24 怯えたら黒マリモ
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エーデル侯爵の教え方は擬音が多く、難しかった。しかもロープぐるぐる巻きだし。同属性もいない。
もう魔力を感じる事自体無理なのではと諦めかけた時。
「………そ……………な…」
ん?
「……………ゆぞ………は……ゆ……………はんす……………。」
ボソボソ後ろから何か聞こえている気がする。
王子が喋ってる?
もっさり王子、喋るならもっと大きく!
何か言ってるよと、エーデル侯爵に視線で促す。
けどエーデル侯爵には聞こえないのか伝わらなく、エーデル侯爵が首を傾げる。
「…………だ…………ち…ぞ…………。」
体を動かそうとするけど、散々ウゴウゴ動いたから力がもう入らず、動けない。
筋力無さすぎ……。
瞳を横に動かして、後ろッとアピールする。
物凄く見てくれるけど伝わらない、これじゃただの眼球の体操!
ああ、勝手に喋れないし、体を動かせないとか面倒くさい。
も〜伝わらない。
けど、私が「殿下が喋ってる」って突然言って刺激にならないだろうか?
自分に意識が向いてるってなったら、また壁でプルプルするよね。
それこそ喋るって事をしなくなりそう。
その間も、「え、」とか、「う、」とか聞こえてくる。
はっきり、もう少し大きく喋ってくれたらいいんだけど……。
「………………。」
モゴ、ウゴウゴ、動けない。このロープめ‼︎
「ですから、同属性の方もしくは互換性のある属性の方に魔力を流して感じる事が1番の近道………。」
エーデル侯爵も気付かず、ずっと喋ってる。
「だ…………、ま……ち…………。」
でも何か聞こえてる。
動けない苛立ちが募って、もう無理!
「殿下、発言ははっきりお願いいたします‼︎」
と強めに言ってしまった。
途端に
ガシャーン、ガタ、バタ、ドン、ゴトゴト……ゴト……
すごい音がして静かになった……。
あー…やってしまった。
天井を見上げて、ガクッと俯くが後の祭りだ。
慌ててエーデル侯爵が後ろに向かって行った。
モゴモゴ体を捩って振り返ると、王子の姿は見当たらなかった。
でもエーデル侯爵が屈んで机の下をのぞいてるから、そこにいるんでしょう。
じんわり上に伸びてみると、机の下に黒い物体が縮こまっているのが見えた。
その姿を見て、本当申し訳なくなる。
ああ、もう、病院でも大きな声、強めの口調はダメって言ってたじゃん!
「殿下、大丈夫ですので、出てきましょう。」
優しい口調でエーデル侯爵が呼びかけている。
全く出てくる気配がない。
「ルキアーナ様には自由に発言できない魔法も施しますから。」
サラッと不吉な事が聞こえた気がしたが、それでも私は申し訳なさに苛まれる。
これではダメだ。私のせいだ。
王子も頑張って他人と一緒に受講してくれたのに。
何か発言しようとしてたのに。
そう思ったら、もう立ち上がる事しか考えてなかった。
グッと体に力は入れたが、思ったほど力を入れずに見えないロープが切れて立ち上がることができた。
音を立てずに立ち上がると、エーデル侯爵とは反対側から近づき、殿下から3メートルほど離れた所にしゃがみ込んだ。
机の足の間にもっさり髪が見える。
膝を抱えてモッサリ髪が鎮座して、差し当たり黒マリモの様になっていた。
目線をその頭に揃えて、ゆっくり静かな声をかけた。
「殿下、申し訳ございません。」
ピクリと殿下の肩が動く。
同時にエーデル侯爵が驚いた声を上げる。
「ルキアーナ様、どうやって………!そんな床……。」
すかさず手で制止する。
「殿下の声が聞こえてきて、しっかり伺いたく、焦って発言してしまいました。本当に申し訳ございませんでした。」
床に手を付き、土下座のように頭を下げる。
エーデル侯爵が息を呑んだ気がしたが、気にしない。
「それに以前お会いした時、助けていただきありがとうございました。ずっとお礼が伝えればと思っていました。」
先日は本当に王子のおかげで、侍女さんに出会し助かったのだ。
あのままだと、夜通し歩く羽目になっていた可能性があったのだ。
王子が何も言わないので、更に頭を下げたままお願いをする。
「もしよろしければ、先程殿下が話された事をお聞かせ願えないでしょうか?」
頭を下げたままでいると、王子の方から布が擦れる音がした。
ゴッ‼︎
「イッタ………。」
私の姿を見て、驚いたみたいだ。
頭を打ったか。
でも、今は動けない。
こっちへの歩み寄りの気配を感じるから。
以前病院で、自身の殻に入ってしまった子に、こちらの声が届くような意表をつく事をする事があると聞いた。
意表につながるかわからないが、視線を低くして精一杯謝罪しようと思ったら、こちらの世界ではしない土下座になった。
「……………あ。」
王子のか細い声が聞こえ始めた。
よし、このまま待つ。
「……あ………………あ…………あ……………………あ……。」
「…………。」
顔ナシの様な声が聞こえ始めた。いい感じ。
