3 この子は誰ですか
決心して私が顔を上げると、ラルフは穏やかな笑顔を向けていた。
「じゃあ、君の肉体と殺し屋の魂連れて行くから。」
そう言うと死体を担いで、飛び立とうとした。
私の体、あなたの2倍はありそうだけど、意外に力強いな!と驚きつつ、
「いや待って!」
思いっきりラルフの服を掴んだ。
「何、どうしたの?」
ラルフが目を丸くする。
どっか行かれては困る。魂復活に手を貸すって言ったけど、だって私ここがどこかもわからないし、この世界の事も何も知らない。
「私この世界の事何も知らないし、こんな崖の上で放置されたら、これからどうすればいいの?
しかも私は誰の体に居候させてもらってるの?」
「ふむ………。」
私の質問はもっともな事だと思ったのか、ラルフは死体からサッと手を離して、再び私に向き直してくれた。
⁈……ドサって置き過ぎ。もう少し私の遺体に配慮して……。
天使…雑だな。
体がグネってなって転がってる自分の遺体を見て、顔が引き攣る。
ラルフが全くそれを気にする素振りがないので、そのまま自分の死体を目の端でチラチラ見つつ、話を聞くことにした。
ラルフはデスノートを取り出すと、私が聞いた事はできるだけ、答えてくれた。
♢♢
まず予想はしてたけど、ここはやはり地球ではないらしい。
地球のどこかの国かとも思ったけど、この子の髪色を見るかぎり別次元の世界だ。
こんなキラキラ発光したような銀髪が地毛とは、すごい。
そして、ここは王様が統治している国で、クルリスター王国というらしい。
王様とか、日本生まれの私には馴染みがない。
この子は王族の次に地位の高い貴族で、公爵令嬢様。
親は宰相を務めていて、その娘さんだそうだ。
名前はルキアーナ・ノア・ウィンテリアちゃん。
まだ12歳だって、小6の子供だった。
そんな子供が、こんな崖で殺されかけたとか、どんな治安の悪さだよ。
ラルフが言うには、身分が高いと様々な理由で命を狙われるらしい。
お金欲しさの誘拐だったり、後継者問題だったり、やっかみとか多々あるらしく、この子も命を失いかけたのは、一度や二度ではないらしい。
こんな小さいうちから、散々命狙われて、助かってもまた殺されかけ、そりゃ生きる希望も失うよ。
身分高いの怖……あまりの境遇を不憫に思う。
テンション、だだ下がりだよ。私もこの体でピンチじゃん。
どうやったら、この子が命の危機を感じず、幸せに生きられる?
どうやって回避するの? 無理じゃない?
この際、公爵令嬢辞めたらいけないんだろうか?
令嬢とは別に手に職を持って暮らしていくのは、出来ないんだろうか?
何か道を見つけていかないと、この子は私の意識の下から目覚めないだろうなあ。
すっかり、この子の境遇にうーんと唸る私を見て、ラルフも眉を下げる。
「この子の境遇には同情するし、その体でしばらく生きていかないといけない君は不憫だと思う。けど、どうにか神達となるべく早く解決策見つけるからさ、頑張って生活していってほしいんだよね。」
「うん、わかってる。それは理解してる。」
けど、この世界の知識が圧倒的に足りない。
私はこの子より一回りも年上だけど、分かってないことが多いからなぁ。
あと
手をグーパーと握ってみる。
細い手足、力も入らない。筋力、体力もない。
貴族だっていうし女の子だし、筋肉不要なんだろうけど、こんな風に誘拐されて襲われたら、逃げることすらできない。
知識、体力、早急に身につけなくちゃ。
顔を上げてラルフに言う。
「私は中身別人だけど、この国の言葉や文字は読めるかな?」
ラルフは少し首を捻って、
「今僕と話てるのは、この国の言葉だから、喋るのは大丈夫みたいだよ。スムーズに会話してるよね。」
「おお、そうなんだ。スムーズすぎて日本語で喋ってると思ってた。意識せずに喋れるのは、ありがたい。」
「喋るのがその感じだと、字も読めそうだよね。本当はダメだけど、これ見て。」
そう言ってデスノートを見せてくれた。
「デアストロイ山崖 ルキアーナ・ノア・ウィンテリア 12さ………」
「はい、読めてるよね。」
ラルフがサッとデスノートを閉じる。
もう少し見たかった。
少し不満げな表情になる。
でも、知識は聞いたり読んだりで、なんとかなりそう。
体力はしっかり食べて、運動して、これから付けていこう。
少しなんとかなる気がしてきた。
ちょっと私の気分が上がってきた所で、ラルフが気になる事を言ってきた。
「君の世界には、魔法ってあった?」
⁈
もしかして?
