58 治療開始で女神降臨
今回も閲覧ありがとうございます。
テントの中に足を踏み入れると、中は空気があたたかく篭ってるように感じた。
ウイルスなら充満してるわね。
モップ様が吸わないようにしっかり毛布をかける。
テント内はテントと思えないくらい普通の部屋だ。
絨毯も敷いてテーブルに果物、水瓶、コップがあり広い。
とりあえずサンタ袋と消毒薬を置く。
奥に進むと足が見えた。
誰か倒れてる。
寄るとピンク髪が見えた。
「ルンバール先生!」
同行医師は先生だったんだ。
顔がかなり赤く呼吸が早い、体も痛いのか横になって縮こまっている。
もしかしたら寒いのかもしれない。
とりあえず床に敷いてあるマットを引っ張ってかける。
「マットだけど、無いよりはいいだろう。」
「先生、ちょっと待っててね。」
聞こえてないだろうけど、一応声をかけて奥へ進む。
部屋が3部屋あり、いずれもチャックドアは閉まっている。
手前から開けると、ベッド覗き込む奥に赤い短髪が見える。
兄!
寄るとやはり兄が寝ていて、顔が真っ赤でフーフー息を吐いてた。
布団を握りしめて、眉間に深く皺が寄って唸っている。
しんどそう。
こんなにしんどそうなルキアーナちゃんのお兄ちゃん初めて見た。
でも生きていてホッとした。
様子が気になるが、他の人の様子も気になる。
「次。」
布ドアはそのまま開けて端に寄せておき、隣を開ける。
布団が盛っており、人が見えない。
寄って布団を引っ張ると、エーデル侯爵が横を向いて頭を押さえていた。
涼しい目元がキツく寄りお顔が悩ましげで、やはり顔が真っ赤で息も早い。
いつも首まで閉まっている襟元のボタンが外してあり、流れた艶髪は汗で首元に張り付いていた。
なんでこの方はこんな時まで麗しいのか……とてもセクシー。
いかんいかん。
こっちも熱が高そうだな、早くしないと脳炎が怖い。
また出て最後のチャックドアを開けると、何かが飛んできた。
「えっ!」
すぐ横を通りすぎて凍りついた。
横目に見ると布壁にナイフが突き刺さっていた。
ヒイィ。
顔を真っ青にしながら視線を戻すと、右腕を伸ばしたままの緑髪の男性が赤い顔で、はあはあ言いながら私を睨んでいた。
「だ、だれ、はあ、はあ、怪しい、はあ。」
「わ、私はザイナスお兄様の妹のルキアーナです。皆様の救助に参りました。」
一応頭を下げて、毛布を掴み膝を折って挨拶をする。
ドサっ。
前方から音がして顔を上げると、男性がベッドから落ちていた。
「大丈夫ですか?」
駆け寄ろうとすると、男性が腕を前に出し制止の意を示した。
止まると男性は片膝をつき、両手を床について体勢を保った。
「次期、はあ、王太子妃……様が、はあ、は、ご無礼、はあ、を。私は」
「いやいや謝っている場合では。ベッドに戻ってください。」
そう言って私が男性の腕を取ると、男性は慌てて手を離して、ふらついてベッドに尻を付く。
そして苦しそうな顔を上げ、
「は、ふれ、はあ、触れてはなりません、はあ、はあ。」
もうしんどいのに気を使って………。
私は男性の肩をドンと押してベッドに倒した。
よほどしんどいのか簡単に倒れた。
そのまま意識が朦朧としたようで、フーフー息を吐いてる。
これは相当きてるな、インフルエンザより強力なのかもしれない。
テントだからか窓がない。
部屋を出ると横にもチャックドアがあった。
私は戻って消毒薬で手を消毒し、奥のチャックも消毒薬をかけて開けた。
開けると想像してた通り外に繋がっており、すううっと冷たい空気が入る。
ちょっと寒いけど、換気。
早くカリミナさんに治癒してもらおう。
走ってルンバール医師の横を通り過ぎた時、
「きゃあああああああっ⁈」
カリミナさんの叫び声が聞こえた。
急いで外に出ると、尻餅を付いたカリミナさんがいた。
咄嗟に手を伸ばしたが、踏みとどまった。
接触感染になる!
