56 もっさり王子を脅します
閲覧ありがとうございます。
兄が遠征に出掛けて10日経ったが帰ってきていない。
父も城に缶詰状態になっている。
大丈夫かなと心配になりながら、私はいつも通り今日も王宮教養を受けている。
エーデル侯爵も一緒に行っているようで魔法学はお休み、当然魔法学が無いから王子達にも会っていない。
あ〜平和だ。
「ふうっ。」
白い息を吐いて寒いなと、ポンチョの前を合わせて体を包む。
すると廊下の途中のドアが開いて、中からキラキラ衣装が見えた。
絶対毒クラゲ!
隠れる所なんて無いのに、思わず壁にへばりつく。
そしてそのままじっとしていると、ネクス殿下もドアを開けたままにしているから丁度死角になり私に気づかない様子。
そのまま立ち去ろうと、ゆっくり背を向けた時、
「ラトその場所に呪いの結界を張れ、誰も出れないように。」
「…でも、騎士………いいの?」
「構わない。これ以上広げないためだ。宰相に気づかれないうちに手を打つ!」
「わかった。」
聞こえた会話に足が止まった。
何の話?
騎士って?
振り返るとネクス殿下がマントを靡かせ歩いて行っていた。
そしてその背中をもっさり王子が見つめている。
足音なく近寄る。
兄が見えなくなってもっさり王子が扉を閉めようとしたので、ガッと手をかけて止めた。
ビクビクっともっさり王子が飛び退く。
そして壁に引っ付いたもっさり王子に近寄って、王子の横にバンと手をつく。
「ヒイィ」
情けない声がするが無視。
「結界とは何の事ですか?」
目を座らせて低い声で問い詰める。
「あ……あ………ど………。」
「あ、あ、ど、ではわかりません!」
また横の壁をバンと叩く。
「ヒッ!」
一層もっさり王子が縮こまる。
側から見れば、華奢な少女が真っ黒の大きな男を脅している変な図だろうが、それどころではない。
「騎士とは兄達の事では無いですよね?」
「…………。」
「キロネックス殿下が言うには、無言は肯定の意味らしいですよ?」
「そんな!」
お兄ちゃんの話題を出すと反応が返ってきた。
「なぜキロネックス殿下は兄達を結界で閉じ込めるよう指示をしたのですか?」
更に聞いてみるが、もっさり王子は胸の前で手を祈りのポーズで組んで、もっさり髪を横にわっさわっさ振るだけ。
答えないつもりね。
「殿下、答えていただけないのならこのまま抱きつきますよ?」
ニッコリ笑うと、
「む、無理……無理!」
より一層壁に引っ付いた。
「ではどうぞ。」
耳元で息を吹きかけ囁くと、もっさり王子は下から震え上がった。
「ヒッ………と、と、……とう…ば…つに……行った……騎士…が、原因……ふ…めい……の…高熱…に次…つ…ぎ……たおれ……てる。増…え…んして……も…たお…れ…る。………ま…もの…も、まだ……とう…ばつ……おわって……ない。兄上は……危険拡大…危惧して、………閉じ込める事にした。」
ルキアーナちゃんのお兄ちゃん、大丈夫か⁈
「兄、兄は大丈夫なの?エーデル侯爵も行ってるでしょう?」
体が震えそうになるが、より壁に力を込める。
「し……だん……ちょうも、…倒れ…てる。……ほかは……しら…ない。」
エーデル侯爵も謎熱で倒れてる!
「医師は?治癒師の派遣は?」
「どう…こ…う……してる……けど、数……いない…わか……ら…ない!」
こっちの世界にスマホがない!
今頃不便に感じた、連絡の取りようがない。
腹が立って両手でバンと壁を叩く。
「ヒッ!」
恐怖でもっさり王子がズルズル座り込んだ。
私も屈んで、
「結界、張らないわよね? 中の人を閉じ込めたりしないよね?」
聞くがもっさり王子は無言で固まる。
なら、と思いささやく。
「私を転移させて。」
その言葉に王子が顔を上げた。
「で…きない…よ。」
「できる!」
「あ…ぶな……し、結界を……はる。」
「私を転移させたら、結界を張ったらいい‼︎」
怒鳴ると、王子は更に小さくなった。
「兄上……が怒る……こと……し…ない。」
「私に脅されたと言ったらいいわ!だから転移させて!」
「い……いて、……どう…す……る…」
「助ける! 何かできる事があるはず!」
ルキアーナちゃんのお兄ちゃんを助けなくちゃ!
