50 ダンゴムシの利用法
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さてここで私は治癒属性とわかった事を誰かに話すべきか、黙っているべきか。
後者だろうな、だって私は無属性のルキアーナちゃん。
治癒魔法が使えるわけがない。
はい、バレるまで黙っていましょ!
そうと決まるとコソッと練習だけはしておこう。
そしてどこまでできるかも知っておこう。
といっても私が出せる魔力が知れてる。
だって重くて動きにくいから集まりにくい。
最近思っている事がある。
私の重い魔力について。
私が動かせているのは確かに私の魔力なんだろうけど、あの温かく点在して感じる魔力からするとルキアーナちゃんの魔力に比べて断然少ないと思う。
で、ルキアーナちゃんの魔力は多すぎて全身に詰まっている。
だから私の魔力を動かそうとすると、ルキアーナちゃんの詰まった魔力の中を掻き分けて私の魔力が移動するようになるから力が要るのではないかと。
まあ、憶測に過ぎないけどね。そんな気がして。
肩をすくめると、胸が温かくなった。
ルキアーナちゃんが肯定してくれた気がした。
「やっぱりそうだよね!」
手で胸を押さえる。
「何がそうなのですか? そうそう、ルキアーナ様お体は大丈夫ですか?」
エーデル侯爵なぜ知っている。
「第一王子殿下が初めて女性を抱き上げ運んだと話題になってますよ?」
「…………。」
毒クラゲめ、やっぱり余計な事を、あいつの思う壺ではないか。
いわゆる対外的なアピールというやつだ。
舌打ちしそうになるのを我慢すると、エーデル侯爵が苦笑いした。
「そのお顔は、嬉しそうではないですね……。」
顔を歪ませるのは許して。
「全く私に抱き上げられて嫌な顔をするのは、ルキアーナ嬢くらいだぞ。」
呆れた顔で毒クラゲもといネクス殿下が入ってきた。
そして珍しくもっさり王子も続いて入ってきた。
「おや、珍しいですね。両殿下がお揃いで来られるのは、御政務でしょうか?」
エーデル侯爵も少し驚いている。やっぱり珍しい事らしい。
「まあ、そんなところだ。」
ネクス殿下はエーデル侯爵に片手を挙げ応えると、また私の隣に座った。
もはや定位置になってきている。
そしてもっさり王子もお兄ちゃんの隣に着席する。
モップ様と喧嘩して仲直りしたのかわからないが、モップ様はたまにしか来なくなった。
対外的アピールできてさぞかし満足だろう。
こっちはまたサーフランさんの怒りを買ったのではと杞憂が増えたというのに。
目を座らせて見ると、ネクス殿下が片眉を上げた。
「なんだ?」
「いいえ、殿下のいうアピールにまんまとのせられたなと、こっちはまた迷惑が増えそうでウンザリなんですが。」
嫌味満載に毒針ガンガン打ち込むと、殿下は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「………分かっている。今日の転けたのも本当は自分で転げた訳では無いのだろう? だから手を打つ。」
はあ? 今更?
しおらしい態度に調子が狂う。
「あ……兄う…えが…ちゃんと…考え…て……るよう。」
もっさり王子がいつもの背後霊で援護してくるが、全く勢いがない。
いや、いつも勢いはないが、兄好き全力応援的なエネルギーが少ない。
2人の様子に怪訝な顔になるが怒りは止まらない。
考えるのが遅いんだよ。ルキアーナちゃんは誘拐もされたし、殺されそうにもなった、そいでもってこんな些細ないじめも多く受けてきたんだよ!
「今更……。」
私がつぶやくと、殿下方は黙った。
そしてエーデル侯爵は気をきかせてか部屋の端へ移動していく。
「危険を放置していて悪かったと思っている。これは私達が放置していてよい事ではなかった。すまなかった。」
静かにネクス殿下が謝った。
そしてもっさり王子ももっさり頭を下げている。
謝ってくれると思ってなかったので驚いた。
あの傲慢俺様王子が謝るなんて………そうよルキアーナちゃんの安全大事よ!
