71 恐怖のニョロニョロ
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「う…ん……。」
意識が浮上すると、雲に乗っている心地だった。
ああ、ラルクァンシエル様に乗ってたんだった。
手を動かすと、ふわふわな感触だが、毛とは違う気がして目を開けた。
空とは違う天蓋が見え、部屋という事を認識した。
「お布団?」
右見て左見て、見知らぬ部屋。
調度品も落ち着いて匠の物に見え、
「…ネクス殿下の部屋かぁ?」
思わずこぼすと。
「そ…そんな…わけ………ないでしょ!」
足元から声がした。
ん?
もっさり王子?
声の感じに眉を上げて、ゆっくり体を起こした。
部屋の戸口に立つもっさり王子。
「え、殿下の部屋ですか?」
首を傾げると、
「ば…ばか…なの?……客室……に…きま………ってる。……ぼく…だ…れも……いれな…い。」
右、左、と大きくもっさり王子が揺れた。
おお、安定の王子。
帰って来たんだ。
ホッとして笑うと、もっさり王子がビキっと固まった。
え、何⁈
眉間に皺がよる。
無言でもっさり王子を見つめていると、またゆらゆら揺れ始めた。
………なんだろうね、本当この子は。
「あ、兄上が……い…ま……さいしょ…う……よびに……いって…る。」
「ああ、お父様を呼びに行ってくださってるのですね。ありがとうございます。」
ベッドに腰掛けたまま、お辞儀をする。
あ〜やっぱり疲れてる、体が重い。
ギシギシする体を伸ばそうとして途中で止まる。
は!
みんなを閉じ込めた結界を思い出したわ、一言言おうと思ってたんだった!
「ちょっと殿下!」
急に口調が変わったので、もっさり王子がビクッとなる。
それに構わず、
「やっぱりお兄様にお願いされたからといって、ほいほい結界なんて張ったらダメです。全て頷いてはダメですよ。みんなあのままほっておいたら死んでいた可能性がありました。呪いの結界を張るにももっと慎重に考えてやってください!」
急に私が怒り出すと、もっさり王子はまっすぐ立って首だけ傾けた。
「考える? 必要ないよね? だって兄上の指示だよ? 兄上がこうと言ったらそれが一番最善なんだ。僕が兄上に従わないなんて、ありえない。」
思った以上にはっきり言い返され、こっちが怯む。
が、宗教じゃないのよ!
何でもかんでもお兄ちゃんが正しいわけないでしょう。
「お兄ちゃんが間違う事だってあるわよ! それを訂正もせず肯定だけするなら誰でもできるわよ! 弟でしょう? 弟ならお兄ちゃんが間違えてたなら、道を正してあげなさいよ! それが兄弟でしょう。あなたにしか出来ない事をもっとよく考えなさい!」
ガッと勢いよく叱る。
小刻みに体が揺れ、見る見るうちに黒マリモになってしまった。
まるで自分の兄弟に叱るように言っちゃった。
少し言いすぎたと、反省する。
気まずくて髪を手ですくと、髪が解けていることに気付く。
あれ?リボンは?編んでたのが解けた?
頭のてっぺんに触れて、
「あ、モップ様!」
思い出して叫ぶと、もっさり王子がビクッとなった。
「そうだ、それとありがとうございました。モップ様にたくさん助けていただきました! 本当に助かったんです! それで、あの、モップ様は?」
モップ様の所在が心配になり聞くと、
「………モップ大丈夫、帰った。」
黒マリモのまま、少し不貞腐れた声が返ってきた。
「そうですか。良かった。」
ホッと息をはいて、ベッドの布団に視線を落とす。
良かった、モップ様も無事に帰ってきていて。
薄く微笑むと、目線の先に黒い服が揺れた。
「じゃあ……ぼ…く…しか……で…き…ない……こと…。」
「え?」
上手く聞き取れず見つめる。
「ねえ……自動……調理器……って何?」
あまりに静かな声と、急な話題転換に思わず固まる。
え、今もっさり王子が言ったの?
見つめるそばから、ゆらりと王子が立ち上がる。
一歩進むとゆらゆらもっさり髪が揺れる。
言われた言葉をうまく飲み込めず。
「え…。」
また一歩進んで揺れる。
「ねえ…フードプロセッサー……って……なあに?」
え? 急に何?
