89 毒キノコ
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なんとなく気まずい。
定期診察を受けないといけないのだが、だいぶ前にルンバール医師に説教をかましてしまったから、顔が合わせ辛い。
もう何日もすっぽかしている。
同い年くらいの感覚で、偉そうに言ってしまった。
いや、言ったのが私ではなくて、見た目がルキアーナちゃんな訳だから………12歳の女の子に説教されるのってどうなの?
というかルキアーナちゃんが偉そうって思われてたらどうしよう。
医務室の入り口で行ったり来たりを繰り返す。
「はい…って。」
黒ロープを棒のように持って、もっさり王子が私の背中を押す。
「ちょ、押さないで下さい。」
後ろを振り返りながら、手で棒を払おうとするが届かない。
グイグイ押されて背中が痛い。
「痛いですよ、殿下、ちょっと。」
「は…やく…はい……って。」
2人でごちゃごちゃ言っていると、医務室のドアが控えめに開いた。
「僕のせいですよね。」
のぞいたのはピンク髪のルンバール医師だった。
不安になって俯いてしまう。
「さあ、どうぞ、ルキアーナ様。」
中から落ち着くケンタッキー顔の医局長が出てきてホッとした。
悪いとは思ったが目線を合わせず、ルンバール医師の横を通り過ぎて、椅子に座る。
そして医局長の問診に魔力測定、魔力不思議現象の確認をして診察を終えた。
「おかわりなさそうです。それがいいのかはさておいて、健康に間違いはなさそうです。」
良かった、ルキアーナちゃん元気!
ニッコリ笑うと、医局長が横に立っているルンバール医師の腰を押した。
「わっ。医局長…。」
抗議の声を上げるが医局長は意に介さずだ。
気まずそうな顔をしたのはルンバール医師で、そんな時。
「すみません。同僚が嘔吐して、気分悪そうなんです!」
魔術師のローブを着た男性がぐったりした人に肩を貸した状態で入ってきた。
咄嗟にルンバール医師が動く。
「どうされましたか? こちらのベッドへ。」
「はい、すみません。ポーションの効能研究をしてまして……。」
魔術師がルンバール医師に説明しながら、私達の横を通りすぎる。
頷きながら、男性の頭部を支えて寝かせながら、
「何か口にしましたか?」
ルンバール医師は真剣だ。
「わ、わかりません。ずっとは見ていなかったので。」
魔術師は目を彷徨わせた。
ルンバール医師は患者を観察する。
側に医局長と私も寄っていく。
顔色は悪い。
眉間に深く皺を寄せ唇が震えて、冷や汗をかいている。
手は胸の辺りで上下にさすっている。
まだ吐きそうなのかな。
ルンバール医師が患者の口元に顔を寄せる。
「少し甘い匂いと…唇に…着色。コノキクドリワンヤが近くになかったですか?」
魔術師はビクッとして、首を傾げた。
「確かに色々なキノコがあったとは思いますが、なかったと。そもそも毒キノコですよね? あー……いや。………どうだったのかな、わかりません。」
明らかに言い淀んでいる。
口元に手を当てて目を逸らす魔術師に、ルンバール医師はニッコリ笑う。
「大丈夫ですよ。なんでも覚えている事だけでいいのです。参考まで聞いているだけなので。それに、ここで聞いた事は他言致しません。安心してください。」
屈託なく笑う医師に魔術師はわずかに俯き目を彷徨わせた。
「確かにキノコから抽出した成分と魔力を掛け合わせて、新しい効能を作れないか試していたのですが」
すごい上手、一瞬で魔術師が観念した……。
「結果もついてこず、研究終了と言い出して、調子にのってキノコパーティと称して焼いて食べたのです……そうしたら急に。すみません、助かりますか?」
萎縮気味に微妙な事を吐露した。
どうやら使わなくなったキノコで楽しくパーティをしたようだ。
「話していただいて、ありがとうございます。最善を尽くしますよ。」
ルンバール医師は魔術師の背を摩り感謝を述べた。
魔術師はホッとして体の力を抜いた。
ルンバール医師が患者の指先についていた汚れを指で拭って舐める。
味を吟味しながら、ルンバール医師のオレンジの瞳が光る。
わ、光ってる。
「うん、甘く苦味もある、間違いなくコノキクドリワンヤだ。毒の反応です。」
「どうするかな?」
医局長が手を後ろに組み問いかける。