急いで毛布を脱ぎ、消毒を手にかけカリミナさんに寄る。
怯えるカリミナさんの視線を辿ると、前方に大きな狼達が見えた。
「狼⁈ 魔獣⁈ 大きい!」
狼達は想像以上に大きく赤い目に体は煤汚れた感じの色で、かわいい生き物ではなかった。
ベロが口から出て、明らかにイッてしまった顔をしている。
「やばい、やばい、カリミナさん!カリミナさん!」
私はカリミナさんの肩を掴んでゆっさゆっさ揺すった。
「あわわわ、あ、や。」
カリミナさんも恐怖で顔が真っ青だ。
なんで魔獣がこんな近くに………結界とかしなかっ。
「はあ〜!私か⁈ 私が通ったから、結界消した?」
キョロキョロしても結界なんぞ見てもわからない。
顔を動かした拍子にテントに掛けられた剣が見えた。
私は咄嗟に取って鞘のまま持った。
重すぎる……持ってるのが精一杯………。
プルプル震えなら、剣を持ち上げていると。
「あら、いいもの持ってるじゃない?私も使いたいわ〜。」
明らかに先程と違うカリミナさんの優雅な声がした。
え?
振り向くとうっとり剣を見つめるカリミナさんがいた。
「ヒイイっ‼︎」
サイコパスな部分の出たカリミナさんと魔獣でこっちがパニックになる。
バッ剣を奪われ、
「さあ、切れ味はどうかしらね〜。ブスッと、ブスッといってみましょ。」
迷いなくカリミナさんが鞘を投げ捨てる。
「いやいや、無理ですって!魔獣は肉ブロックではないですから〜!騎士じゃないでしょう⁈」
後ろから叫ぶが全く聞こえてないようだ。
思わず私が叫んだせいで、気付いた魔獣が駆け出してきた。
「は〜来た!」
走ってカリミナさんの腕を掴む。
「カリミナさんは、テント内のルンバール医師じゃない戦えそうな誰かを治癒してきて下さい!」
「無理よ〜切れ味を確認しないと〜。うふふ。お口に刺してみます?」
「いやいや笑ってる場合じゃないです!私らじゃ、やられますって!」
魔獣達はテントを無視して、こっちに突進してくる。
5、6匹が近くのテントを薙ぎ倒し、3匹がまっすぐ助走をつけてこっちに飛びかかって来た。
めちゃくちゃ大きい!
頭一口で終わる!
「やばい~!」
咄嗟にカリミナさんをの腕をぎゅっと抱きしめて目を固く閉じる。
「ウガゥガワォ! グウォオオオ…………。」
一緒吠えた声がしたが、衝撃もなく静かになる。
意味がわからずそっと目を開けると、カリミナさんは手に剣を持っておらず立ち尽くし、魔獣3匹も消えていた。
「え、え?何?」
向こうではまだ魔獣が暴れている。
さっぱりよくわからず目をぱちくりさせると、カリミナさんは顔をギギギと油の切れたロボのように向けてきた。
そしてどう見ても視線は私の頭。
…………あ、モップ様。
手を上げて触れると、柔らかく温かいモップ様がいた。
カリミナさんは目を大きく開けると、
「それ帽子じゃないのですか⁈ 」
大声で叫んだ。
「え、え、帽子?」
意味がわからず聞き返すと、カリミナさんはバッと地面にひれ伏した。
「えー、ちょっと、どうしたんですか?」
腕を取るが、頭を上げてくれない。
「いやー、怖い〜無理です。無理です。ごめんなさい!ありがとうございます。許して下さい〜。」
全然意味が分からない。
「いや、起きて下さい。雪、服、汚れるし濡れますって!」
腕を引っ張ってもひれ伏したまま土下座を繰り返す。
「ありがとうございました!ありがとうございました!」
もう意味が分からないんだけど、顔を上げると、前方からこっちに気づいた魔獣がまた向かって来ようとしていた。
もう勘弁して!
「カリミナさん!だから早く中の人を治癒して来て‼︎」
私はキレて怒鳴ると、カリミナさんはシャキッと立って、
「はい!はい!分かりました!い、今すぐ!」
足を滑らせながらテントに入って行った。
魔獣の足音がすぐ近くでする。
近い!
今度こそダメだ、剣もない。
モップ様!
振り返りざまに咄嗟に掴むと、
「ウゴワゥ、グォ!ウオオオ…オオ…オ…………。」
目の前に牙を剥いて迫って来た魔獣達が、私の頭からブワッと広がった黒い煙に包まれてドロッドロに溶けていき、私の頭の上に吸収されて消えていった。
ヒッ……はあ?
