66 食べたい物を作るぞ
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私から見ても毒クラゲは部下に的確な指示を出していた。
倒れた者の原因を私とルンバール医師から聞き、治った者とまだ罹患している者とに区域分けをした。
騎士団団長らには、元気な騎士と魔術師と共に魔獣討伐に向けて戦略を練るように指示。
師団長には近隣被害がないよ結界を張るように指示。
治癒師とルンバール医師には罹患者の治療をするように指示。
そして私には何故か料理をするように指示。
何故?
騎士達の中に料理当番ってのがあるの聞いてるよ?
メインで作ったのだって最初の一回だけだし、次から騎士さんを手伝っていただけなのに。
もう復活者多いのだから、私でなくても良くない?
「は? 私にはできません。 ご令嬢ですから〜。」
と笑ってみたけど、毒クラゲはもっといい笑顔を見せた。
「お前が料理できる事は、報告を受けている。それとも死ぬほどまずい物を公爵家の圧力で皆に食わせていたのか?」
「そんなわけないでしょ? みんなが早く復活できるように消化に良く美味しい物を作っていたわよ! 私は料理ができるんですぅ。」
イラッとして思わず言ってしまったのよね。
遠い目をして野菜を前に立ち尽くす。
そして目の前にはニコニコ顔のネクス殿下いや、毒クラゲ王子でいいだろう。
丁重に移動をお願いしたが、ここの位置が皆の報告と動向が把握しやすいとかで陣取って座っている。
なんで私が殿下の前で料理をしないといけないんだ。
理不尽に感じながら、何を作るか考える。
だって私も美味しい物は食べたい。
この何日かで食料テントには再々出入りしているから何があるかわかっている。
討伐遠征の為、日持ちする食材ばかりだ。
野菜も根野菜が中心、肉は干し肉、燻製サラミ、小麦粉、携帯乾パン、脱脂粉乳粉、塩、胡椒、ハーブとか。
温かいポトフは作るとして、あと何しよう。
エーデル侯爵が復活してから、魔物だか動物だかわからないがイキのいい肉が手に入ってる。
だからここのところ毎食、焼いただけの串肉ばかりだ。
騎士さん達はあまり料理ができない、だいたい焼く一択。
肉大事、タンパク質大事けど、毎食だと飽きてきた。
騎士さん達は全然美味しそうにたくさん食べてるけどね。
なんとなくメニューを決めて、私は手に馴染んだ団長さんのナイフを取り出した。
殿下が驚いてすぐ取り上げたが、こっちの世界の包丁はなんせ大きくかつ重いもので上手くつかえず、余計に危なかったようで、すぐ団長ナイフが私の元に返ってきた。
ポトフの材料は切って鍋に入れ準備だけしておく、せっかく肉たくさんあるし今日はハンバーグ作ろうかな。
久しく食べてない。
こちらではミンチ肉を使う概念がないのだ。
団長ナイフで肉をミンチにする為、めった切りにしていく。
そんな私を見て、
「その肉に何の恨みがあるのだ。肉がわからなくなるだろう。」
ネクス殿下が眉を顰める。
………恨み………恨みなんかないし………。
「ミンチにしているのですよ。」
手を動かしながら答える。
「ミンチとはなんだ?」
「…………。」
答えるのが面倒くさくなる。
聞こえなかったふりをして、だんだんナイフを肉に打ち付ける。
「おい、聞いておるだろう。」
再度殿下が乗り出してくる。
「ハンバーグが作りたいのですよ。」
早口で答えると、
「ハンバーグとはなんだ?」
と聞いてきた。
ほら。だから面倒だったんだ。
こっちに無いものを作ろうとしているから1から10まで説明が必要になるから。
「私が命名した創作料理です。出来たらわかりますから。」
今度はニンジンの皮を削ぐ。
「それは食べれる物なのだろうな?」
悪気なさそうに首を傾げてくる。
失礼な! なら指名しなければいいのに!
頬を膨らますと、殿下は顔の前に降参と言わんばかりに両手を上げた。
大量のミンチを桶に入れ、大量のにんじんと玉ねぎを見つめる。
「フードプロセッサーが欲しい。」
思わず呟く。
今日は誰も魔術師がいない。
いれば魔法で切り刻んでくれるかもと期待したのだが。
「自動調理器やスイッチ1つでコンロくらいあったらいいと思う。」
思わずぼやくと殿下が片眉を上げた。
「何の話だ。」
「魔法で水や火が出せる人間には、出せない者の気持ちはわからないなと。」
私がため息をこぼすと、
「なんだ火がいるのか。」
と指先に灯した。
いとも簡単にやってしまう辺り、やはり腹が立つ。
「先に魔法でこの大量のにんじんと玉ねぎを細かく切り刻めませんか?」
そう聞いてみると、殿下は少し苦そうな顔をした。
「なかなか精度のいる魔法を要求するな。」
難しいのか。
「出来ないのならいいです。地道に刻んでいきますから。そのうち戻ってきたエーデル侯爵様にお願いしてみます。」
あっさり玉ねぎを取って切り始めると、
「出来ないとは言ってないだろう!」
急に殿下が声のボリュームを上げて立ち上がった。
「そんなムキにならなくても、地道に。」
「ムザキ・クカマーコ。」
殿下の両手から風が出てきて、にんじんと玉ねぎを宙に浮かせた。
ジャグリングのように舞ったかと思うと、球体の中でどんどん野菜に風の刃が当たり切断していく。
「おお〜。」
驚きで目を開く。
すごいじゃないか、毒クラゲ王子!と思って見ると、殿下は顔を顰めすごく集中していた。
大変な魔法なんだな。
しばらく殿下は球体を操作していたが、
「そこの桶に入れたらいいのか?」
汗をかきながら聞いた。
「あ、はい。お願いします。」
そういうと両手を桶の方に動かす。
みじん切りになった野菜達が桶に綺麗に入った。
「おお〜。」
感動で声を上げると、
「どうだ、すごいだろう。」
額の汗を拭い、殿下が得意げに言った。
「すごいです。魔法便利。」
助かった。この量のみじん切りは流石に手がやばくなる。
メニューをハンバーグに決めて後悔していた所だった。
ホクホク顔で桶を抱えると、粉を投入した、ついで塩に潰した胡椒を多めに入れる。
ソースが作れないので、塩味大事。
「おい、もっと感謝しろ!」
汗を魔法で飛ばした殿下が不満を漏らす。
「はい、はい、では混ぜるので、殿下も桶に手を入れて混ぜるの手伝って下さい。」
「は?」
近付こうとしていた殿下が立ち止まる。
「手で混ぜるのか?」
信じられないと狼狽える。
「服に付くではないか!」
坊ちゃんか?
