36 開かずの間?
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本来褒賞式の翌日から王宮教養はあったが、父は私が王宮へ向かう事を禁止した。
閉じ込めてきた4人の令嬢のついでに5人の毒花令嬢の事も一応伝えたが、その後どうなったのか全く聞いてない。
そしてあれから2日経った昼。
父が珍しくお城から戻ってきた。
私が療養中の時はよく戻って来ていたが、最近は全くなかったので不思議だった。
父は私に気付くと、なんだか複雑そうな表情で寄ってきた。
「ルキアーナ体調はどうだい?」
この2日父は私に会うと必ずこのセリフを言う。
「大丈夫ですよ。」
笑う私を抱きしめるまでが一連の流れだ。
心配させただろうし、されるがままにしている。
この流れを繰り返したのち、父は珍しく思案して言葉を発した。
「怖かっただろうし、思い出したくもないだろうけど、少し力を貸してもらえるだろうか。」
どういう意味だろう?
首を傾げると、苦笑いで、
「実はルキアーナから詳細を聞いて、すぐ騎士を聞いた部屋に向かわせたのだが、どういう訳か全くドアが開かなかったんだ。もちろん窓からもアプローチしてみても同じだった。誰も中に入れないんだよ。」
はい?
あの時、普通に入って出たよね。
頭に疑問符を浮かべると父は更に苦笑する。
「魔法で壊そうとしても周りが壊れるだけで、その部屋は壊れもしないんだ。周りが壊れる度に令嬢達の悲鳴が聞こえるから無事なのはわかっているんだが、いかんせん開かないんだ。エーデル侯爵も力を貸してくれているが、魔法も弾いてしまうから転移もできない。どうしたものかと、エーデル侯爵に詳しく事情を話したらルキアーナを連れてきたら開くかもしれないと言われてね。魔法の使えないルキアーナの行く必要性には疑問だし、本当は近づけたくないのだけど、令嬢達の安否が心配になるしね。可能性があるなら試した方がいいし、このままだと聞き取り調査もできないんだよね。」
すごいね、その部屋。
エーデル侯爵でも歯が立たないなんてあるの?
屈強すぎるでしょ!
………エーデル侯爵はさ、この間の呪い弾きや魔法ロープ切ったのに驚いていたからなぁ。
でもすごいって言われても、私が何か出来ているんじゃないんだよね。
多分ルキアーナちゃんのこの薄い膜で全ての事象が起こっているんだろうと思ってる。
だって私は何を考える訳でもなく、触ったり普通に行動してるだけだから。
なんで開かなくなったのかは分からないけど、私で開くかもしれないのだったらやってみよう、あの子達も可哀想かな。もう3日目突入したしね。
「分かりました。私で力になれるかは分かりませんが、お父様と一緒にお城へ行ってみます。」
私の言葉にやるせ無い表情になりながら、父は頭を撫でてくれた。
「優しい子だね。ありがとう。」
♢♢
向かった城で、その惨状に開いた口が塞がらなかった。
なんだこれは。
パーティのあった建物と廊下を通じて隣接していた建物がマルっと消えていて、向こうの庭園が丸見えになり、そこにポツンと部屋だったであろう四角いドア付きの倉庫のような建物だけ残っていた。
そしてその周りに大きな金槌や斧を携えた屈強な騎士、手から炎や水を飛ばしている魔術師、それを見ながらおそらく中の令嬢達のご家族だろう人達が悲鳴混じりに泣き叫んでいる。
阿鼻叫喚…………。
まさにそう言うにふさわしい状況だった。
「ね、すごい状況なんだ。」
私の頭にポンと手を置いて、父が苦笑いする。
「あんな感じで何をしても全く傷一つ付かないんだよ。」
指を差した先の部屋は確かに無傷、綺麗に四角のまま。
一体あの部屋どうなってるの?
私もあのまま部屋にいたらと思ったら、ブルっと怖くなった。
魔法でも物理的にも壊れない部屋が私に開けるわけない。
そう怖くなって固まっていると、遠くにいたエーデル侯爵が駆け寄ってきた。麗しのインテリメガネ姿にも疲労の色が見て取れて、いつもよりヨレヨレしていた。
「ああ、ルキアーナ様いらしてくれたのですね。良かったです。」
明らかにホッとした顔。
「こんにちは、エーデル侯爵様。それであのお部屋はエーデル侯爵様でも壊れないのですか?」
私が聞くと、エーデル侯爵は自身の乱れた髪を均しながら、頷いた。
「そうです。初めは中の方の安否を心配して弱い魔法を当てていたのですが、全く歯が立たず。陛下に許可をもらい、周りに大結界を施して一瞬で一帯が更地となる大魔法を展開したらあの状態に、あの部屋だけが残ったのです。」
え、怖っ。悪けりゃ、令嬢達も消し去られるじゃん。
顔が引き攣る。
「ですから壊す事は諦めて、中の方だけ助けだそうと考えたのですが、転移しようにも何故かあの中に転移魔法陣が描けず、入れないのです。」
すっかりしょぼくれているエーデル侯爵を初めて見た。
エーデル侯爵に無理なら誰でも無理では?
