38 第一王子に進路指導
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腕を取られ引きずるように王宮の応接室に連れてこられた。
その間王子は今まで見たこともない笑顔で終始対応してきて、逆に気持ち悪かった。
怖い………これヤバそう。
危険だと思うが部屋に押し込まれ、逃げられない。
さっきから汗が止まらない。
「さあ、疲れたろう。ソファにかけて休むといい。今お茶を用意させてる。」
物凄く優しい笑顔の王子が座る事を勧める。
めっちゃ王子様すぎて、気持ち悪い。
「そんな顔をする必要はない。休む傍ら甘い物を食べて、少し質問に答えてくれるだけでよい。」
絶対良くない……。
「あの、殿下、お気遣いなく。私は帰って屋敷で休みますので。」
ぎこちなく答えると、殿下の目つきが鋭くなった。
「では、単刀直入に聞く、お前は誰だ?記憶喪失とはいえ、以前と違いすぎる。別人だろう?」
直球な質問にヒュッと息を詰めた。
疑ってる。
どうしよう、そうよね。さっきのは流石に不味かった。あんな事12歳がしない。
素直に喋る訳にもいかず、かといっていい言い訳も思い付かず、無言になる。
「だんまりか。」
王子がソファにもたれ、砕けた姿勢でニヤッと笑った。
「黙る行為は肯定したも同然だぞ。」
そうかもしれないと思った。
けど同時に別人の証明もできないだろうと思った。
だって、この体はルキアーナちゃんに違いなく。魂も眠っているだけでルキアーナちゃんもいる。ただ私の魂が勝手に居候してしまっただけなのだから。
「おっしゃっている意味がわかりません。以前は覚えておりません、記憶を失っておりますから。どんなに違おうと私はルキアーナです。」
だから堂々とする事にした。
そんな私に、
「ほら、その態度だ。わかるか?お前は12歳なのだぞ?まして8歳も年上の王族にそんなに堂々と会話できるものではない。」
諭すように王子が言う。
確かに、王族がすごいのは分かる、けど私の認識がズレているんだろう。どのくらい敬うものなのかよく判ってないのだ。だから敬う気持ちが薄いから、ただの横柄で、キラキラしい嫌味な年下男子にしか見えてない。
「それは失礼致しました。態度を改めます。」
頭を下げると、殿下はテーブルをバンと叩いた。
「そういうことではない!別人なんだろう、誰なんだと聞いているのだ!」
そう怒られても、頷けないのだから仕方ない。
「私は私です。」
そう答える以外ない。
コンコンコン
ドアがノックされ、殿下がイラつきながら入室許可を出した。
2人で睨み合う状況の中、お茶が次々整えられ侍女達が下がり、また沈黙が流れた。
沈黙を破ったのは王子だった。
「それで、そのお前の力はなんだ。魔法は以前のまま使えないと報告は受けている。」
「その通りです。魔法は使えません。体内の魔力を動かすことはルンバール医師に協力してもらい少しやり方がわかった所です。魔力は相変わらず見えません。そして何故私に呪いや拘束、結界等の魔法が効かないのかも分かりません。そもそも魔力が見えないので、呪いはまぁ、黒い線になっていれば分かりますが、でもただの線ですし。結界は見えないので、あるのかもわからず私としては普通に歩いていたら通過していたというだけです。」
そう私が答えると、王子は意味がわからないという顔をした。
そんな顔をされても………。
薄い膜は誰にも見えていないのなら、話す訳にいかない。
実際私は何もしておらず、普通に動いていただけなのだから。
「では、さっきの結界を解いたのもわからないと?」
「はい。」
王子は眉間に皺を寄せ、一つずつ考えをまとめているようだった。
「先ほどの医療行為に近い動きは、どうやって学んだ?」
うっ、これには少し詰まった。
「………本の知識と当家の専属医サンタール医師と王宮医師団と関わるうちにという所でしょうか。自分が療養の身でしたから、医療行為を目にしたり質問したり話をする機会は多かったと思います。」
我ながらいい返しが出来たと思う。
王子は1番納得したように頷いた。
「であったのなら、態度云々は置いておいても、お前の能力が上がったと考えるべきか。結界、呪い等が効かない王妃は得難い。」
え………。
呆けていると、王子が嫌な笑顔を浮かべた。
「褒賞も受け、得難い能力も発覚しつつある。これで更に王家から逃れない。さっさと私の婚約者になれ、悪いようにはならない。お前は王妃になれるのだ栄誉こそ誉だろう。なんでも思い通りになる、欲しい物も山のような臣下も得れるぞ。」
その言葉に呆れる。
「それになんの価値があるのですか? いえ、価値はあるとは思いますが、私に王妃は分不相応だし、臣下や国民を背負う事は荷が重いです。欲しい物は自分で稼げば得れます。王子が言う未来の何が楽しいのかわかりません。」