「…………あ…あ…あの、……あの、…あの、あの、あの……。」
「…………。」
あのあの連呼する人形に進化してきた。
「あ、あの、……あの……あた……あの…………あのあた…。」
あのの活用みたいになってきた。
そう思ったらおかしくなって、少し背中が震えてきた。
「あ………たま、あ、……あ…げ、…………あた…ま、あげあげ………あげ…。」
頭アゲアゲ。
もうダメ。
「ふ、…ふふふ、あはははは。」
小さく笑いながら起きてしまった。
「あはは、あはははははははははは。」
おかしくてお嬢様笑いも吹き飛んで笑ってしまった。
「あ、え、あ、えっ、えっと、」
思わず笑い出した私を見て、王子が少し驚いて戸惑っていた。
「殿下、笑ってすみません。そして、驚かせて本当に申し訳ありませんでした。」
ニッコリ笑うと、王子はビクッとなって、手をモジモジさせ始めた。
「だい、大丈夫」
とても小さな声で答えてくれた。
座ったまま話を続ける。
「お話お聞かせ願えますか?」
「こ…………これ以上、ち、ち、近づかないなら……。」
そこが問題か。
「かしこまりました。元の席に戻っておきます。」
ゆっくり立ち上がると、裾をサッと払って踵を返した。
「これは驚いた。」
エーデル侯爵も目を満丸くしている。
殿下に見えない方の手で侯爵を手招きをする。
ハッとしてエーデル侯爵も、
「殿下、私も元の位置に戻らさせていただきますね。」
と断りを入れて移動した。
席に着いて姿勢を正して待つ。
しばらくすると。
こっそり立ち上がる音がして、後ろからモジモジ動いているんだろうな的な音がする。
エーデル侯爵も張り付いた笑顔で様子を見てる。
「や、……属…属性の、…………。」
ああ、話し始めてくれた〜。
聞こえる声で話始めてくれた嬉しさで、机の下でガッツポーズする。
が、しかし、ここから、めっちゃ小声早口が始まる。
「属性の相性でいうなら、闇は闇だけではなく相反する属性だけど、治癒とも魔力の質は近いと文献にあったので抵抗はなく相性が良いのではないかと思う。それに、治癒魔法は誰に使っても、気分が悪くなる者はいない。だから、治癒魔力は全属性に適正を示し、相性は良いと考えられる。となると無属性のルキアーナ嬢も治癒属性の者には適してくるはずで、治癒属性の数は闇や無属性よりは人数がいるはずだから、試すなら治癒属性と行うと魔力の流れがわかるのではないかと。僕はやらないけど。」
え、え、え、え。
待って、小さすぎて聞こえなかった。
振り向けないし、わからないんですけど?
何今の、すごい早さで喋ってた。呪文みたいだったし。
「僕はやらないけどしか聞こえなかった。」
混乱して、エーデル侯爵を見る。
なぜかわからないけど、歓喜の表情。
「聞こえました?」
コソッと聞いてみる。
「身体強化魔法を使い聴力を上げましたので、聞こえました。」
え、ずるくない?
「おっしゃる通りですね。確かに治癒属性なら誰にでも抵抗なく魔力が流せるでしょう。私は治癒魔法を使える者は魔力が少ないので、流れを探るために魔力を消費させるのは悪手という思いから、考えから外してしまっていました。少人数に僅かに流す分には十分可能ですね。殿下、ご指摘ありがとうございました。」
「…………いや、ちょっと思っただけ。」
ストンと席に座った音がした。
「侯爵様、どういう事だったのでしょう?」
「殿下が魔力を流してもらう相手が治癒属性なら、ルキアーナ様も抵抗なく受けれるのではないかと助言してくださったのですよ。」
私の為を思っての発言だったのか。
めっちゃ良い子、もっさり王子って呼んでごめん。
ちょっと感動する。
「助言をありがとうございます。」
前を向いたまま、ゆっくり静かな声でお礼を言う。
もちろん返事はない。モジモジ音だけ。
その後、王子は一言も発言しなかった。
ただ殿下に発言の許可をもらいながら私とエーデル侯爵の問答の時間が過ぎていき、そんな問答にも、少しビクつく感じはあったが、再度私が魔法ロープで縛られる事はなかった。
けど、王子は聞いているんだなという空気は感じていて、穏やかな時間の中、エーデル侯爵が、
「次回は治癒属性の方に協力していただいて、魔力の流れを掴んでいきましょう。本日はここまでとします。」
と締め括った。
そして後ろの空気がまた動いたような気がしたと同時に、エーデル侯爵が腰を折って礼をした。
王子が帰ったんだと思って振り返ると、やはり誰もいなくなっていた。
それから私は算術、語学、歴史などの講義を1人受けて本日の授業が終わり、帰途についた。
自室に着いた時には、初の王宮内教養でものすごく疲れたみたいで、帰ってドレスのままベッドで爆睡したのは仕方ないと思う。
………‥…ルーラに怒られて理不尽、あれ、絶対魔法学で縛られたのがいけなかったと思うのだった。
閲覧していただき、ありがとうございました。
王子が黒マリモから進化できて良かった。
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