5 ルキアーナちゃんの家族
閲覧いただき、ありがとうございます。
攫われてから2週間が経って、色んな事を覚えてきた。
お嬢様というのは昼ごろ起きてくるものかと思っていたけど、なかなかどうしてこれが超早起き。日が昇り始めた頃にメイドさんが起こしにきてくれる。
おばあちゃんの起床時間だ。
なんでも早く起きないと、朝ごはんを食べる為だけの身だしなみが整のわないらしい。
そんなすごい身だしなみ要らんと思うのだか、必要な事らしい。私はお嬢様事情がよくわかってないので、大人しく従っている。
今朝もメイドが起こしに来てくれた。
「おはようございます。今朝もご気分いかがでしょうか?」
「大丈夫です。いつもありがとう。」
そう笑うだけで、ウルっと感極まってくれる。
この感激具合も毎日見ていたら慣れてきた。
この目がウルウルしているメイドがルーラだ。茶髪をしっかりお団子に纏めて、瞳は黒に見える濃紺色、見目が日本人に近いため安心できる人。そして、めっちゃ優秀。気が利くなんてもんじゃない。ほしい物はすぐ出てくる。私を綺麗にするのもピカイチ。この斜め切りのヘアもルーラにかかれば、おしゃれに結い上げられ、不揃いが全然わからない。凄腕すぎる。
ほら、もう出来上がり。ルーラの手はゴッドハンドだと思う。
そして手早くドレスを選んで着せてくれる。
初めは朝から凝ったドレスに引いたけど、ベッドの住人から復活して毎日着ていると意外に慣れてくるものなんだなと思った。
今朝は薄ピンクのレースが可愛いドレスだ。
以前の私が着ると思ったら無理ってなるのだけど、この子が着ると可愛い顔によく似合う。
支度が整ったら、朝食へと長ーい道のりを歩いていく。
もうこれがなかなか覚えれない、屋敷の広さが尋常じゃない。
まだルーラについて行かないと、無事に辿り着けるか自信がない。
けど、ここの家の人達はみんなすごく優しくフォローしてくれる。
すれ違うたびに、色んな人が端に寄って、頭を下げる。
本当は上の立場の人は頭を下げる事はなく、無視して歩いたらいいらしい。
けど無視するのが不慣れな日本人の私には無理、当たり前に会釈してしまう。
条件反射で自然にぺこりだ。
最初こそ、みんなギョッとしてたけど、記憶喪失設定万歳の新ルキアーナの行動を見慣れてきたらしく、温かく微笑んでくれるようになった。
そうしているうちに、一際大きく豪華な扉に着いた。
自然に扉が開く。
「おはようございます、お嬢様。」
好々爺な笑顔で、執事のセバスチャンが迎えてくれた。
白髪混じりのダークグレー髪をきっちり撫で付け、黒の執事服がよく似合うおじいちゃん顔。
「おはよう、セバスチャン。」
ニコッと笑うと、セバスチャンが感動で滲んだ涙を拭くのも見慣れた光景だ。
扉を抜けて、視線を向けると大きなテーブルの奥に父と母が席に着いているのが見えた。
私の姿が見えた途端、2人して優しい顔を向けてくれる。
ルキアーナちゃん、あなたは素敵な家族に囲まれて、幸せよ。1人じゃないよ。
胸に手を当てて歩く。
「おはようございます、遅くなりました。」
ぎこちないが、ドレスを掴んで挨拶をする。
「ああ、おはよう。」
ルビーの瞳を優しく細めて父が言う。
本当にイケメンだと思う。
改めて、父の名前はアーサー・ノア・ウィンテリア公爵と言うらしい。そして最年少で宰相になったすごい人。けど私を見て、あんなにオロオロしていた姿を思い出すと、宰相という威厳溢れる仕事なんてできるんだろうかと心配になる。ルキアーナちゃんのことは目に入れても痛くないくらい溺愛しているから、1日に何度も顔を見にくる。宰相って城に行って忙しいのでは?と思っていると、やっぱり忙しい様で父がコッソリ家に戻ると、秘書の人がその度に連れ戻していく。
それが面白い。その姿にいつも苦笑いだ。
そして父の隣に座っているのが母。
母はまた儚げな美女だった。この子にこの母ありという感じで、30代なのに25歳の私と変わらない年齢に見えるくらい若い。私は童顔チビだったから、比較するのも烏滸がましい感じだけどね。白金色の髪にアイスブルーの瞳のスレンダー美人。名前はオリビア・ノエル・ウィンテリア、名前まで素敵だ。
今朝もちょうど朝日が母の髪に降り注いで、湖の如くキラキラ輝いて、水の女神のようだ。
あまりに綺麗だから、初めて見た時神々しくて拝みそうになったのは仕方ないと思う。
「はあ、今日も綺麗、お母様は綺麗ですね。」
思わず心の声が溢れる。
それを聞いて母が口元に手を当てて、ふふっと微笑む。
は〜もう素敵過ぎます〜。
「そうだろう、そうだろう。」
父が誇らしげに頷いて、母と見つめ合って笑う。
美男美女で眩しすぎます。
そんな2人と毎日一緒に食事をしているなんて。
目の保養だわ〜。
ほんわりした空気が流れていると。
突然、大きな扉が勢いよく開いた!
