44 治癒が大雑把
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別室は応接室に比べるととっても簡素で、ただ広い部屋にベッドがたくさん並んでいた。
そこに7人患者らしき人達が横になっており、その側を真っ白なシスターの様な服を着た女性が4人行き来していた。
横たわっている患者は片腕を吊っている人、足がおかしな方向に向いている人、明らかに発熱してる人、お腹を抑えて痛がっている人、意識のなさそうな人と様々な様子だった。
ああ、みんな苦しそうだなと心配になっていると。
「さあ、こちらでご自由にご覧ください。」
急に患者に構わない大声で、神官長が声を出す。
思わずびっくりして見上げるが、全く気にしてない。
しんどそうな方がたくさんいるのに、配慮の少ない態度にイラッとする。
そんな声に反応できないくらい、患者達はそれどころではない様子で顔を顰めている。
これは確かに薬だけじゃ治りに時間を有しそう。しんどそうな様子に心配になる。
「ああ、そこの君、彼の腕に治癒魔法を!」
患者の側で様子を診ていた女性に神官長は指示を飛ばす。
意識のない患者の側にいた女性は、その患者から離れる事を戸惑った様子だった。
そんな様子をまる無視して、イラついた神官長が急かす。
「その人は眠っているだけだろう? 彼の腕を先に!こちらの方々に見せてあげなさい。いかに治癒魔法が神聖なものかを。」
いやいや、意識ない人の方が危ないだろう!腕は痛いけど重症度は下だ!
何言ってんの?
信じられない思いで神官長を見つめてしまう。
しかし治癒師の女性は腕を吊っている人の元に慌てて行き、砂時計を側に置いた。
そして両手を前に出し、手のひらから金色の光が光線のように出て患者を包んでいった。
徐々に患者の表情が痛みに耐えていたものから、だんだんホッとしたような表情になった。
そして1分ほど経ったら砂時計が終わり、治癒師の手から光線が消えた。
あれが、治癒魔法………金色の光に包まれ、なんだか映画を見ているように思えた。
患者の表情もやわらいでいるから、あれで治ったのか?
と思っていたら、治癒師の女性が、
「また予約を取ってお越しください。」
と患者に言っていた。
「治らなかったのですか?」
私が神官長に聞くと、神官長はあちらをと手を伸ばした。
「彼の怪我は重いのでしょう。あのぐったりしていた子供は元気になっていますよ。」
見ると別の治癒師の女性に子供のお母さんらしき人が手を握り込んで感謝を述べていた。発熱していた子供はベッドの周りをぐるぐる走っている。
発熱は治るのか……。
しかしその向かいの人も発熱していたが砂時計が終わっても、あまり様子が変わっておらずぐったりしていた。
どういう事?
足があらぬ方向に向いていた人も向きは戻ったが、添木をされて車椅子に乗せられそうだ。
「治癒魔法は全快させるというより、少しずつ治していくものなのですか?」
私が聞くと神官長は満足そうに頷いた。
「治癒魔法はかける時間で効果が変わってきます。全身にかけるので魔力が大きく消費されます。一回で完全治癒を目指すと治癒師の魔力を全て使う可能性があり、それ以降の方の治療ができません。それでは日に何人も患者を診ることができませんし、こちらとしても日に数人では運営ができません。
そこで私はできるだけ多くの患者を診る為に、患者1人に対し1分治癒魔法をかけるという取り決めをしました。症状の軽い患者はこれで治りますから。重い患者は数回来ていただく必要がありますが、公平に多くの者に治療を受けてもらうには仕方ないのです。」
しおらしく言っているが、さっきの金の無心からいって、患者のためだけじゃないよね?
「患者は一回で治らなかったら数回来ることになりますが、治療費は一回で全て賄えるのですか?それとも来るたびに支払うのですか?」
私が聞くと神官長はニヤニヤ笑って、
「治癒師は貴重で給金も高額です。その為患者には来るたびにお支払いしていただきます。患者も全て通う必要はなく、最初だけ治癒魔法かけてもらい後は自然治癒にまかせる者もおりますので、強要して通わせ搾取しているわけでもありません。」
でも、一回最低100万……数回はきつい。しかも一回で治す事ができないわけじゃない。
…………なんか神官長が胡散臭く感じる。
「神官長様は多くの者に慈悲をお与えになっているのですね!」
素晴らしいと言わんばかりに、兄が神官長の肩を叩く。
兄は脳筋なのか?金持ちだからわからないのか?
一回100万で治るところを数回来て何百万は辛いよ?
少しでも多くの人に治癒魔法をという考えは賛成だけど。
じとりと兄を見上げながら、もう一つ質問する。
「なぜ治癒魔法は全身にかけるのですか?全身がいつも悪いわけではないですし、全身に魔法をかけるから魔力消費が激しいなら悪い所だけかければ効率が良さそうですが、それには適さない魔法なのでしょうか?」
すると神官長はキョトンとしたが、すぐにこやかに言った。
「治癒魔法は昔から全身を治癒するものです。怪我は見れば分かりますが、それ以外はどこに病気があるのかわかりませんから、かけようがありません。勘で治癒魔法をかけるわけにはいきませんし、難しい事を考えなくても良いのですよ。なんであれ全身に治癒魔法をかければ治りますから。」
すごいな…………切り傷でも、熱でも、骨折でも、癌でも、盲腸でも、病名がなんであろうとも治癒魔法を全身にかければ治る。
ついでに言えば治療はいつでも治癒魔法を1分ねって決まっている。
どこまで治るか判らないがかけてもらって、治ったら良かったね。治らなかったら、何回か来たらいいよって、治療概念が大雑把…………。
治療ってそんなんでいいの?