「楽しい?」
王子が首を傾げる。
「そうです。自分の未来ですよ、したい事がしたいですし楽しいと思う事をして過ごしていきたいです。」
私がそう言うと、王子は鼻で笑った。
「そういう所は子供だな。私は王族だ。将来は王と決まっている。決まった未来を安泰に迎えるだけだ。お前も貴族だろう、楽しいだけでは成り立たない。」
確かにこの世界の貴族はそうなのかもしれない、でも。
「では殿下は王太子となり、更に王となって何をなさりたいのですか?」
私が聞くと当然という顔をした。
「現王、先代、先先代の王達がおさめ、続いてきた国を守り安寧を保つ事だ。」
「具体的には?殿下が王となって1番にしたい事は何ですか?」
すかさず質問する。
「1番………情勢を読み、今の状態が維持できるよう国を守る事だ。」
その答えに息を吐き出す。
「現状維持は今の役職の方々の継続と後継指導で事が成り立ちます。この国をもっと良くするための改革など考えないのですか?将来のレールが決まっているのなら、将来こんな事をやってみようとかないのですか?殿下の未来です。したい事やりたい事を考えるから未来が楽しくなるのです。」
「はあ? 父王も今の国を守り続けて、今更新しい事など………。私は王になる事が、それだけを目指し王にならなくてはならない。将来やりたい事は王になる事だ!」
一気に王子は気持ちをこぼした。
それも夢だろう。そう言われて育つのだろうし。
「殿下、失礼と思いますが、聞いてください。殿下の王になる夢は素晴らしいと思います。誰でもなれる物ではありませんから。でも王になった時、夢は叶います。でもその先は?殿下の生きる道は続くのです。更にその先の未来に夢を持っても良いのではないかと思います。王になる事がゴールではなく、王となった時点がスタートです。王になり、その続く将来にしたい事を考えましょう?きっと楽しいですよ。その隣に私がいるのは断固拒否しますけど。」
私がそう言うと王子は俯いて黙ってしまった。
お説教くさくてごめんね。
お姉さん心配になったのよ、もっと自分と国の将来をよく考えた方がいい。
生きている時間は無限じゃない、有限なのだ。
時間に限りがあるのなら、自分がしたい事をした方がいい。もちろん悪い事をめちゃくちゃしていいと言っているわけではない。
王になると言うなら、なって何をしたいか、どうして生きたいか考えたらいい。
きっとその方が大変だけど平坦な道より、色々トラップがある方が進んで楽しい。
そうして過ごした生涯は実りある物になると思う。
その為に私も前の世界で検査技師になった。いち早く患者の病気を見つける人になりたくて。
早く病が見つかれば治療も簡単で、皆が生涯を笑顔で長く楽しめる。そういう未来になるために役に立ちたいと思った。
王子もまだ20歳、若い。いくらでも将来の事は考えれる。
そんな事を考えながら、冷めてきたお茶を飲んでいたら、
「ククククク………。」
急に殿下が俯いたまま笑い始めた。
え、怖っ。
カップを持ったまま固まっていると、ゆっくり殿下が頭を起こした。
そして綺麗な青い瞳でこっちをまっすぐ見て、
「お前が誰でもいい。絶対逃がさない。必ず王太子妃となってもらう事にする。」
と宣言した。
「あ、いや、殿下、私はなりたくなくて……。将来は色々、殿下も私も人それぞれ進みたい道を考えて進んでいけるという事が言いたかったわけで。」
しどろもどろに言うと。
「キロネックス。」
「は?」
動揺してよく聞こえなかった。
すると殿下は呆れた顔をして、
「お前は私の名を知っているのか?」
バカにしたように言う。
はあ? 知ってるわよ。毒クラゲだもん。
私はすまして言った。
「キロネックス殿下でしょう?」
私の返答に満足したのか、ニヤリと笑っていつもの悪い笑顔になった王子は。
「では、次からそう呼べ。それからお前は以前私によい関係を作らないのか?と問うたな。将来私は伴侶がいようとも1人で進む気であったが、気が変わった。私が進む道の隣にお前がいる事を追加してやろう。この私に説教するとは、12歳でそれだ。将来はさぞかし素晴らしく助言のできる王妃となるだろう。王となり、したい事ができた時に居てもらわねばなぁ。ますます逃す訳にはいかなくなった。」
ヒィ………。
カップを落としそうになり、慌てて置く。
すっかり硬直した私を尻目に、
「いつか全て暴くからな。」
王子は不穏な発言と裏腹に優美にお茶を啜るのだった。
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第一王子からルキアーナちゃん逃げて〜。
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