そう思いながら、
「では第二王子殿下の転移はどうですか?エーデル侯爵とはなんか転移の感じが違うように思うのですが。」
私がそう言うと、後ろから声がした。
「ルキアーナ嬢、あれが出てくるわけないだろう。そもそもこんな事に王族の手を煩わせるものではない。」
また背後から、毒クラゲ王子。
振り向くとキラキラ復活とばかりの出立の王子が腕を組んで立っていた。
ピンク、紺、黄色のキラキラ………目が今日もやられる。
「殿下。」
父とエーデル侯爵が膝をついて頭を下げる。
ハッとして私もかとスカートを持つと、殿下は片手を前で払うと同時に、
「よい、頭を上げよ。不要だ。今は部屋を開けることに尽力せよ。」
「ありがとうございます。」
父とエーデル侯爵が立ち上がる。
カーテシーが間に合わなかった。
父は私に目線を向けると、
「陛下も此度の件は、褒賞式で守るように伝えたルキアーナを危険に晒したと怒っておいでで、陛下はもちろん殿下方のお力添えも禁止されているんだ。中にいる者とその家族に罰をすでに与え始めていて。だから殿下方が力を貸す事はできないのだよ。」
と教えてくれた。
え、厳しい、可哀想。
あまりの厳しさに驚く。
「なんだその顔は、ルキアーナ嬢、君は危険な目に遭ったのだから当然だろう。」
少し首を傾げ、当然だろうという顔で王子が言う。
「そうなんですけど、流石に何日もは可哀想かなって。」
私が眉を下げると、王子はハッと笑った。
「殊勝なことだな。だが私は手を貸せない。これでも婚約者の事で怒っているのだからな。」
あ〜、はいはい。子供産む道具でしたね、しかも婚約者候補ですけど。
傍目には喜ぶセリフなんだろうけど、今までの聞いていた言動を思い出して、呆れ気味になる。
なんだその目はって顔になってますよ。
私はそんな王子を無視して、エーデル侯爵に向き合う。
「エーデル侯爵様、私にあのドアが開けれますでしょうか?」
その言葉に背後の王子が反応する。
「ルキアーナ嬢に開けれるわけないだろう。師団長でも開かないのだぞ。」
王子に聞いてない、マルっと無視だ。
そんな私にエーデル侯爵は少し目を開いたけど、すぐ笑顔に戻って王子に視線を合わせた。
「殿下、ルキアーナ様は今私の魔法学を学んでおります。そしてそこで不思議な現象に出くわしています。詳細は省きますが、ルキアーナ様は呪いや結界、束縛魔法が効かない能力をお持ちのようです。詳しくはまだ確認は出来ていないのですが、今回の件は魔法による結界である可能性が高い、それならもしかしたらルキアーナ様なら開く可能性があるかと思いまして。ただ事件の当事者ですし、陛下のお怒りに触れるかもしれませんが、事象確認のためにも良い機会かと思いまして。」
「束縛魔法?」
不穏なワードを拾った父がエーデル侯爵を睨む。
そんな父にエーデル侯爵はアルカイックスマイルで無視をする。
「何も魔法が使えないと聞いていたが、そんな能力があるのか。」
王子の声色に、顎に手を当てて王子が悪い笑顔を浮かべているのが想像できる。
エーデル侯爵要らん情報を教えないでよ。
ぷんと頬を膨らませる。
そんな私に気付いて、申し訳無さそうにエーデル侯爵が笑いながら会釈する。
「エーデル侯爵殿、ルキアーナに関して気づいた事があるなら、逐一報告していただかなくては困ります。」
父も厳しい声で釘を刺す。
「まだ確認も出来ておりませんでしたから、ご報告できる段階ではなかったのです。そんな中このような事が起こってしまったのです。」
エーデル侯爵は飄々と答える。
父は眉間に深く皺を寄せた。
おお、父怒ってる。見上げる父の厳しい表情がかっこいい。
「ではやれるものなら、やってみろ。」
そんな雰囲気をマルっと無視して王子が言う。
は〜?
