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62 お説教の時間です

閲覧してもらえて、嬉しいです

ありがとうございます

私が靴の汚れを布で拭いている中、テントに入った殿下は入り口で立ち尽くしていた。


「殿下も靴底を拭いてください。」


私が布を渡すと、

「私が拭くのか?」

驚かれた。


当たり前だろう?


眉を寄せて殿下を見つめ首を傾げると、殿下は渋々布を取った。


「なぜ私が……。」


なんか言っているが、それぐらい自分でしろ。


「それでお前は無事なようだな。」

靴を拭きながら殿下が言う。


一応気にしてくれてたのか。


無言でいると、拭き終わり立ち上がった殿下が石を取り出した。

もう光っていない、ただの石。


光った理由と消えた理由を聞いているのだな。


「モフは危険を察知して、ちゃんとマーキングしてくれましたが、マーキングしたのが騎士団長様でしたので、モフとモップ様にマーキングを消してもらいました。」


「なぜ騎士団長に?」

殿下は怪訝そう。


「私を怪しい人物と判断して、団長様が警戒されたので。」


そう言うと殿下は私を下から上へ眺めた。


「そうだな、確かに怪しい。」

「…………。」

イラッ。


「この恰好には理由があるのです。殿下のように何も考えず行動しているのではないですよ?」


「な!私は常に考えている!」


「考えてないですね。エーデル侯爵様から報告は受けているでしょう?この地は感染症が流行しています。カリミナさんの魔法で治った者も多いですが、未だ感染者がおります。その状況で無防備に来るなんて、うつりに来たようなものです!」


「うつって体調が崩れたなら、治癒魔法をかければ良いだけではないか。」


話にならない殿下にため息が出る。

そんな私に殿下が睨む。


「いいですか?これはただの風邪です。しかも私がここに来て、私が発症してない事を考えると、この風邪は飛沫接触感染症です。これを予防するのに、私はタオルマスクと消毒を実施しています。これだけで感染は防げています。無用な感染がなければ貴重な治癒師が魔力消費する事なく、必要時に魔力を温存しておけます。」

出来るだけわかりやすく説明する。


「ひま? タオルま…す?」


あまり聞き馴染みのない言葉だったようだ。

ものすごく首を傾げている。


「ですから、この口にタオルを当てることは、風邪の原因となるものを吸い込みませんし、手や周りを消毒していれば食事の際も口に原因が入らないので風邪をひかないと言っているのです。風邪をひかない努力をしましょう。」


再度説明するが顎に手を当てて、

「王族たる者みっともない恰好はできない。そんな努力はその辺の奴らがすればよい。王族は唯一無二だ。何かあれば優先して治癒するのは当たり前、王宮治癒師とはそういうものだ。他の者には必要ない。」

と言い放った。


頭が真っ白になった。


みっともない? 

感染予防の何がみっともないんだ? 


見た目か? 

皆がこの強力な風邪にかからず命が守れるように、王族が見本になれよ!


なんて自己中心的な考え、そして自分だけ元気になって何ができるんだ。


いかにも俺様、王様発言。

いや、王様に続く人だけれども…。


国を統べる者が倒れるわけにいかないのは理解できる。

国を動かすのに先導者は必要だ。


けど自分1人で国を動かしているわけではない。

周りに人がいるから自分が中心で指示できるのだ。


治癒師の力量もしれているのだから。


殿下は私の事が心底理解できないという顔で腕を組んでこちらを見てる。


「王族として先導者として、元気で立ち続ける事は大切です。王族を優先して治癒するという考えは理解できますが、他の方にも治癒の能力は必要です。指示を出した時周りに人がいなくては国を動かす事はできません。人材は宝です。治癒師の魔法は王族だけのものではありません。」


私がそう言うと、フッと笑った。


「人はいくらでもいる。私が取り成せば、いくらでも私の為に動く。駒はいなくなれば補充するだけだ。」


グッと眉が寄る。


「ここにいる方々は有能な方達です。殿下の命令で第二王子殿下が結界を張ったようですが、一歩間違えたら全員死んでいた可能性があるのですよ? かなり危険でした。」


更に言い募るが、殿下は服の埃を払いながら興味なさげに。


「だからなんだ、私はこの地を守る為動いただけだ。制圧できず危険因子が増えるなら不要だ。全員で魔獣もろとも生き絶えるなら、それで事が終わる。簡単な事だ。ただ…」


もう我慢ならなかった。


ツカツカ歩くと、パンッ‼︎

思い切りネクス殿下の頬を叩いた。


そしてこれでもかと大声で怒鳴った。

「馬鹿なの? 優秀な部下に対して碌な調査もせず、救うこともせず、見殺しにするなんて!ここにいる人はエーデル侯爵様や団長様、兄、いいえ誰であれ、唯一無二で死んでいい人なんかいない!みんな貴方の為に国の為に働いてるんでしょう? 親分なら守ってやるぐらいしなさいよ! みっともない‼︎」