びっくりし過ぎて意味がわからない。
モップ様を掴んだまま固まる。
向こうの2匹の魔獣はキャンキャン言って去って行ってる。
全然脳内処理できず、どのくらい固まっていたのか。
「ルキアーナ様?」
エーデル侯爵の声が後ろから聞こえた。
モップ様を掴んだまま、ゆっくり振り返ると少し痩せてヨレているエーデル侯爵が立っていた。
「さすが神獣様ですね。」
そう言うと片膝をついて、頭を下げた。
どういう事かわからないが、魔獣はモップ様がやっつけてくれたんだろう。
めちゃくちゃグロかったが……。
「モップ様、あ、ありがとうございます?」
掴んだ手を緩めると、モップ様が頭の上で足をもふもふ踏み締めた。
いいよと言われた気がして、嬉しくて頭からおろして抱きしめた。
「かわいい、ありがとうございます。モップ様。」
顔を擦り合わせると、モップ様は首を傾げてこっを見上げた。
可愛さに悶絶する。とても魔獣をやっつけたとは思えない。
「ルキアーナ!」
突然体当たりで抱きしめられた。
「うぎゃっ!」
「なんでお前がここにいるんだ、危ないだろう。」
やつれた兄が困った顔をして見下ろしている。
「お兄様復活したのですね!良かった!」
私が笑うと兄は困った顔のまま頭をワシワシ撫でた。
「助けてくれたのだな、ありがとう。しかしそのタオルはなんだ? なんで顔を隠している?」
そうだったタオルで巻いてた。
「感染防止ですよ!」
私が張り切ってそう言うと、意味が分からんと兄は首を傾げた。
カチャっ
横で金属音がして向くと、緑髪の先ほどの男性が膝をついて頭を下げていた。
「団長!」
兄は私を離すとその男性の横に膝をついた。
「先程はご無礼を、私は第二騎士団団長を務めております、ダリウス・マグッスでございます。」
「ザイナスお兄様の妹、ルキアーナ・ノア・ウィンテリアでございます。」
モップ様を抱っこしたままなので、膝を落とし再度挨拶をする。
「ルキアーナ様ありがとうございます。助かりました〜。」
今度はテントからルンバール医師が出て来た。
そして続くように、やつれて顔色を悪くした美女が出てきた。
突然の美女登場に驚いて、目が大きくなる。
よく見ると、クルクルアフロが嘘のように緩やかにカーブしロングヘアになったカリミナさんだった。
その美しさは女神のよう。
ヨロヨロして倒れそうではあるが、まごう事なき美女に変身していた。
「か、カリミナさん?」
「ぶ、無事治しましたわ。」
頷いたカリミナさんに衝撃を受けた。
本当にカリミナさんだった!
魔力を消費すると髪が伸びるのは本当なんだ。
それだけ魔力を消費して頑張ってくれたんだと思うと、嬉しさが込み上げてきた。
「ありがとうございます!」
良かった。みんなが復活して!
ホッとしていると、エーデル侯爵が上空を見渡して、
「ルキアーナ様、通常通りのお越しではないようですね。無理矢理私の結界を通って参りましたね。」
私と顔を合わせて、ニッコリ笑った。
ぎくっ!
肩をすくめると、エーデル侯爵は顎に手を当てて空をさらに見上げる。
「まあ助かりましたので、それはまた後日伺うとして、魔獣の件もありますし早急に結界を張り直します。が、さらにここら一帯に第二王子殿下の結界が広く張られてますね。差し当たり閉じ込められたという事でしょうか?」
そこまでわかるのか?
驚いて目を見開くと、みんなが苦笑した。
「ここにいる者は皆殿下の結界が見えるのですよ。殿下の結界は目立つように出来てますから。それに閉じ込められるのは1度や2度ではないですからね。」
「そうそう酷いですよね。まあ、危険回避は必要なので仕方ないですけどね。」
「初めてですよ〜、私は!こんな事、魔獣も……。怖かったです〜。」
カリミナさんは泣きそうになっている。
私は剣を持ったアフロのカリミナさんも怖かったけどね。
とりあえず、みんなが元気になってよかったと、お互い一息ついたのだった。
閲覧ありがとうございます。
カリミナさんカール緩んで美女バージョンになりましたね。
モップ様可愛くて強い、反則です。
面白いといいな。
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