54 兄弟の会合(盗聴⁈)
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人の気配が消え、城内が静まり返る中、黒い影が動いた。
空間を裂き、音もなく移動する。
無音な空間を潜ると、オレンジ色のランプの光が満たす部屋に入った。
毛足の長い絨毯を進み、シックな室内のソファに座る人物に向かって、後ろから声をかける。
「兄上、ルキアーナ嬢がまた新しい事を始めたようですよ。」
キロネックスは弟の急な訪問にも驚かず、また振り向きもせず、
「どうした、何か言っていたか?」
手元の資料を見続ける。
「モフを使って音声を探ってたら、聞こえました。」
「……………。」
モフから音が拾えることは聞いてなかったから驚いた。
動揺を隠して資料を見続けるフリをする。
「ダシンゴムで音が拾えるのか?」
「………はい、魔力信号を鉱石に伝達して行動する虫ですので、危険があればその信号を発光させるのですが、鉱石には常に信号を流しているので、それを周波数に変換さえすれば音声として聴くことができます。」
周波数の変換とはなんだ?
当たり前に音声を拾ってくる弟に頭が痛くなる。
盗聴だぞ⁈
魔法も使わず音声を拾うとは。
驚いて振り返ると、弟は手をモジモジして立っていた。
弟は社交不安障害がある、感覚がズレている事は認識していたが、まさか盗聴をし始めるとは思わなかった。
宰相の娘でザイナスの妹だぞ?
見つかったら殺されるだろうと目が遠くなる。
「何故ルキアーナ嬢の音声を拾ったのだ?」
弟を刺激しないように、いつも通りの声色を心がける。
すると弟はよりモジモジくねくねし始めた。
「そ、それは、あの子が……兄上にふさわしいか…調べてて。調査する為に……。」
俺の為だったか。
コイツは、本当に頭がいいのか悪いのか分からなくなる。
ふうっと息を吐く。
「ラト、盗聴はダメだ。普段からしてはいけない、犯罪にあたる。」
こんなだから教えてやらねばと、コイツを見るとついつい口を挟んでしまう。
しかし俺が叱責すると弟は明らかに動揺した。
「あ、あ、ごめ、…ごめん……な…さい。」
小さく縮こまる弟を見て、哀れな気分になる。
俺を慕い、俺がいなければ1人で立てない弟を可愛くも思うのだ。
ソファの背もたれに肘をかけ、弟の方に上半身を向ける。
「いや、大丈夫だ。次からしなければ良い。」
優しく話しかけると、弟はゆっくり落ち着きを取り戻した。
「それでルキアーナ嬢は何を始めたのだ?」
俺が聞くと、ふらりと立ち上がった。
そして手をしばらくモジモジさせていたが、ポツポツ話出した。
「……魔力消費の少ない治癒魔法。まだ肉ブロックでの検証ですけど、ルンバール医師とカーダス医局長、カリミナ治癒師と実験を繰り返して、成功させたようです。……あの子の頭の中は不思議。物の見方が違って面白い。病態の必要箇所に魔法をかけて魔力消費削減なんて、今まで治癒魔法は全身にかけるのが当たり前だったのに、呪いの時もそうだけど、よく思いつく。かなり消費が抑えれてる様子でしたから、低位治癒師も使い道が出てきそうですよ。」
真っ黒の髪に覆われて出ている顎に手を当てて首を傾げ、表情は見えないが笑っているように感じた。
弟の今までになく弾んだ声に、目が点になる。
コイツが楽しそうにするのは、研究対象の観察くらいだ。
………ルキアーナ嬢の盗聴は生き物観察と同じという事か。
まあ、今のルキアーナ嬢は意味不明で難解で、気になるな。
ルキアーナ嬢を思い出して笑いをこぼしそうになる。
誤魔化す為に息を吐いて、
「そうか、その魔力消費を抑える方法は病態の原因箇所が分からないと使えないのではないか? 治癒師にそこまでの知識があったか?」
「ありませんね。彼らは考える脳みそを持っていません。」
弟は対人接触に問題はあるが、相手の観察は人一倍している。