談笑していた、私達は驚いて振り向く。
そこにはニカッと豪快な笑みを浮かべた兄が立っており、私の姿を見つけるとドスドスと大股で歩いて近くに来た。
「おはよう!よく眠れたか?」
とガシガシ頭を撫でる。
あ〜せっかくルーラが綺麗にセットしてくれたのに〜。
これ編むの難しいのよ?絶対自分でできないのに。
恨みがましく兄を見上げると、父がため息混じりに言う。
「ザイナス、遅いぞ? 席に着きなさい。」
「おお、これは失礼しました。妹が心配で。父上も母上もおはようございます!」
私の背中をバンバンと叩きながら、両親に頭を下げる。
い、痛いから、全体的に力有り余ってる。
こんな素敵で儚い母から、どうやったら豪快な兄が生まれてくるのだろう?
反対側に回り込んで座る兄を見ながら、首を傾げる。
その間も兄は父に城ではあーだったこーだったと話を続けている。
黙ってじっとしていれば、父に似ているのに。
そう、以前父をお兄さんかと勘違いしたが、ルキアーナちゃんには本当にお兄さんがいたのだ。
兄の名前はザイナス・ノア・ウィンテリア、今も騎士団の制服に身を包んでいるとおり、騎士をしている。
長男だから、父の後継のはずでは?と思うんだけど、脳筋のようで第2騎士団の副団長をしている。本格的に公爵を継ぐまで、騎士団に身を置くのだとか。豪快な性格のようだから、騎士が合っているんだろう。
短く切ってある白金色の髪にルビー瞳、恵まれた体格に野生的な雰囲気。なかなかのイケメンだ。
20歳で、ルキアーナちゃんとは8つも離れてるから可愛くて仕方ないらしい。
崖で私を1番に見つけて助けてくれたのは兄だった。兄はルキアーナちゃんへの誘拐・殺人未遂を許すまじと、犯人炙り出しに躍起になってる。
ルキアーナちゃんを殺そうとした人は髪を切られた瞬間、足を滑らせて崖から落ちてしまったという話にしてみた。めっちゃ私の血溜まりがあったはずだが、無視だ。で、目覚めて会った兄に殺し屋の遺体が崖下にある事を伝えたら、すぐに飛び出して行った。
とても妹思いのいい兄だ。
今のところルキアーナちゃんが生きたくないと思う事は、命を脅かす脅威がある事かなと考えている。
ここでは、すごくみんなから愛されてると思うから。
大変な事といえば、立ち振る舞いのレッスンと教養講座とダンスレッスン、刺繍等を毎日繰り返して、若干生活が窮屈という事くらいだ。
でもそれは私が苦なだけで、全て習得していたルキアーナちゃんが苦に感じていたとは思わない。生まれて今まで、これが当たり前で常識で育っていれば窮屈もなにもない。
いや楽しみは薄かったかも……?
それでも普通の穏やかな毎日だったんじゃないかと思う。
「……ーナ。アーナ!」
ふと、兄に呼ばれた声が聞こえてきた。
おお、瞑想しすぎてた。
「はい、お兄様、なんでしょう?」
「いや、さっきから食事の手が止まって、食が進んでないようだが? まだ体調がすぐれないか?」
と兄が片眉を上げる。
チラッと両親も不安気な表情だ。
誤魔化しながら、
「まあ、すみません。お兄様の話を聞いて、考えに耽っておりました。」
そう答えると、兄は少し申し訳なさそうにした。
「アーナの髪を切った奴の亡骸は回収したから、もう安全だ。だが、あれは随分と悪どい奴で捉えることもできず、野放しになっていたのがいけなかった。雇った人物も絞り込めてはいるのだが、状況証拠に過ぎず手が出せない。指示を出したのは、貴族なのだろうな辿り着けない様に幾つもの中継を挟んでいて姿が掴めん。迂闊に動けないんだ。アーナが怖い思いをしたというのに捕まえて憂を取ってやることが、すぐに出来そうにない。」
「いいえ、お兄様は私のために頑張ってくれていて、嬉しく思います。お仕事で無理をしないよう、気をつけてくださいね。」
そう言うと兄は微笑んでくれた。
貴族がルキアーナちゃんを狙った理由は何だろう?
ルキアーナちゃんは可愛いいし、高貴な立ち位置で、秀でてそうよね。
1番になりたいわがまま貴族くらいいそうよね。見知らぬ同い年くらいの女の子男の子を想像する。いや、子供が殺し屋は雇わないでしょう。
やっぱり身代金目的?
それともルキアーナちゃんがいなくなる事で、別のメリットが生まれるとか?
顎に手を当てて、考える。
また片眉を顰めた兄と目が合う。
まずい、また食事が中断してた。
先に食べ終わろう。考えるのは、その後だ。
閲覧いただき、ありがとうございました。
ルキアーナちゃんの家族は、皆見目麗しい。
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