43 初めて神殿に行く
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こちらに来て、季節が移り変わり寒くなってきた。
ドレスも長袖となり、外に出る時はケープやポンチョのようなコートを羽織る。
これが意外にも暖かい。
相変わらず魔力は見えないが、魔力を体内で移動させる、手のひらに集めるという作業は分かってきた。けど相変わらず魔力が重く、謎に力だけはいるのでジワ〜っとしか動かせない。
そんな中、兄ザイナスさんが勤務中怪我をして帰ってきた。
兄は大丈夫と言ったが、母オリビアさんが心配をして神殿に行く手配をした。
確か神殿での治癒魔法は高額って本で読んだけど、さすが公爵家、金は厭わないみたい。
あれよ、こっちの金銭感覚を前の世界に合わせると、薬師の薬は何百円から何千円、魔法薬やポーションは何千円から何十万。治癒魔法は程度によるが一回100万円以上、欠損治癒は何百万から何千万、死に際からの回復は書いてはなかったが億ではないかという感じだ。
治癒魔法が使える女性が少ないし、魔力が少ないから日に多くの人を治せないのが高額に繋がっている。
保険とかなさそうだから、全額負担。
治療が高額すぎて、そりゃ誰もが迂闊に神殿に行かれんなと思った。
ルキアーナちゃん家は金持ち、兄の切れた肩の傷を治療してもらって、あっさり神殿に数百万払うのだろう。怖い事だ。
そんな事を思いながら私は今、母と母の侍女さんと兄と一緒に馬車に乗り神殿に向かっている。
私は家にいるように言われたけど、駄々をこねて一緒に連れてきてもらったのだ。
「私は記憶喪失だから神殿も覚えていません。治癒魔法が使われる神聖な場所を知らないのは失礼すぎますう〜。」
と騒ぎ立てて。
我ながら卑怯な手だと思うが、気になるではないか治癒魔法とか。
どんな風に治るのか気になる。
兄には悪いがウキウキして神殿に向かうのだった。
♢♢
着いた神殿はローマ神殿とは違っていた。
いや、私が神殿って聞いて勝手に想像してただけだけど。
なんか豪華な教会という感じだった。
出てきた人も神父っぽい服装だった。
なんか教会と神殿の違いがよくわからなくなった。
神父っぽい神官について行き、オリビアさん、兄、私、侍女さんと応接室に入った。
思った以上の豪華な応接室にびっくり、この間毒クラゲ王子に拉致された部屋くらいのレベル。
ここいわゆる病院よね、なんでここにこんなに金をかけてるんだ?
貴族、王族も来るとはいえ、こんなに豪華である必要性がわからない。
治療する場所に必要なのは清潔感でしょ…………こっちの価値観さっぱり分からん。
黙って部屋を分析していると奥から、神父服の超豪華バージョンの衣装を着た太ったおじさんが入ってきた。
歩くたびにゆっさゆっさ揺れるお腹……バスケットボールが入ってるように膨らみ、なんならおっさん妊婦。
すごいメタボで長生きできそうにない。
「リプッデ神官長様お世話になります。」
オリビアさんが立ち上がり、カーテシーをする。兄も胸に手を当て腰を折っている。
偉い人らしい、私も見習ってカーテシーをしておく。
「いえいえウィンテリア公爵夫人、頭をお上げください。皆様もこちらが恐縮いたしますよ。」
わざとらしく肩をすくめて、細い目でニヤニヤ笑う神官長が少し気持ち悪い。
そんな神官長を気にする風もなくオリビアさんは美しく笑う。
「本日は無理を言いました。受け入れてもらったのです、感謝は当然の事ですわ。」
「公爵家からの要望です。優先するのは当然ですよ。」
神官長は下品にはっはっはと笑うが、言った言葉が少し引っかかった。
優先とは………?
オリビアさんも少し引っかかったのか眉を顰めたが、すぐに表情を戻した。
「どなたか先客がいらっしゃったのかしら?」
「いえいえ公爵夫人がお気になさる事ではございません。」
なんでもない風に笑って、神官長は私達にソファを促した。
先程案内してくれた神官がお茶を並べていく。
「それで第2騎士団、副団長殿には別室で治癒魔法をかけさせてもらいます。2人治癒師をつけましょう。ご活躍に弊害ないよう、完璧な治癒をと考えています。」
腹がつかえて前にいけないのか、反ってソファに埋もれながら神官長が言う。
そんな神官長に兄が慌てる。
「いえいえ、私の怪我はそこまで酷くありません。治癒師1名で治る所までで大丈夫です。傷は放っておいても治りますから。貴重な治癒師です、他に治癒の必要な方にまわってもらってください。」
「ははは、副団長殿は素晴らしい方ですな。大丈夫ですよ、お気になさらず。他にも治癒師はおりますから。」
朗らかに笑う神官長の後ろに控えている神官の表情が厳しいのが気になる。
なんか、胡散臭い……。
そして神官長は手揉みをしながらオリビアさんに、
「完全な治癒といたしますので、申し訳ないですが治癒師2人分……必要になるのですが。」
金の無心をした。
なんかこの人嫌いだ。思わずそう思ってしまった。
「怪我を見ていないのに、治療に治癒師が1人でいいか、2人でいいか、判断できるものなのですか?」
思わず言ってしまった言葉に、オリビアさんが嗜める。
「ルキアーナ、神官長様へ勝手な発言失礼ですよ。」
「すみません。」
オリビアさんの厳しい目つきに萎縮すると、
「ウィンテリア公爵夫人、大丈夫ですよ。こちらは次期王太子妃様になられるルキアーナ様ですね。ご活躍はお聞きしております。神殿に興味を持っていただいて嬉しい限りです。王家と神殿は繋がりが深いですからね、ルキアーナ様ともこれから繋がりができましょう。ですからお聞きになりたい事は、何でも聞いてもらって構いませんよ。」
神官長はルキアーナちゃんの価値を知ってか、とても姿勢が低い。
そんな神官長にオリビアさんは眉を下げた。
「お心遣いありがとうございます。」
「いえいえ、当然の事ですよ。なんなりと、どうぞ。」
へこへこゴマすりのような神官長に嫌悪感が増す。
「それで怪我を見なくても良いのかという話ですが。ルキアーナ様は治癒魔法はご存じでしょうか?」
「あまりよくは理解できておりません。」
そう答えると神官長はほっほっほと笑った。
「そうでしょうなぁ。ルキアーナ様のお年で治癒魔法を見る機会はないでしょう。よい機会ですし、見学致しませんか?」
神官長の申し出に一も二もなく答える。
「はい、見学します!神官長様ありがとうございます。」
やった、見学できる!
「まあ、神官長様ご迷惑をおかけします。」
オリビアさんが頭を下げると、神官長は顔の前で手を振ってソファに手をついた。
「いえいえ大丈夫ですよ。副団長殿も治癒に参りましょう。さ、ルキアーナ様もどうぞ……。」
そう言って神官長は立ちあがろうとして、立ち上が………れなかった。
腹がつかえ、ゴロリンとソファの背もたれに逆戻り。
プっと笑いが出そうになって、慌てて俯いて顔を逸らせた。
「神官長様。」
後ろに控えていた神官さんが慌てて駆け寄り、補助をして立ち上がった。
太りすぎだろう……。
近いうちに治癒魔法が1番に必要になりそうだなと、後ろから神官長の揺れる腰を見ながらついて行ったのだった。
閲覧してもらえて嬉しいです。
神官長の顔の大きさは、ルキアーナちゃんの3倍はある。
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