64 盗聴は気持ち悪い?
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弟は顔の前に手のひらを合わせて、大事そうに何かを包むようにして戻ってきた。
………。
それだけで嫌な予感がする。
「盗聴器を持ってきたのか?」
一応平静を装って聞いてみる。
弟は頷くと、合わせた黒革手袋を開いて中身を見せた。
「ヴっ………。」
弟の手の中にいたのは粘つく軟体に渦巻きの殻を背負ったカリタツム。
少し違うのは殻からアンテナが伸びていた。
じわじわ這う2体の様子に寒気がする。
「兄上、これを耳に装着してください。周波数は合っているので、すぐに聞こえますよ。」
普通に目の前に差し出してきた。
やや顔を引き、目の前のカリタツムに焦点を合わす。
これを耳に当てるのか? これを?
テカテカ艶めかしく柔らかく動く躯体。
絶対無理だ。
耳に当たる想像をして寒気がする。
「他にないのか? 耳に当てずとも聞こえないのか?」
弟の手を向こうに押して遠ざける。
弟は首を傾げたが、俺の手の上を過ぎて、よりカリタツムを顔に近づけてきた。
「大丈夫ですよ。カリタツムは柔らかく粘着性があるので、しっかり兄上の耳に圧着できます。兄上の他の動作を妨げないので、とても利便性にも富んでます。」
ヒクッと片頬が引き攣る。
「お、お前はコイツがくっついても嫌じゃないのか?」
また弟は首を傾げ俺を見たが、徐に片手で2体持つと長いもたついた髪を耳にかけ、形の良い耳を出した。
ぬちゃっと音がしたように感じるくらい、柔らかく弟の耳にカリタツムがくっついた。
うう……。
「何かが刺さることもないですし、しっとり柔らかく装着できます。生暖かいですし、ソフトでよく聞こえます。」
嫌な表現だ。
諦めるしかないのか?
弟が聞いて解説すればいいのでは?
いや、話が遅い、タイムリーに状況がわからないな。
しばらく葛藤し、覚悟を決め、遠い目になる。
意を決して弟に片耳を向けると、ぬちゃ…。
「ヒイ…。」
息が止まるくらい感触がダメだった。
えも言われぬ粘りとヌルンとした感触、地味にひだが動いて耳に圧着した。
生温かさも余計に気持ち悪い。
顔が青くなり口元を片手で押さえる。
「どうですか? 聞こえますか?」
無邪気に弟が聞くが、それどころではない。
感触が………ブルっと体が震えて、気が遠くなりそうになった時。
『……じゃないです! 私らじゃ、やられますって!」
ルキアーナ嬢の切羽詰まった声とガタゴト物が倒れるような音が聞こえた。
驚いて目を開くと弟も固まっていた。
『やばい〜! ドカッドドッガ………ウガゥガワォ!」
明らかにルキアーナ嬢が襲われたような音だった。
これはもうダメだ、魔獣の餌になったか、バカなやつだ。
妙に悔しくて胸が熱くなった。
ソファの背を殴ると、弟がビクッとなった。
『え、何が?』
ダメだと思っていたルキアーナ嬢の声が聞こえた。
生きてる……大きく息をついた。
アイツはなんなのだ、驚かせて!
それにごちゃごちゃ向こうでルキアーナ嬢と女性の声が飛び交っている。
『ウゴワゥ、グォ!』
また魔獣の声がしたが、一瞬で静かになる。
「モップですね。モップが魔獣を蹴散らせているのだと思います。」
カリタツムを手で押さえた弟が言う。
ああ、神獣がついて行ったと言っていたか。
音声だけというのは心臓に悪い物だな。
そんな事を思っていると、師団長、ザイナス、騎士団長の声がした。
そして感謝の言葉を発する医師のルンバールの声もした。
ルキアーナ嬢のおかげで主力メンバーが復活したか……。
アイツらが復活したとなったら、弟の結界もバレるな。
そう思った瞬間に師団長が苦笑して弟の結界を指摘した。
閉じ込めた事がバレたな、仕方ない、しかしアイツらなら理解出来るだろうと確信もあった。
王族として危険因子の排除は当たり前で、コイツらを弟の結界に閉じ込めた事も一度や二度じゃない。
いつだってそれが最善策。
自嘲の笑みを浮かべると、弟が耳のカリタツムをむしり取った。
急に耳から粘着性が取れて、スーッと空気に晒される。
驚いて弟を見ると、
「あ、兄上は素晴らしいです。危険回避は国を守る者にとって大切な事。兄上は悪くないです。」
と言い募った。
悪口に感じたか。
見つめていると、弟がビクッとした。
そして自分のポケットを徐に探った。
??
首を傾げると、弟はポケットから緑の光を漏らす物を取り出してきた。
手を差し出して見えたのは、緑に光るあの鉱石だった。
「ルキアーナ嬢に危険が⁈」
焦った、いつから光っていた?
あの場にルキアーナ嬢を狙う奴も行っていたのか?
こんなに離れていては何もできない。
しかもラトの結界で入れない。
何があった?
魔獣は弟の神獣がどうにかしたはず!
だが人は?
「ラト、何があった?」
聞くが、弟は徐々に首を傾げていくだけで、何もわからない。
「貸せ!」
迷わず弟の手からカリタツムを奪い、耳に装着した。
今度は気持ち悪いなどとは全く感じなかった。
早く声が聞きたかった。
聞こえてきた声はこっちの焦燥を全く感じてないルキアーナ嬢。
『……は危険人物ではないわ、あのマークは消せないのかしら?』
は? 何故消す? なんで危険人物でないとわかる。
『ああ、消えましたよ?』
「兄上、消えました。」
聞こえた声と被るように弟が発色の消えた鉱石を見せてきた。
「これは発光を消せるのか?」
「いいえ。消えません。発光を続けるから危険物の認識がずっとできるのです。消えるならマークになりませんから。唯一消えるのは対象物の生体反応が消えた時です。」
弟の返答に困惑する。
生体反応を奪うのではなく、ルキアーナ嬢が消えるように願ったら消えたのか?
どういう事だ? 意味がわからない。
『………が危険人物ではなくなった所で、皆が……んして……ます。』
盗聴からザイナスの声がするが、聞き取りにくい。
とりあえず危険人物ではなかったのか?
誤認マークであったのか?
ザイナスは他の騎士の様子を見に行くようだ。
あいつの性格からすると、危険を放置できるタイプではない。
おそらく大丈夫なのだろう。
全く人騒がせな。
「ダシンゴムと鉱石の利便をもう少し考える必要があるな。」
思わず呟くと、弟はゆらゆら左右に揺れ始めた。
「分かりました。もう少し兄上の役に立てるように、考えます。」
「ラト、お前は引き続き盗聴を続けろ。何か急な動きがあるようなら連絡を。」
俺はそういうと、カリタツムを耳から外して弟に渡した。
「はい!分かりました。」
弟はビシッと姿勢を正し直立した。
「陛下の所へ行く。」
それだけ伝えると、俺は部屋を後にしたのだった。
閲覧ありがとうございます
盗聴器なかなか耳に当てるの勇気がいりますね(笑)
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