現代っ子カルチャーショック。
病名に応じた治療ってのがないから、病名を知る必要がない………私がしていた検査して病を探す検査技師も不必要だ。
衝撃的で気が遠くなるのをなんとか耐え、思考を働かせる。
でもでも、病名がわかって、ここが悪いってわかったら治癒魔法を限定的に流して魔力消費が抑えれるかもしれないよね!
そこでピーンときた。
「あの魔力測定機器を使えば、体の何処が悪いか分かるのではないですか?」
私が意気揚々と言うと、
「あの機器は貴族用です。平民は魔力が多くないので数値の変化がわかりにくく使えません。」
と否定された。
がっくり。全員に使える物ではなかったのね。
「ルキアーナ様は患者の苦しんでいる場所が的確に分かるなら、そこに集中的に治癒魔法をかければ少ない魔力量で治るとお考えになられたのでしょうが、原因を特定するという事は難しい事ですし、治癒魔法はその労力の時間で治せますから。医者であれば病態特定できましょうが、フッ、彼らはそれだけです。すぐに治癒させる能力は持ち合わせておりませんから、患者がここへ来るのです。今の状況では私の考えた1分治癒魔法が1番有効なのですよ。」
めっちゃ得意げに神官長に言われた。
なんか腹立つ。
そりゃあなたは検査も問診もしないんだから原因がわかるわけないじゃない。医療の医の字もわかってないのに。
医師を愚弄してる。
人間の持つ自然治癒力と薬で治す医師はとても大切で、人の持つ治癒力を高めてくれるのに!
ムーっと頬を膨らませながら、兄が案内されたのでついて行く。
兄はここの先の個室に入った。
兄は豪快に上着とシャツを脱ぎ椅子にかけると、上半身裸になってベッドに腰掛けた。
筋肉モリモリに引き締まって逞しかったが、肩から巻かれた包帯に血が滲んでいて痛そうだった。
そして兄は顔を歪めた私を見ると、ニカっと笑った。
「大丈夫だ。ルキアーナは治癒魔法を見るのは久しぶりだから、どの様に治るか近くで見たらいい。」
おお〜ルキアーナちゃんのお兄ちゃんめっちゃいい人!
「ありがとうございます!」
嬉しくて、すぐ駆け寄った。
そして側に治癒師の女性も2人立った。
兄はそんな治癒師を気にする事なく、豪快に包帯を解いた。
うわー……………。
左肩から左胸の前までが大きな爪の様な物で引っ掛れ、肉がえぐれ血が浮いていた。
「イッタっ」
思わず顔を顰めると、兄はニカっと笑った。
「見た目ほど痛くはない。大丈夫だ。」
兄は痛覚も鈍いらしい……絶対痛い。
2人の治癒師は兄の後ろと横に立つと、顔を赤くさせながら両手をかざした。
砂時計は無い。
「「治癒魔法かけます。」」
2人がそう言った瞬間、金色の光線に兄は包まれた。
やっぱり異質感満載………兄が金色に光ってる………そのうち宙に浮きそう。
そんなバカな事を考えていたが、すぐに意識は傷口に向かった。
血が止まりじわじわ肉が盛ってきて、周りから徐々に裂け口が小さくなっていく。
まるで治る過程を早回しで見ている様だった。
「すごい……。」
それはものすごい神秘的な神の領域だと思った。現代では絶対見ることのなかった映像だ。
そして治癒師の女性の額に汗が滲んできた頃、兄の傷は完全に消えてなくなった。
どのくらいの時間だったか、2分もいってない気がする。
2人で1分半として、通常治療なら3回通う。肉を抉る酷い傷に300万以上かかるが、1ヶ月かかる傷がその日で治るもしくは3日で治る。
まさに時間を買ったのだ。高いのか相場なのかよく分からなくなった。
騎士団副団長の立場なら、すぐ仕事復帰できるのだ。
高くない気もする………いやいや一般人にはやはり無理だ。
私がうーんと悩んでいると、
「これは肩凝りや足の擦り傷も治ったようで、ありがたい。」
と兄がガハハと笑った。
やっぱり治癒魔法は全身に効くんだね。
ほうほうと思いながら、兄の肩に触れる。
傷跡も全くない、元から何もなかったかのようだ。張りのあるいい筋肉のついた肩だ。
「いつもながら治癒魔法はすごい。どうだ、すごかっただろう?」
近くで子供のようにはしゃいだ兄と視線が合う。
「うふふ、確かにすごかったです!」
思わず兄を見て笑ってしまった。
「良かったわ。無事に治って。」
オリビアさんも傷を見た時は顔を青くして離れていたが、今はホッとしたようだ。
うふふ、治療方法はあれだけど、治癒魔法は万能ね。
治癒師の女性達も顔色が少し悪いが、兄にお礼を言われて顔を真っ赤にしている。
そんな明るい雰囲気の中、神官長がニヤニヤして来た。
「治ったようで何よりです。ではウィンテリア公爵夫人、また応接室に。」
「ああ、神官長様ありがとうございました。ええ、そちらに伺います。貴方達は馬車に戻っていなさい。」
オリビアさんは神官長にお礼を言いながら出て行った。
一体いくら払うんだろう………治療代とお礼代、なんなら色も付けて…………公爵家の金銭感覚わからない………。
想像を絶する金額ではないかと気を遠くしながら、騎士服をキッチリ着た兄と馬車に戻ったのだった。
閲覧ありがとうございます。
治癒魔法すごいですね!
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