80 レッツダンシング
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「ではネイク様はいかほど踊れますでしょうか?」
「………。」
ものすごく穏やかにオルドレ先生が聞くが、氷のように固まったもっさり王子は一言も話さない。
もはや真っ黒のマネキン。
「先生、どうも極度の人見知りで、人に会うのも触れることもままならなかったようなので、ダンスを学んでいらっしゃらない可能性があります。」
コソッと先生に耳打ちする。
「そうなのですか? でしたらダンスはペアで踊りますし、不可能では? なぜ第一王子殿下がお連れするようにおっしゃったのでしょう。」
「少しずつ人との触れ合いに慣れさせる為のようですよ。」
困惑気味のオルドレ先生に適当に答える。
「ルキアーナ様とは大丈夫なのですよね? 先ほどもお手を取られてましたし。」
………大丈夫かどうかは知らん。
「まあ、無理矢理掴んでいただけですので、大丈夫かは分かりませんが、近くでお話しはできます。」
そう答えるとオルドレ先生は頷いた。
「では一度お二人で踊って見せていただけますか?」
え……大丈夫かな……。
イタズラ心で連れてきてしまったが。
今更王子の精神面が大丈夫か心配になる。
チラッと見て王子に近寄ると、ビクッと王子が揺れた。
そして寄って小声で、
「殿下は踊れますか?」
聞いてみる。
胸の前で指をモジモジし始めて、何も言わない。
「キロネックス殿下に教えてもらいましたか?」
また小声で聞くと、
「教えてもらった。一応踊れる。」
毒クラゲ効果で返事が返ってきた。
ナイス!
毒クラゲが教えていた!
ホッと息を吐くと、
「私は教えてもらったダンスは踊れるようになってますので、一緒に踊ってみましょう。」
そう言って王子の黒革手袋をつかんで片手を腰に回させ、ポージング。
途端に音がしたくらい王子が固まった。
オルドレ先生が曲を鳴らす。
曲に合わせて踊り出しの足を出したが、王子がびくともしなかった。
どんなに力を入れても、王子の足は床に縫い付けてあって全く動かない。
「……難しいようですね……。」
虚しく曲だけ進んで流れている中、先生が控えめに声をかけてくれる。
こりゃ無理か。
わかっていたが、急に人と接触するのは早いか。
パッと手を離して、
「ごめんなさい。大丈夫ですか? せっかくキロネックス殿下に教えてもらっていたダンスですけど、披露は難しそうですね……。」
そう肩をすくめた。
すると王子の靴が後ろに動いたと思ったら、1人で動き始めた。
「おお……。」
オルドレ先生も驚いた声を上げた。
だって急に1人でもっさり王子が踊り始めたから。
それはいつものオドオドビクビクは全くなく、背筋が伸びてどこぞの貴公子が踊っているのかという姿だった。
正確には踊る貴公子の影を見ているよう。
「本当に踊れるんだ……!」
思わずびっくり。
絶対できない口だと思ってた。
最後まで踊り切った王子は礼まで美しかった。
初めて王子だったと認識した。
オルドレ先生も興奮して、
「素晴らしい! 完璧です。あとはご婦人に慣れていただいて踊るだけです!」
叫んでいた。
………そのだけが、難しいんです。
でも兄とだったら踊れるのでは?
もっさり王子と毒クラゲを想像する。
踊れそうだ!
いや、出来ても、どこで披露するんだ!
手を振り頭の想像を消す。
「さあ、今度はルキアーナ様ですよ。」
オルドレ先生が手招きをする。
「はい。」
私が中央へ進み、王子は角の隅に移動した。
もちろん私の練習相手は先生。
しっかりホールドしてもらい踊り始める。
スカートを靡かせ、足もつま先まで伸ばして華麗に踊ってみせる。
ふふん、私はジャンルは違うけどダンスも習っていたから、なかなか上手なんだぞ。
という思いを込めて得意げにもっさり王子を見る。
もっさり王子はぬぼ〜っと立っているだけ。
もっさり髪で表情が全く見えない。
驚いてる顔が見たかった……。
更に曲にのる。
「良いですよ、もっと伸びやかに優雅に〜。」
先生が声をかけて、踊りやすいように誘導してくれる。
ノってきた私が向きを変えた瞬間。
ドサっ。
先生の手と腕の感触が消えたと同時に、黒ロープが手と腰に巻き付いた。
「え?」
床には先生が倒れている、目線を正面に向けると真っ黒な人の姿を模った靄。
「は? え? はあ?」
靄がしっかりリードしてくれるからダンスの足が止まらない。
「え、めっちゃ怖い、なに、何? 手離れない。」
手を振っても離れず、赤い靴のように踊らされ、操られる。
絶対もっさり王子。
ダンスの合間に見ると、なんか楽しそうに右、左に揺れているのが見えた。
このやろう、何してくれてるんだ!
仕返しか?
見える度に王子を睨むが、全くこたえてなさそう。
先生も横たわったまま動かない。
何したんだ一体〜。
最後まで踊り切ると、黒ロープが手と腰から離れた。
目の前には黒い靄……若干もっさり王子に見えない事もない。
それをほっといて、先生に近寄る。
「気絶…してる……だけ…だから……大丈夫。」
大丈夫じゃない。
「殿下の呪いですか? 突然倒れて頭を打ってたらどうするんですか?」
「……ま…ほう…で……なお…る。」
フランフラン揺れる王子。
「また、何でもかんでも必要ないのに治癒師の出番を作る。倒さなければ怪我もしないのですから、魔法も使わなくても済むでしょう?突然呪いをかけるのはやめてください。」
私が呆れて強めに言うと、今度は体を横にくねらせ始めた。
「……ぼく…が…ストー……カー…してる…とちゅ…う……なの…に、…ちか…くで……かんさつ……しす…ぎ……。」
謎理論を展開された。
堂々とストーカーしてるっていうのもどうかと思うし、ダンスレッスンなんだから近いの当たり前だし、観察でなくて指導してもらってるだけだし、どこから突っ込んでいいやら。
頭が痛くなり、こめかみを抑える。
「……きぜ…つ…し…そう?……君…呪い……かえ…して……き…た…けど。」
屈んで顔を覗き込んできた。
私ごと呪いをかけたのか⁈
一応、私の心配はしてくれるのか?
顔を上げると、
「まだ…ストー…カー…途中。」
心配はそっちだった。
くっと一筋縄でいかない王子にイラッとしながらも、先生の無事を確認して、王子にロープで先生をソファに寝かせてもらい、レッスンは終了したのだった。
今回も閲覧してもらえて嬉しいです
真っ黒な靄とダンス……なかなか怖いね
毒クラゲも色々弟に教えていて、お兄ちゃんしてたね
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