「私はいじめも誘拐も殺人未遂もありました。怖い思いはしました。」
「そうだな。それに関しては本当、王家も手を貸すべきだった。」
私の言葉に殿下は頷く。
そして、言葉を続ける。
「だから監視をつける。」
「え、護衛ではなく監視ですか?」
てっきり護衛が増えると思っていた。
けど守られるのは王家に囲われるようで嫌だとも思っていたから、監視と言われて意外だった。
「護衛も付けるが、護衛だけではその場を守れても、諸悪の根源がわからないとラトに言われてな。」
ネクス殿下の言葉に背後霊もっさり王子がモジモジ動き出した。
意見が採用されて、嬉しいんだろうな?
………‥動きが乙女。
瞬いて視線を殿下に戻し、考える。
その意見は一理あるな。誰が何処で繋がって糸を引いてるのか。
結局ルキアーナちゃん誘拐の黒幕は捕まっていない。
黒幕がわからなければ危機は何度でも訪れる。
まあ、サーフランさんやベラドンナさんは小者、ある意味正々堂々と悪意をぶつけるタイプだから受けて流せば終わる。
でも姿を表さない悪は厄介、ここはルキアーナちゃんが安心して生活できるように絶対捕まえておきたい。
そしてそのあと王子達から逃げよう。
1つ頷く。
「それで監視の方は?」
私が神妙に聞くと、ネクス殿下はもっさり王子と頷き合い、もっさり王子が私の目の前に立った。
「え、」
黒くひょろ長い姿がちょっと怖い。
するともっさり王子が指で空間を10センチほど引っ掻いた。
空間がチャックの様にパカっと開いて、中が黒い。
何、空間が開いたよ⁈
びっくりして目が丸くなる。
こういうのは見た事ないから、なんでもびっくりしてしまう。
そして中にもっさり王子が手を突っ込んで、手をグーにして出してきた。
ジワジワっと空間が閉じていき、元に戻った。
もっさり王子は手を握ったままだ。
そして無言で手を差し出して、手のひらをゆっくり開いていった。
覗きこむと、手のひらには黒く毛むくじゃらの団子。
…………なんだこれは?
意味がわからず見上げるが、見えるのはもっさり髪。何も伝わらない。
今度は横を見てネクス殿下を見ると、明らかに嫌そうな顔をしていた。
おいおい、その顔はなんなの?
眉を顰めると、殿下はハッとしたように咳払いをして、
「これが監視役だ。」
指さした。
意味わからん。見た目真っ黒の丸いあれよ……まっくろくろ………。
「……………ふ。」
上からもっさり王子が何か呟いた。
王子と毛玉と行ったり来たり見つめる。
すると手の毛玉がフルっと震えて縦に伸びて楕円になった。
「動いた!」
私の声にまたフルフル動く。
そして向きを変えるように動くと、小さな小さな目があった。
「チビモップ様?」
そう見た目、黒い毛で覆われたダンゴムシで片手に収まるサイズ。
耳はないがモップ様が小さくなったようだった。
「おまえ名前が不敬だぞ!」
ネクス殿下がため息をつく。
「………も……ふ。」
もっさり王子までため息か?
「すみません。モップ様に似てかわいかったので。」
謝るともっさり髪がわっさわっさ左右に揺れた。
「かわいいか? おまえはこれがかわいいと思うのか?」
心底信じられないといった声が横からする。
「………モフ。」
もふ……。
「もふ?」
もっさり王子が言った言葉を繰り返す。
コクンと王子が頷く。
もふ……もふ、モフ!