魔法はアニメの世界でしか知らない。
「魔法って、火を出したり、人が箒で空飛んだりするやつ?なかったから、見た事もないの!」
興奮気味に答えると、
「そうそう、火や水を操ったするのが魔法。でも、なんで箒で空飛ぶのか意味がわからないけど。」
失笑された。馬鹿にされてる。
箒で空は飛ばないらしい。
魔女はだいたい箒で飛んでたし。
「この世界の人はね、多かれ少なかれ、皆んな魔法が使えるよ。個人の魔力量で出来ることが変わってくるけどね。指に火を灯すだけの人から、国が滅ぼせるくらいの爆炎まで千差万別さ。魔力量は王族が豊富、貴族も王族に継いで魔力を多く有してる人が多いよ。平民は比較的少なくて生活に魔法が使える程度が一般的。中には突出して魔力の多い平民が生まれることもあるよ。」
「へー、じゃあ私も今貴族の体だから魔力多いの?」
そう言うとラルフはデスノートをじっと見て、
「うん、多いね。多いなんてもんじゃないから、そのせいもあって狙われるのかもね。」
「なんと!」
魔法、魔力、ファンタジーって思ってたら、命を狙われる原因かもとは。
「ちなみにどのくらい多いの?」
「王族と同等か、もしかしたらそれ以上かも?」
いやいや、王族と一緒とか、凄すぎでしょ!
びっくりして目が大きくなる。
「いや、すごいね。改めて見たら、この子の魔力量ほんと多い。成長途中だから、大人になるまで更に増えるね。」
感心したみたいに、サラッと怖いことを言う。
まだ増えるの? いや命狙われる原因だから、多くなくていいし。
「ちなみに魔法には属性があって、基本は火、水、風、土、雷のどれかが使える。ごく稀に闇とか治癒が使える人もいるし、複数使える人もいる。」
「治癒は怪我や命救うんでしょ?」
「うん、そうだね。治癒魔法は病気や怪我を治す。けど、今この世界で治癒が使える人は人数も少ないけど、魔力量も少ない人しかいないんだ。だからちょっとした病気や怪我は治せても、命を救うまではできないよ。そんな大魔法は君くらい魔力量がないと無理かな。」
「そうなんだ。治癒はなんとなく想像できるけど、闇って何?」
「あ〜闇は更に使える人が少ない。時間、空間や精神に干渉してくる魔法。洗脳や呪い、破壊の類になってくる。どうしても命救う力があれば、均衡のために命を脅かす力も存在してくるんだ。」
言いにくそうにラルフが説明してくれる。
生かす能力と破壊の能力、自然の摂理というやつか。
闇とかって響き、悪魔とか魔王が使ってそうよね。いるのか知らないけど。
そんな事より私は自分が気になる。
魔力量多大なこの子の魔法ってなんだろう?
ワクワクして聞いてみる。
「ねえ、ねえ、ラルフさん、ちなみにこの子は何の魔法が使えるの?」
「…………」
「魔法の種類よ!」
私が前のめり気味に聞くけど、ニコっと笑って何も言わない。
教えてくれないんかい!
イラッとして
「教えてよ、これから生きていかないといけないんだから、使えるものは知ってた方がいい!」
そう抗議すると、
「無属性………」
早口に一言言った。
よくわからなかった。
「え?」
聞き返すと、目をそわそわ彷徨わせて、ラルフが上目遣いで言った。
「属性がないみたいだ……どうも何も使えないみたいに書いてある。修行並みに鍛錬すれば、何かは使えるのかもしれないけど。使えるかなぁ? いやでも、無属性ってほんと希少で、世界に1人いるか、いないかなんだよ。ほんと貴重なの!」
貴重でも、なんでも、何も魔法が使えないとか、かわいそう。
豊富に魔力あるのに、なんの為の魔力⁈
全然面白くないんだけど。
なんだそら、そりゃ、この子も面白くないよね。
私の不穏な空気を感じたのか、ラルフは急いで死体を担いで数メートル飛び立った。
「ル、ルキアーナは無属性だけど、君自身は魔法を知らなかったんだ。君が何の属性を持ってるのか僕にはわからないけど、人は誰でも魂に属性がある。これから魔法に触れていけば、君の属性は開花する可能性があるよ。だから魔法が使える可能性はあるはずだよ。まずは生活に慣れて、魔法を教えてもらったらいいよ。」
「………」
「じゃ、じゃあ、僕はこれで行くよ。ちなみにもう少ししたら、君の捜索隊がここを探し当てる。近くに気配を感じるから、ここで待ってるといいよ。じゃあ、また会いにくるからね。」
そう一気に捲し立てて、ラルフは空へ飛び上がったかと思うと、すごい速さで空へ飛んでいって見えなくなった。
「……………天使め…。」
ラルフが発光してたのか、居なくなった途端、辺りは一気に暗く、静かになった。
暗闇の森って気味悪いんだけど、月明かりだけじゃ心許ないじゃない。
けど、私は天使を信じて待つしかない。
座って膝に顔を埋めてみた。
暗闇が見えなくなり、自分の体温で顔が暖かくなる。
ああ、眠くなってきた。
でもここで眠るのはできない。
けど、眠い。
夜中っぽいし、小6は確かに寝る時間だよね。
もう半分夢の中、僅かに辺りからザワザワした音がしてくる。
ああ、助けが来たのかな。
ガサッとすぐ近くで音がして人の気配を感じた。
眠い頭を上げると、凛々しい騎士みたいな格好した人が立ってた。
「ルキアーナ!だい………」
なんかいい声で、その人がなんか言った気がしたけど、眠すぎて無理。
抱きしめられて、私は夢の中へ落ちていった。
天使は逃げ足が速い
面白ければ、ブックマーク、評価をお願いします。