72 図書室で待ち伏せ
閲覧してもらえて嬉しい
楽しんでもらえたらいいな
父にもっさり王子が我が家の図書室に来たいと言っている事を伝えると、首を傾げた。
「我が家は蔵書が確かに豊富だが、殿下がすでに読んだ事のある物ばかりだと思うのだが?なんで来たいのだろう。」
「………。」
私が要らん事を呟いていたからとは言い難い。
「知識を増やしたいとか仰ってました。」
「うーん、我が家に来ても得る物がないと思うけどね?」
ますます父の首が傾く。
「許可が出ないなら、こっそり行くとおっしゃってましたよ。」
私の言葉に首を戻した父が目を丸くした。
「え、結界を裂いてこられるのか?」
…………絶対そうだろう。
むしろ歩いて正面から来訪する姿が想像できない。
「どうするかな、ご説明はして、とりあえずルキアーナの体調が戻るまでは控えていてもらおうかな。」
今も私はベッドの住人になっていて、父に頭を撫でられる。
風邪はもらわなかったけど、疲れは出た。
手足も筋肉痛のまま。
かなり動いていたようだ。
そんな話がもっさり王子に通用するかな……?
密かに疑問を感じる。
「じゃあ、ゆっくり休むんだよ。」
父はそう言うと手を振りながら出て行った。
……これから父が城に出勤するでしょ。それから殿下とやり取りをするとして。
早ければ今日にも来そうだな。
どう誤魔化そう………。
それだけが頭痛の種で、頭を抱えるのだった。
♢♢
深夜、ひっそり静まり帰った図書室は空気が冷たく怖さがあった。
誰かにバレるわけにもいかず、明かりもつけず、さらに来るかもわからないもっさり王子をしゃがんで待つ。
螺旋の途中なら、何処から現れてもわかるだろう。
「寒い……。」
寝巻きの上に、しっかりあったかポンチョも身につけて、さらにブランケットも体に纏うが、流石に冬。
足元から寒さが沁み上がってくる。
「来るかな…。」
そうこぼした瞬間。
目の前の空間が宙の途中から、ゆっくり縦に線が入りはじめた。
「き…。」
声が出そうになり、自分の口を手で塞ぐ。
空気が揺らいで、だんだん空間が裂けていき、黒い空間が三角に広がってきた。
そして中から黒いもっさり髪が出てくる。
ゆっくり、ゆっくり頭、体、足と出て来て目の前に立った。
出てき方が妖怪……。
暗闇で出会いたくない。
黒っ…………。
口を押さえて声を我慢していると、体を曲げてもっさり髪が近寄って来た。
「こんばんは。」
悲鳴をしっかり飲み込み、
「……こ……こんばんは、殿下。」
それだけ、息を詰めながら言った。
「予告通り、来たよ。本を見せてもらうよ。」
そう言うともっさり王子は体を起こし、図書室を見渡した。
「父は殿下の訪問を先延ばしにしたはずですが?」
見上げながら言うが、
「そうだね。でも拒否はされなかった。今日でも後でも来ることに変わりないからね。今日来たよ。知識は早く得ないと。」
螺旋階段から身を乗り出し、蔵書を見てる。
人には都合というものがあるんだよ。
自分の都合が最優先で行動するなよ。
もう呆れて言葉が出なかった。
常識が通用しない所は兄弟だな。
「勝手に見て回ってもいいのかな?」
そう問いながらも返事を待つ気はないらしく、もっさり王子が登り出す。
「どうぞ。」
簡素に答え、後ろからついて行く。
私に比べて軽装、黒い喪服に外套。
真っ黒過ぎて影について行ってる気分だ。
最上階まで上がり、歩いて行く。
全くふらふら動かず、無駄のない動きで。
ちゃんと歩けるのだなと妙な事に感心する。
なんなら鼻歌が聞こえて来そうな足取りだ。
ぐるっと一周し、立ち止まる事なく降って行く。
めぼしい本が無かったのかな?
声をかけず首を傾げながらついて行く。
次の階も、次の階も、全ての書棚を立ち止まらず周り、そして振り返った。
もっさり髪が動いて、顔を傾げた。
「全部読んだ事ある。」
え、歩いて見ただけで、本の背表紙全部覚えてるの?