「名前!」
カクカクもっさり髪が前後に動いた。
「モフ〜。」
名前も可愛くて、笑ってしまう。
さするとコソコソ動く。
「かわいい。」
ウフウフ笑っていると、ネクス殿下が。
「これはラトが飼っている生き物だ。監視に適している。」
「この子が、監視に……。」
見つめるが、適してるかわからない。
「こいつは危険を察知したら敵に特殊なマーキングをする。そして仲間に知らせる為にある鉱物を光らせる特徴を持つ。その鉱物を私、ラト、宰相、ザイナス、師団長辺りが持つようにしようと思っている。」
…………警備システムにしては最強の布陣すぎる。
総理を警備するスーパーSPのようだ。
1令嬢の為に動いていいメンバーじゃない、宰相に第一、第二王子、第二騎士団副団長、魔術師師団長………国家レベル案件で動けよ。
私だけの為に動くのはおかしいだろうよ、守る者より周りの布陣が偉大すぎる。
これじゃ、反対に黒幕が可哀想だよ。
「お気持ちは嬉しいのですが、皆さんが動く必要は無いと思います。私はただの令嬢ですし、どなたか騎士を付けていただけたら。」
丁重にお断りしてみる。
「何処がただの令嬢なんだ、公爵家長女にして王族の婚約者候補で、次期王太子妃が内定している者をただの令嬢とは言わない。」
なんか言葉に出されると、ルキアーナちゃんの立ち位置の凄さを実感してしまう。
「それでも皆様の方が立場は遥か上です。モフ様はありがたくお借りさせてもらいます。鉱石は兄か父が持ち護衛騎士を手配していただけたらと思います。」
提案を無碍にもできず、折半を提案。
「まず駆けつけるのは、宰相かザイナスでいいだろう。しかし、私も危険信号は知っておきたいからもっておく。」
「………ぼ、……ぼくの、…ムシ………ぼくも………し…る。」
しかし私の意見を殿下方は丸々無視。
えー……理解できないと思っていると、離れていたエーデル侯爵まで、
「私ももっておきたいですね〜。ダシンゴムにそんな性質があり利用法があるとは。ぜひ参加させてください。」
と謎な意見。
結局最強SPのままではないか。
でも頷いてもくれなさそうなので、黒幕には悪いがルキアーナちゃんの為と思って受け入れる事にした。
「分かりました。ありがとうございます。皆様にはご迷惑とお手数をおかけしますが、いざという時はよろしくお願いします。」
頭を下げると皆頷いてくれた。
そしてもっさり王子が私の肩にモフを乗せた。
ネクス王子は本気で苦手なのか、ものすごく嫌そうに顔を顰めた。
コソコソ動くモフ、たまに毛が頬に触れて羽毛の様で、かわいい。
ニッコリ笑うと、もっさり王子が急に高速小声説明を開始した。
「モフはダシンゴムという魔虫の一種。好物の魔力を宿す物が寄生の対象になるから、木でも人でも魔獣でも何でも気に入れば寄生する。一旦寄生すると寄生した物から離れない。ダシンゴムは魔力を食とするけど、吸い取る量は微々たるものだから人体に影響はない。肩に乗せててもいいし、バッグやポケットに入れても丸まってるから大丈夫。ダシンゴムは弱い魔虫だから自分を害する物にマーキングして、仲間と一緒に逃げるんだ。その時に巣穴に作ったこの鉱石を光らせマーキングした事を仲間に伝えている事が分かってきたんだ。だからこれが利用できるなって。他の出回っている魔道具では阻害魔法で探知できなくなるから。この魔虫の特徴は知られてないし防ぎようがない。」
一気に聞いたが驚いた。
こんな虫がいたなんて、ダシンゴム? ダンゴムシに毛が生えたらダシンゴム?
でもダンゴムシは魔力なんて食べなかったよね。……食べなかったのか? よく分からなくなる。
どうやってマーキングしているのかわからないけど、変わった習性を持つ虫なんだね。
それに監視役によく虫を利用しようと思ったな。虫だよ?
ちゃんとマーキングしてくれるものなんだろうか?
あの離宮でもっさり王子はずっとダシンゴムの観察をしていたのだろうか。
……飽きずにずっとジッと観察している姿が想像できる。
そんな事を考えていると、ただの石ころをもっさり王子が見せてくれた。
本当その辺にありそうな石。
「ラトは動物や虫、色んな生き物の研究もしていて、多くの発見もしてきている。」
急にお兄ちゃんに褒められて恥ずかしくなったのか、猫背でモジモジくねくね開始。
いい頭を持ってるんだろうけど、このギャップの残念感が半端ない。
「この鉱石を私から宰相とザイナスに渡してしておく。この事はエーデル侯爵と陛下も含め7人しか知らない。護衛は宰相と相談して決めておく。今度こそ危険を回避させる。」
ネクス殿下は真面目な顔で宣言してくれた。
まあ、虫の監視がどのくらい役に立つのか分からんが、何もしないよりはいいかね。
良かったね、ルキアーナちゃん。
安心して暮らせる為の、安全対策第一歩よ!
最強SP達に守ってもらいましょ!
閲覧ありがとうございました。
ダシンゴムのモフ登場。頑張って役に立ってね。
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