心臓が早鐘を打ってくる。
けど困惑する私に構うことなく、また一歩進んでゆら、ゆら。
真っ黒なニョロニョロが近づいてくる。
「ねえ……ひこう…き……って……なに?」
こ、怖っ………
確実に私が発した言葉達、なんで知って!
言葉の打撃と近づくにつれて大きくなる黒ニョロニョロが、私を追い込んでくる。
また一歩ゆらら、ゆらら。
「ねえ…ドロん…ってなあに?」
もうベッドサイド。
そっちを向けない、背が高いから黒い影に覆われるような気がして、恐怖で布団を握る手に力が入る。
そのまま正面を向いて固まっていると、横で服の擦れる音がする。
「ねえ…。」
耳元で声がして、びっくりする。
目を大きく開くと、もっさり王子が体を倒して顔を近づけていた。
「ねえ、王太子妃教育受けていて、いつ料理したりする時間があったんだろうね?」
囁く声は静かで理知的、背中がゾクっとした。
暑くない、むしろ寒く指先が冷たいのに、こめかみから汗が流れる。
そんな私を揺れながら、楽しそうに声を出す。
「ねえ、フードプロセッサー、ひこうき、ドロ〜んって何? なんの本に載ってる言葉なの? 他にも知らない言葉色々知ってそうだよね? 公爵家の図書室は大きいって聞いてるけど、そんなに貴重な蔵書があるのかな。」
普段と格段に違い饒舌に話すもっさり王子が怖い。
初めて怖いと思った。
15歳の引きこもりがちな気弱な王子のはずなのに。
「うふ……うふふ、殿下の仰ってる事がよくわかりませんが、当家の図書室は確かに大きく蔵書が多いですね。」
恐怖を隠して笑って誤魔化す。
何、なんなの、急に饒舌に話して。
「僕はね、兄の否定はしたくないの。兄上が白って言えば白だし、黒って言えば黒なんだよ。その通りでいいと思ってる。そして僕はいつでも兄上の役に1番に立ちたいんだよ。その為に知らない事があってはいけないんだ。常に兄上の手助けがしたいし、兄上が聞いたことにはすぐ答えたい。そこは僕の場所だ。君がその場所に立つのは許せないんだよ。その知識の源が公爵家の図書室にあるのなら、しっかり把握しなくちゃね。今度こっそり図書室にお邪魔するよ。」
そう艶めいて囁くと体を起こした。
今も背中がゾクゾクする。
兄1番が重すぎる。
私だって毒クラゲの役に立ちたいとか全然思わないけど?
敬愛より重過ぎて、一層恐怖だ。
でも………うちに勝手に来るのはどうかと思う。
「勝手にダメですよ。父に相談してください。」
一応嗜めると、もっさり王子が体を左右に捻らせ、
「許可なんて要らないよ。こっそりって言ったでしょ。」
と楽しそう。
何考えてるんだ!要るに決まってるでしょう、不法侵入。
それにフードプロセッサーとかドローンとか図書室の本に載ってる訳がない!
ドッドッドッドッ……。
不自然なくらい心臓が早鐘をうつ。
あの転移を使えば容易く殿下は来る。
絶対に。何か執着心を感じ確信があった。
どうしよう…どう説明しよう。
焦りで全くいい返答が浮かばない。
一層布団を握り締めると、もっさり王子が急にふらららら〜っと部屋から出て行った。
「…………え。」
もう意味不明な行動と緊張でいっぱいいっぱいだったが、王子が居なくなって息が吸えた。
「ひゅう………。」
あれはもっさり王子は幽霊か何かか?
金縛りに合ってた気分で、いっそ息も止めていたのかもしれない。
「はあ……。」
肩の力を抜いた瞬間、
「ルキアーナ〜!」
父が勢いよく部屋に入って来た。
「無事で良かったよう〜。怪我は、怪我、何処か不調はないかい?」
ぎゅうぎゅう抱きしめて、イケメンな顔を歪ませる父に申し訳なくなった。
「何も言わずに行って、ごめんなさい。」
素直に謝ると、
「うん、次からはちゃんと言って、許可はできないかもしれないけど、心配したよ。あとザイナス達を助けてくれたんだね。ありがとう。」
そう笑う父の赤い瞳には涙が滲んでいた。
「はい。」
私が笑うと、より一層抱きしめてきた。
そんな父がありがたく、しばらく父の好きにさせようと抱きしめられ続けたのだった。
閲覧ありがとうございます
いつもかわいいもっさり王子が、少し怖かったね
でもお兄ちゃんの言いつけどおり、見張ってるのがかわいい
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