ものすごい数の蔵書よ⁉︎
驚いて目が飛び出た。
本気、頭いいんだ。
「君の知識の元がない。」
そう言うと、いつも通りゆらゆら動き始めた。
私は深呼吸を1つすると、もっさり王子に姿勢を正した。
「教える前に、1つ教えてもらいたい事があります。」
「………な…に。」
ゆら〜ん、ゆら〜ん、王子が行ったり来たり。
私はずっと考えてきて、ずっと解せない事があった。
「殿下は何故殿下がいない場所で私が言った言葉を知っているのでしょう?」
そう言うと、もっさり王子は直立不動で動かなくなった。
「………。」
手をモゾモゾ合わせて動かし始める。
「教えて頂かなくては、私もお教えできません。」
まっすぐもっさり王子を見つめて、王子の返事を待つ。
シンと物音1つせず、無音が空間を支配する。
殿下の布擦れの音が聞こえ、
「……モフを使って音声を拾ってた。」
「…………………はい?」
予想外の事を言われ、目を開いて固まった。
魔法でとか言われると思ってた、そういう世界だから。
もしくは空間移動で側に居たとか言われるかと。
でも全然違った。
よりによって、
「モフで音声が拾えるとは聞いてないのですが?」
盗聴と言われ怒りが込み上げるが、あくまで冷静を装って声に出した。
それでも不穏な空気を感じたのか、もっさり王子は体を大きく揺らして一歩下がった。
「誰にも………聞かれなかった。…一旦は……兄上に…ダメだと言われて、……音声…拾う…のを…中止し…たけど、君が北……の地…に行った……と報告し…たら、兄上に……盗聴するよう…に言わ…れ…て、ずっと……聞いてい……た。」
はあ? あんの毒クラゲ!
盗聴知ってたの?
なんの許可出してんの⁈
盗聴は犯罪だろうが!
うん? こっちでは犯罪ではないのか?
いや、やっぱ犯罪だろう。
「これはきっちりキロネックス殿下に文句を言わないといけないですね。殿下は不法侵入もしてますし、揃って犯罪を犯してますから! 罰は受けてもらわないと。」
私が腕を組んで仁王立ちすると、もっさり王子は明らかに動揺した。
「そ……そん……な……あに…う……え………わるく……な…い。」
「悪いですよね。聞かれて困る事ではないですけど、気分が良くないです。殿下方が私に良かれと思い与えてくれた監視役のモフを受け入れたのに、まさか盗聴とは。裏切られた気分ですよ。殿下にはモフをお返し致します。」
私がポケットから丸まったモフを出して、もっさり王子に差し出す。
殿下は胸の前で手を組み、もっさり髪をブンブン横に振る。
「無理です。黙っていた殿下が悪いです!」
近寄って、無理矢理殿下に押し付けた。
「こ、こまる。」
「困っても無理です。キロネックス殿下に突き返されたとご自分でご報告ください。」
もっさり王子に背を向けると歩き出す。
「え……ま……まっ…て、わ、……わか……じゃあ……次……君……まだ……きいて…ない。」
ピタと歩みを止めた。
もう喋りたくない、けど一応考えていた言い訳をしとかないと納得せず、何度もこうして来そうだ。
それは面倒くさい。
振り向きもせず、
「殿下は離宮から出ないので、知識が本の中に偏るのは仕方ない事ですが、私は本も読みますが色んな方と話もしますし、色々な所にも行きます。そして実際の動きを見たりもします。そうして得る知識もあるのです。様々な部門で専門的に詳しい方はたくさんいらっしゃいますから。そういった方の話の中には活字になっていない物もたくさんあります。そうして得た情報を自分で考え、理解して活用しているのです。活字が全てではないのですよ?」
前いた世界を思い浮かべて、色んな人が発信する動画も見たなと口角が上がる。
「……外。……見て。……人。……聞く。」
もっさり王子の発する小さな単語に、耳を傾けながら少しは外の世界に興味を持ち一歩出てほしいと思ってしまった。
この子はうちに篭りすぎてる。
外の世界をもっと綺麗なものをたくさん見た方がいい。
「そうです。自分で歩き、見て、聞いて回ると知らない発見がありますよ。それは絶対本では得れません。」
そこから全く声が聞こえなかった。
図書室の扉まで歩き、振り返りブランケットをつまんで膝を折った。
「ではお教え致しましたので、ここで失礼致します。」
魔石に触れ、立ち尽くす殿下をそのままに図書室を出て行った。
少しして図書室の鍵がかかる音が響いたのだった。
閲覧ありがとうございます
千笑の言葉がもっさり王子に響くといいね
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