうございます。お茶の時間にいただきます。」
サンタール医師と同じ事を言われ、クスッと笑いが出た。
そしてルンバール医師に向き直ると、珍しく緊張したルンバール医師がいた。
「ルンバール先生、いつもありがとうございます。感謝のチョコです。」
差し出すと、ルンバール医師は真っ赤になって受け取ってくれた。
「あ、あ、ありがとうございます!感謝というならこちらからお渡ししないといけないのに。」
受け取った体制で体を震わせているのがおかしくて、
「お返しは1ヶ月後の3/14でもいいですし、クッキーとかのお菓子ならいつでも大歓迎です。楽しみにしています。」
と戯けてお返しの催促をした。
「そ、それは、花お……いえ、はい、必ず。」
赤い顔を手で隠しながら、お返しの約束をしてくれた。
良かった、喜んでもらえて。
ウキウキしながら今度は講義室へ。
次はエーデル侯爵様に渡さなくっちゃ!
あれ?
そういえば、今日もっさり王子に会ってないな。
ストーカー終わりか?
あ、モップ様とチョコの取り合いしてたから、また喧嘩してそれどころではないのかもしれない。
そんな事を考えながら、いつもの席で待つ。
コツコツと廊下から軽快な靴音が響き、エーデル侯爵が入ってきた。
「おはようございます。ルキアーナ様。」
入り口でエーデル侯爵が会釈する。
それに倣って私もスカートをつまんで膝を折った。
「おはようございます。エーデル侯爵様。」
エーデル侯爵は後ろを見て、
「本日は第二王子殿下はまだのようですね。従者は終わったのでしょうか?」
茶化すような表情をするが、色気が増しただけだ。
うっ、流し目ビームが当たるところだった。
いや、掠ったかもしれない。
若干悶えながら、エーデル侯爵の前へ移動してチョコを差し出す。
「これは?」
顎に手を当て、エーデル侯爵が首を傾げる。
「これは日頃の感謝を込めて、プレゼントにチョコレートを作りましたので、皆様にお配りしているのです。」
「日頃の感謝を込めたプレゼント。」
受け取りながら、エーデル侯爵が繰り返す。
そしてクスリと笑った。
「お可愛いらしいプレゼントですね。」
はう、麗しい微笑みビームに撃たれてしまった。
胸を押さえてハアハア言いそうだが抑えて、
「いつも魔法学を教えて頂きありがとうございます。」
やっとの思いで感謝を伝えて、そそくさとエーデル侯爵から離れて着席した。
エーデル侯爵は箱を持ち、眺めている。
そして胸元に忍ばせると、
「ありがとうございます、ルキアーナ様。大切にいただきます。では第二王子殿下を呼びに行って参りますので、ルキアーナ様はこの物を温める魔法陣を描く練習をしてお待ちください。」
そう言って消えたのだった。
やったー、ノルマ達成‼︎
無事にみんなに渡せて良かった。
みんな喜んでくれてたよね。
喜んだ顔を見るのは好きだ。
こんな風に自分で楽しい事考えて実行しても楽しいよ!と心に呼びかけるとじんわり胸が温かくなった。
胸の温かさとやり切った満足感でやる気モード全開になり、もっさり王子が来るまで魔法陣を何枚も描きあげたのだった。
読んでいただき、ありがとうございます
ちょっとした感謝を伝えると、返ってきた笑顔で幸せになるよね
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