ああ、坊ちゃんだった。
袖捲れよ、坊ちゃん。
目を座らせ、竈門に鉄板を敷く。
怯んでる殿下を尻目に迷わず手を突っ込む。
ぬちょっと柔らかく冷たい感触がたまらない。
楽しくなり、ぬっちょぬっちょ混ぜる。
殿下は顔が引き攣ってる。
そんなに手で混ぜるのはいけないかね?
気持ち良いが?
しっかり混ぜて、出来るだけ大きめな小判形の塊にしていく。
鉄板で一気にたくさん焼けるから鉄板便利。
あとは水がいるけど、
「湧水とかないですかね?」
横の木々が茂る山間を見る。
そんな私に殿下は目を座らせ。
「水が要るなら素直に願ったらいいだろう?」
…………いや、別に殿下に出して欲しくないわけではないし。
「そうではなくて、魔法の水ってミネラル入ってます? 精製水に感じて味もイマイチですよね。」
私の言葉に殿下が首を傾げる。
わからないだろうね。
魔法の水って分子が集まってできているだけに感じるのよね。
だからそこにミネラルを足せる要素がない。
この世界って魔法で火を出したり水を出したりが当たり前だから、比較的魔法で出した水を摂取している割合が多いのではないかと思うのよね。
高熱で倒れた屈強な騎士達だが、圧倒的に痙攣がきている人が多かった。
ミネラルが足りてない。
本来こんなに体を鍛えている人が簡単に痙攣なんてこない。
まあいいや。
無いものを言っても仕方ない。
「この野菜がひたひたに隠れるくらい水を入れて下さい。」
顎で殿下に促すと、
「お前くらいだぞ。そんな態度で命令するのは。態度を改めるのではなかったのか?」
なんかブツブツ言いながら魔法で水を入れてくれた。
続いてまた顎で、
「鍋と鉄板に火もつけて下さい。」
殿下は眉をピクリと動かすと、指に火を灯すと放った。
ちゃんと熱されていく様子を見て。
「………魔法使えたらな。」
面白くなくて呟くと、
「なんだ魔法が使いたいのか?」
「まあ、そうですね。人様を煩わせない程度には使いたいですね。」
私がぼやくと、
「今魔法学を学んでいるだろう。無属性とはいえ全然使えないかはまだわからない。お前は12歳だろう、これから鍛錬すれば使えるようになるかもしれないのだから、焦る必要はない。今は使える者に頼ったらいいのだ。」
その言葉に目を丸くする。
毒クラゲが励ましているのか?
毒がない殿下は、ただの王子ではないか!
意外性に口まで開く。
「なんだ、その顔は! また失礼な事を考えているだろう?」
急に怒り出した。
だって今まで毒しか食らってきてない。
不審そうに見つめると、殿下は手でシッシッと払った。
「早く取り掛かれ! 皆が食事に戻ってくる。」
言われなくても………殿下から視線を外し、鉄板にハンバーグを置いていく。
いっぱい焼こう、これだけあればたくさん出来る。
ハンバーグはみんな好きなはず。
ジュージューと肉の焼けるいい匂いがしてくる。
すかさず団長ナイフで手際よくひっくり返していく。
「それは、そのように使う物ではないはずだが? 上手にひっくり返すな。料理の手際もいいな、普段からしているのか?」
妙なところで感心された。
「まあ、そうですね。たまに料理はしてましたから。」
次々にひっくり返しながら答える。
匂いに釣られた騎士達が戻ってき始めた。
ちょうどいいタイミング!
どんどん焼いて、ポトフも注いでもらって渡していく。
目の前の殿下にも配られ、優雅にフォークを扱って口に運ぶ。
「すごいじゃないか! これは美味い!」
珍しく興奮していて、笑える。
騎士も大興奮で、大口でどんどん食べていく。
そうだろう。そうだろう。ハンバーグはどの世界にも共通で美味い。
あっという間に桶の中のハンバーグだねがなくなっていった。
すごいね男所帯の食欲は!
たくさん食べてくれて気持ちいい!
和気あいあいハンバーグパーティを過ごしたのだった。
いつも読んでもらえて嬉しいです
ハンバーグ最高! 美味しさはどこでも一緒!
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