「胃洗浄です!」
ルンバール医師より前のめりで答える。
3人が驚いてこっちを見る。
思わず叫んでしまったと、両手で口を押さえる。
ルンバール医師も医局長もニッコリ笑って。
「ではルキアーナ様も手伝ってください。」
そう言ってくれるから嬉しくて。
「はい!」
胸の前で拳を握ったのだった。
♢♢
付き添いの魔術師に水をぬるま湯にしてもらう。
管をルンバール医師が胃まで通した。
私が管につけたロートから一定量の湯を流す。
「はい、ストップ。」
ピッチャーを元に戻す。
医局長とルンバール医師が患者を吐かせる。
これを何度も繰り返して、吐く内容物が綺麗になるまで続けた。
そして今度はルンバール医師が薬草をゴリゴリ潰して薬湯を作った。
ルンバール医師がロートから濁った緑の液体をゆっくり流していく。
「それは何ですか?」
「これは毒を吸着中和してくれる薬液です。」
「そんな草があるのですか?」
「はい、これでしばらく待って、また吐かせます。」
とてもルンバール医師は真剣だ。
更にルンバール医師は別の草をすりつぶして溶かして、魔法をかけて濾過した液体を作っていた。
砂時計が止まり、吐かせる。
赤茶色の液体が出てきて驚いた。
「液の色が⁈」
「毒の成分が当たりだったようです。しっかり吸着できました。これで中毒症状が進みません。ここから点滴で毒消しをしていきます。」
上中静脈に針を刺し、点滴開始。
点滴薬は見たことある入浴剤のようで、蛍光黄緑色でうっすら光ってる。
500mlくらいはありそうだ。
点滴が落ち始めると、患者の男性は楽になってきたのか穏やかに寝始めた。
それを見て魔術師も安堵の表情。
「良かった、良かった。ありがとうございます。」
魔術師がルンバール医師の手を握る。
「はい、早く連れてきていただいたので中毒症状が軽くて済みました。よく連れて来てくれました、ありがとうございます。」
そう笑う医師に魔術師は涙で、仲間をよろしくお願いしますと言って戻って行った。
私は入浴剤っぽい点滴を見ながら。
「すごい……。薬液すごいですね! 薬草ですぐこんなの作れるなんて、流石だな〜。」
やっぱりルンバール医師は、薬草知識といい患者や付き添いの対応といい素晴らしい先生だ。
患者に対する安堵と尊敬の思いで先生を見ると、いつの間にか側に来ていたルンバール医師に。
「この間はありがとうございました。」
思い切り頭を下げてお礼を言われた。
「え、え、え?」
私の手伝いなんて、たいした事してない。
意味が分からず戸惑った。
そんな私に医局長はおかしそうに笑った。
「うはっはっはっは。」
???
予想外の大笑いに完全に固まった。
「この間のことですよ。医師として北の地での振り返りを提出させたのですよ。成長を期待したのが、すっかりしょげておりましたでしょう? けどルキアーナ様に喝を入れてもらったようで、いい刺激になったようです。」
「い、ええ!」
目が丸くなった。
小さな子に説教みたいな事をされて、腹が立ったのではと思っていた。
驚く私に、ルンバール医師は眉を下げて笑った。
「医師の仕事が好きです。向いてるとか向いてないとか関係ありませんでした。日々精進して参ります。」
「じゃあ!」
「はい、このまま王宮医師として働きたいので、ここで頑張ります。いい経験をしたと思う事にしました。この間は情けない姿をお見せして、申し訳ありませんでした。」
「やったー!」
両手を上げて喜ぶと、ルンバール医師が胸に手を当てて跪いた。
「マルクス・ルンバールはルキアーナ様の専属医になれるよう精進して参ります。あなた様の健康を守らせてください。」
「ギャー、やめてください〜。」
急な忠誠に驚き、オタオタしたのは仕方ない。
そしてそんな私を見て、みんなの笑い声が響いたのだった。
ルキアーナちゃんがここにいる間は、しっかり健康を守ってもらいましょう!
良かった、王宮にも味方の場所ができたね。
信頼できる医師が側にいてくれるのは、ルキアーナちゃんにとってとても安心できる事だよ〜と心に呼びかけたのだった。
読んでもらえて嬉しいです
ルンバール医師大活躍!
キノコパーティは気をつけましょう
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