なんで王子に言われるとやる気が失せるんだろう。
そう思いながらも、エーデル侯爵と父が私を見下ろすから、
「分かりました。」
と頷いた。
そして土と化した床を歩いていく。
後ろから父とエーデル侯爵、そして王子が付いて来ている砂利の音が聞こえる。
あの時のドアのままだと思いながら近くまで来ると、私の前に一斉に土下座する人達が押し寄せてきた。
「「「「「「「申し訳ございませんでした。どうかどうかお許しを!」」」」」」
涙と土埃でぐちゃぐちゃになった顔のおじさん、おばさん方が口々に謝罪して来た。
ビクッとなる私を庇い父が前に出てくれる。
「娘に近寄る許可をした覚えはない。謝罪はまだ受け入れない。」
よく通る声で一括する。
父の声で取り乱していた方々が萎縮し、一斉に口を閉ざす。
すすり泣きだけが響く。
こんな王子達の為に、ルキアーナちゃんを閉じ込めて意地悪しようとしたのが悪い。許せない。
でも私はやっぱり気の毒だと思ってしまう。
私は怪我をしたわけではないのだから。なのに丸2日以上貴族令嬢が部屋に閉じ込められているのは苦痛で耐えれないと思う。
助けれるかわからないけど、やってみる価値はあるかなと思う。ルキアーナちゃん頼みだけど。
父の服を引っ張る。
「私はこの通り元気です。意地悪は許せませんが、やってみるだけやってみます。」
そう言って、
「開けれなかったら、ごめんなさい。」
と思わず日本人のくせでみんなに頭を下げてしまった。
土下座をして土に座っている人達が困惑と戸惑いでざわつく。
父もエーデル侯爵も驚いている。
「高位の者が簡単に頭を下げるなど。」
後ろで王子が苦言を呈している。
失敗したと思ったが、癖だ、仕方ない。
素知らぬ顔して頭を上げると、皆を避けて歩いた。
皆がどういう表情をしているのか見るのが怖くて、一切視線を合わせずドアへ向かう。
エーデル侯爵が騎士と魔術師に、作業を中止して離れるよう指示を飛ばす。
一斉に静かになり四角い部屋の前に私と父、エーデル侯爵、王子だけが立った。
一見、この間と変わらないように見える。
このドアが開かないのか、壁も屈強で?
傷一つない様を見渡す。
「そこを退け。私が開けてみる。」
急に王子が私を押し退けた。
え、手は貸さないんじゃなかったの?
意味のわからない行動に眉を顰める。
「殿下お気をつけて、頑丈ですので。」
エーデル侯爵が声をかける。
「分かっている。」
キリッとした表情でドアに手をかけた。王子っぽい。
グッと腕に力が入っているのがわかるが、びくともしてない。
「ドアノブが周りもしないのだな。引っ張っても全く揺らぎもしない。」
引っ張る動きを腕がしているが音一つしない。
「そうなのですよ、一体どうなっているのか。」
呆れた表情でエーデル侯爵が私を見る。
え、なんでそんな顔で見るの? 私がしたんじゃないよ?
心外だという表情でエーデル侯爵を見る。
「無理だな。」
ふうっとため息を吐き、王子が手を離した。
そして私を見下ろし、
「やってみろ。」
真顔で命令した。
あいつ、やな奴と言いつけるように思わず父を見上げると、眉を下げた父が笑って頷いてくれた。
よし。
胸の前で拳を握って、ドアに手を伸ばす。
本当に開くかな? ルキアーナちゃんのこの膜。
思わず伸ばすのをやめて、手のひらを見つめる。
そしてもう一度拳を握り、ドアノブに手をかけた。
瞬間、フワッと部屋全体がシルバーに光った気がしたが、気にせずそのままノブを回すと簡単に回った。
カチャっ。
普通にドアが開いた。
後ろからヒュッと息を吸い込む音がしたが、そのままドアを全開にした。
中から少し異臭がして、見ると2人座り込んでぐったりしていた。
「大丈夫ですか?」
思わず駆け出した。
「あ、ルキアーナ!」
父の呼ぶ声が聞こえたけど、止まれない。
女性に近付くと更に奥に2人見えた。
全員動いてる。とりあえず生死に関わる状況でない事を確認する。
異臭がする、失禁してしまってるかな。
顔は涙と化粧でグジャグジャだけど、息遣いは普通。目は虚ろ。熱はなし。
花が床に散ってるから、花瓶の水を飲んでたか?
脱水はあるな、手に力が入っていない。
指先に血が付いてる、開けようとしたんだな。
次々に令嬢の状態を確認していく。
全員とりあえず大丈夫そうだなと思って立ち上がると、父と王子とエーデル侯爵が私を凝視していた。
ヒュッと息を吸った。
しまった、私はルキアーナちゃんだった。
急に変な汗がどっぷり出る。
「ご、ご令嬢方は………ぐったりして……ますが、………大丈夫…そうですね?」
苦笑いで私がそう言うと、
「あ、ああ、そうだね。」
と曖昧な返事を父がくれた。
副音でルキアーナこそどうしたんだと聞こえてくるようだった。
「では、あとはお父様にお任せ致します。」
コソコソっと横を通り過ぎようとして、ガシっと腕を掴まれ王子に捕まった。
「ルキアーナ嬢、お疲れ様。休憩場所を用意しよう。付き合え。」
とてもいい笑顔に震える。
そして腕を取られたまま、抵抗もできず連れ去られるのだった。
あ〜、これ、やばいんじゃないの?
閲覧してもらえて嬉しいです。
こんな部屋に閉じ込められるのは恐怖。
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