だから発される言葉はなかなか辛辣だ。
「だからルキアーナ嬢が医師や薬師と連携させる考えを出しました。原因箇所は医師に発見させて、何処を治すか治癒師に医師が指示を出す。治癒師に頼る必要がなければ薬師に処方箋を出し投薬や服薬で治療させる。かなり合理的。あの子すごい、治療過程が一本化され無駄な費用が削げる。神殿は損をしてくるかな……ふふ。」
弟が楽しそうだ。
珍しい。
ルキアーナ嬢はよく思いつくが、
「神殿と診療所は昔から折り合いが悪い。そう上手くいくか?」
俺が首を傾げると、弟が笑う。
「そうですね、次にその折り合いをルキアーナ嬢がどう解決するのか、興味ありますね。楽しみだな〜、何をしてくるんだろう。声を拾わず、どう探ろうかな〜。」
楽しそうでもあり、冷たく笑う弟にゾクッとする。
他人に全く興味のない弟がルキアーナ嬢に興味を持っている事に、言いようのない気持ちが湧く。
幼い頃、王宮がつまらない物に見え、気まぐれで弟という生き物を見に行った。
初めて見た弟は汚く、とても自分と同じ王子とは思えない、ただの野良の獣だった。
初めは王位を脅かす一因になるのなら、排除してしまおうかと思っていた。
居なくなっても誰も困らない。
けど自分が理不尽な環境にいると思っていたのが、自分以上に理不尽な目に遭っている者に遭遇して、気分が良かった。
優しく近づくと警戒していたのが、徐々に懐き、まるで手負の獣をペットにした気分だった。
嫌な事があると八つ当たりもし、そうした後は倍以上に優しくもする。
俺にとっても、いい気持ちの吐け口になっていた。
そして弟は獣のくせにとても地頭が良かった。
教えた事はすぐ吸収し、褒めるとそれ以上を返してきた。
飽きたら捨てようと思っていた弟は、意外に使える駒になる気がして、王位を脅かすのではなく味方につけ後押しできる駒にする事にした。
そしてその頭脳を弟は俺の為だけに使う。
けど、弟が俺の次にルキアーナ嬢に興味を持った。
今のルキアーナ嬢と弟が組んだら、自分なんかの想像できない何かを仕出かす気がして、背中がヒヤリとした。
おろしてる手先が震える。
恐れているのか?
いや無いな。弟は俺を裏切らない。
弟は役に立つ、その為に身近に置いている。
グッと拳を握る。
弟が自立する必要はない、俺に依存し今のままの方が御し易い。
そんな事を思いながら、資料を振る。
「そうだな。そうだ、ラト、北の地で魔獣の出現があり討伐要請が来ている。また働いてもらう事があれば頼むぞ。」
私の言葉に嬉しそうに体を揺らす。
「も、もちろんです! いつでもお声をおかけ下さい。兄上の為ならなんでもやってみせます!」
意気込む弟に笑いが出そうになる。
「頼もしいな。では下がっていいぞ。」
「はい、おやすみなさい、兄上。」
そう言うと弟は空間を割いて消えていった。
消えた所を眺め。
「相変わらず気味の悪い能力だな。」
独り言をこぼしてまたソファに座り直し、ラトの報告を思い返した。
ルキアーナ嬢が医局と治癒師を巻き込んで魔力消費の少ない治癒魔法を成功させた。
次は人体で実証。そして医師と薬師と治癒師を連携させた医療の構築。
全くあいつの頭の中はどうなっているんだ?
次から次へと色々思いつく。
「………12歳、いやもう年齢はいい。誰なんだ。いや、これもどうでも良い。ルキアーナ嬢に変わりはない。………くくく………面白いやつだ。」
腹の底から面白いと感じて笑みがこぼれる。
「確かにお手なみ拝見だな。大方自分が王家から逃れる為の策なのだろうが。ま、聖女不要になろうとも逃さないがな。」
手に持っていた資料を机に置くと、口をつけてなかったグラスワインを一気に飲み干したのだった。
閲覧してもらえて嬉しいです。
キロネックスとラトルスネイクの兄弟間の会話でした。
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