「…………。」
「転移させないと無理矢理自力で行って、あなたの結界勝手に解くわよ?」
悪い顔して耳打ちする。
「え……こ…まる。」
「でしょう?だから先に入れて。」
ニッコリ笑うともっさり王子は考えてるようだった。
「ちょっと取って来るものがあるから、ここで待っていて。待ってないと自力で行って結界解くから!恨んでやるんだから!」
私はもっさり王子の答えを待つ前に捨て台詞を吐いて、靴を脱いで走った。
床が冷たいがヒールで走るより速い。
全速力で階段を降りて医務室に行く。
慌ただしくノックをするが返事がない。
誰もいない……。
「ごめんなさい。ちょっと拝借します。帰って謝りますから。」
そう言うとその辺にあった袋に、毛布とありったけのタオルと消毒薬、何かわからない薬類、それに誰のかわからない制服を入れてサンタのように担いでもっさり王子の元に戻った。
いないかもしれないと思った王子は、黒マリモ状態で存在していた。
「…………。」
逃げもせず……ある意味心配になる。
はあはあ、肩で息をし靴を履きながら王子を見つめる。
私をゆっくり見上げた王子は、びっくりした様子で固まった。
まあ全力で走ったから髪は乱れてるし、汗で前髪張り付いているし、サンタみたいに袋担いでいるし、令嬢捨てたようだろうと想像できる。
「はあ、はあ、まっ、待っていてくれて、ありがとうございます。さあ、お願いします。」
私が頭を下げると、もっさり頭が上がった。
「ほ……ほん…とに…?」
「はい。」
頷くと、小刻みにもっさり髪が揺れる。
「き…けん……なの……に、どう……し…て。」
「危険なら助けなくちゃ!熱なら治ります!」
グッと顔の横で拳を握ってニッコリ笑うと、
「いや……きみ…が………………、も、しら……ない……よ。」
もっさり王子が何か言ったがよくわからなかった。
「しっかりキロネックス殿下には、私が脅して転移してもらったって言いますからね!大丈夫です!」
安心させようと親指を立ててグッとポーズをとると、王子が盛大にため息をついて立ち上がった。
「部屋…はい………って。」
ドアを開けてくれる。
2人して部屋に入るとしっかりドアを閉めた。
「き…みを……おくったら、……け…っかい……はる……か……ら…ね。」
「わかったわ。」
私が大きく頷くと、
「かえ……れ…ない……か…も……。」
「いい、わかってる。自己責任だから!」
心配してくれるもっさり王子を可愛く思い、胸をドンと叩いて見せた。
すると王子は諦めたように肩を落として、
「師団長の魔力の元へ。」
短くはっきり言うと、自分の目の高さから指先で縦に空間を裂いた。
ゆらりと空気が揺れた。いつもの王子が現れる感じ。
空間がじわじわ広がってきた瞬間。
べちょっ⁈
「はわ〜っ⁈」
顔面に何かが張り付いた衝撃で、手から袋が離れてドサっと落ちた。
この感じ前にも。
「モップ!」
王子の声にやっぱりモップ様かと思った。
「お久しぶりです。」
そう言いながらモップ様の胴を掴んで、顔から離す。
つぶらな黒目と目が合い癒される。
「かわいい〜。可愛すぎます!」
モップ様のおでこと私のおでこを合わせて、ぐりぐり。
「あ……ぼ……くの。」
もっさり王子が私に手を伸ばして彷徨わせている。
く〜仕方ない王子に返さないといけないか。
渋々王子の方にモップ様を伸ばすと、ぴょーんとモップ様が飛んで私の頭に着地した。
「「……………。」」
お互い微妙な空気。
定位置のように乗ったモップ様に。
「わかった。………モップ……連れ……てって。」
もっさり王子は私から顔を逸らした。
「えっ‼︎ モップ様が危険です。危ないですよ、兄は魔獣討伐に行ってるんですよ? 魔獣がいるんですよ? 食べられちゃいます!」
私が叫ぶと、もっさり王子はこっちを向いて止まった。
「…………。」
危ないよ?と眉毛を顰めていると、もっさり王子の片手がゆーっくり上がってきてパチンとおでこを弾かれた。
「あだっ!」
驚きでおでこを押さえる。
「…き……みよ…り……つよ……い。神獣……。」
「⁈」
そうだった! 神獣様だった。かわいいからうさぎと勘違い。
「そうでした!モップ様ありがとうございます。ついてきてくれたら百人力です。」
頭上のモップ様を両手でもふもふする。
モップ様がどう強いかわからないけど、きっと強いはず。
もっさり王子もそう言ってるし。
「早く……通っ…て、……閉じ……て…しま…う。」
ため息を吐いた王子が裂いた空間を指差した。
確かにさっきより裂け具合が小さくなってきてる。
私はサンタ袋を再び担ぐと、カツカツヒールを鳴らして、もっさり王子に振り返ってカーテシーをした。
「行ってきます。殿下、ありがとうございます。」
そして王子の返事も聞かず、振り返って真っ暗な空間に足を踏み入れたのだった。
♢♢
閉じた空間を見つめ、ラトルスネイクはだんだん腹が立っていた。
「なんなのあの子………、自分が一番弱そうなのに、なんの自信なの?助けるとか無理……。無理?状況もわからないのに! まあでも、モップついて行ったから大丈夫だろうけど。………モップもモップだよ。僕の神獣なのに!もう結界張るからね!兄上のお願いだし。」
そう言うがすぐに手を動かせず、目を閉じる。
そしてグッと拳を握ると、ベランダに歩いていき、ある方向に向きを変えて両手を斜め上にかざした。
「ウノフー・ツーコ・ツゼキラタレフ!」
そう言った瞬間、手のひらが真っ黒に輝き、とある方向に黒い光が伸びていった。
かなりの時間光を飛ばし光が消えて腕を下ろすと、なんだか笑えてきた。
「くくく…ほんと、なんなのあの子……。何持って行ったの? あの格好なに?くくくく……おかしすぎる。」
ひとしきり笑うと顔を引き締めて、ベランダを出ると部屋を後にした。
この時必死な私は、まさかもっさり王子に笑われてると思ってなかったのだった。
閲覧してもらえて嬉しいです。
ルキアーナちゃん、お兄ちゃんの元へファイト!
面白ければ、ブックマークや評価をお願いします。