叩かれた殿下は驚いて頬を押さえて固まっていた。


ふーふー肩で息をしながら殿下を睨む。


そして徐々に我に返った殿下はこめかみに青筋を立てた。


「お前、誰に手をあげている。調子に乗るな、切り捨てるぞ。」

腰の剣に手をかけて、カチャッと音が鳴る。


「切ればいい。言って理解できないのでしょう? 切って満足したらいい!どうせ碌な人間にならない!そんなやつの側でルキアーナちゃんが生きる必要はない!」


更にくってかかると、殿下は剣を抜いて、顔を赤くして空気を切った。


私はその瞬間に大きな腕で後ろに抱かれて離れていた。

目の前に剣の切先が過ぎたのが見えた。


大きく目を開くと、殿下も目を見開いていた。


そしてお腹の腕が離れたと思ったら、両方の目の下端に赤い髪と青い髪が見えた。


「無礼を失礼します!しかし妹を切るのはどうかお許しください。」

「殿下どうかお怒りをお鎮め下さい。お怒りは不甲斐なかった私共が受けます。」

やはり隣で傅いているのは兄とエーデル侯爵だった。


切迫詰まった声に、自分がやってしまった事に今更気づいた。


危なかった、ルキアーナちゃんが。


呆然と殿下を見ると、殿下も呆然と剣を見ていた。


「殿下、どうかお許しください。」


更に後ろから声が聞こえて振り向くと、テントの入り口は開き、私のすぐ後ろから団長様にルンバール医師、カリミナさんと大勢の騎士や魔術師が続いて跪いていた。


いつの間にこんなに多く。


驚きで声を失っていると、

「私共はルキアーナ様に助けられました。どうかお怒りは私共に!」

団長様の言葉に皆が頭を下げた。


「……たくさん味方をつけたものだな。」

後ろから殿下のため息混じりの声が聞こえた。


見ると剣を鞘に納めていた。


ここは私も跪くところなのか?

ふと自分だけ突っ立っているのが、いい事か悪い事か分からなくなった。


ゆっくり膝を曲げていくと、

「今更殊勝な態度は不要だ。勝手に死ぬのはなんとも思わないが、コイツらを自分で手にかけるには確かに惜しい人材達だな。」

腕を組んだ殿下が周りを見下ろした。


言い方!


「今回は大目に見るが、次はない。態度は改めろ、王族は唯一無二で、これは変わらない事だ。お前たちも見限られたくなければ、こいつに手を借りる事なく、身を引き締めて働きで示せ。」


はあ? と、もう一言言ってやろうとしたら、

「はっ‼︎」

気合の入った返事にビクッとなった。


そしていつの間にか、エーデル侯爵も兄も私のズボンの裾を握って動きを封じていた。


2人は頭を下げたまま。

「「殿下のご温情感謝致します。」」

と、とても嬉しそうな声を出した。


意味がわからない。

全然殿下の説教にならなかった。


不服で頬を膨らませると、立ち上がった兄に苦笑いで頭を撫でられた。

「良かったな。ありがとうな。」


エーデル侯爵と団長様は殿下の元に行って何か報告している。


全然良くない!

あの毒クラゲ、分かってない。


キッと殿下を睨んでいると、兄が体をかがめて私と視線を合わせた。


「王族が戦争でも無いのに、このような場所に来る事は一度もないんだ。殿下はルキアーナや我々を心配して助けに来てくれたんだと思うよ。王族は部下全てを守る事は難しい事も知っている。何処を優先するかなんだ。殿下は周りの国民を守っていたんだよ。しかし初めて見たよ。ルキアーナも殿下も、2人の時はあんなに素で対話しているんだね。」

ニコニコ優しく笑う兄に、複雑な心境になる。


いや、違う、素なのは私でルキアーナちゃんじゃないの。


それに分かってる、周りを守った所以の結界だった事は。


でもやり方は他にもあったと思う。

人は死んだら終わり、終わりなんだ。


だから内部の人も守られるべきだ。


治癒魔法は貴重だから大切でここぞって時に必要になる。


命に優先順位なんてない。


そこを分かってほしかったのだ。


次々部下に指示を出していく殿下を尻目に、不服な顔で兄とテントを後にしたのだった。











読んでいただき、ありがとうございます。


危なかったね〜ルキアーナちゃん切られるとこだった。

お兄ちゃんナイス!


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